ユビワモンド。
「ぼくねえ、おおきくなったら、おかあさんにユビワモンドかってあげるね。」
幼い頃の智也は口癖のようにそう言っていた。智也の母はそれをいつもニコニコと聞いていた。
智也は3人息子の次男だが、3人のうち、そんなことを言ったのは智也だけだった。
そんな智也はいよいよ“ユビワモンド”を買う時期を迎えた。相手は母ではなく、怜羅だが。
就職して2年目の後半の智也なので、あまり高いものは買えないが、怜羅や怜羅の両親に喜んでもらえるようにしたいと思っているのだ。
海外転勤辞令が出たら結婚、ということも考えたが、早く一緒に住みたいと思ったのだ。そして何より、2人の関係をオープンにするには、結婚が最善だということもあった。
ブルートパーズの指輪は、なかなかの威力を発揮し、怜羅のまわりをウロウロする男性は減ったが、それでもオープンにできない分、智也のヒヤヒヤは止まらない。智也にしても、モテないわけではないので、怜羅も嫉妬でヤキモキしていたのだ。
「結納が済んだら、オープンにしよう。」
2人でそう決めている。オープンにしたら、怜羅は転職の準備を始める予定だ。部署内の結婚はたいてい、女性が異動になる。なので結婚と同時に退職して、派遣社員として働くつもりなのだ。
今日は婚約指輪と結婚指輪を選びに行き、その後、式場を探しに行く予定だ。しかし、智也がクリスチャンのため、厳密には挙式は、智也が洗礼を受けた教会で挙げ、披露宴のみを結婚式場で行うことになる。
さて。本日の一件目のイベント。指輪選び。先日のジュエリーショップに行く。先日の店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。…あら、先日の…。」
「はい。とても気に入っています。」
怜羅が右手を見せると、満面に笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。本日は何をお探しですか?」
「婚約指輪と結婚指輪を選びに来ました。」
「まあ!おめでとうございます。」
また更にうれしそうに微笑んだ。
彼女は、前回の怜羅の好みを大体覚えていたので、予算と好みの条件をクリアしたものを即座に何点か見立ててくれた。ティファニー風のもの、スクエアにカットされたダイヤがつかわれているもの、ダイヤ以外の宝石のもの等々。色々と目移りする中、ある指輪が視界に飛び込んできた。
「これ、可愛い!」
それはハート形にカットされたダイヤのまわりにカラーダイヤがあしらってあるものだった。こちらは一生モノなので、可愛すぎるデザインを避けた方が無難かもしれないが、怜羅の目はもう釘付けだ。
「それ、婆さんになっても着けるんだぞ?」
「う…。そっかー。」
「大丈夫ですよ。最近はどんどん変わっていますから。」
「悩むなあ…。」
「では先に結婚指輪をお決めになりますか?」
などなどのやりとりののち、シンプルな結婚指輪と、最初に気に入ったハート形の婚約指輪に決めた。
「仕上がったら、また一緒に受け取りに来ようね。」
「そうだな。さて。昼メシ済ませたら、式場探しに行くぞ!松茸ご飯でも食いに行くか?」
忙しくも幸せいっぱいの秋の一日だった。




