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和服を前に~母の思いと怜羅の答え~

「お帰り。ちょっと来て。」

帰宅するなり、怜羅は母の和室に引っ張っていかれた。

「これ。見て。ステキでしょ。」

大事そうに、高そうな紙-たとう紙とかいうらしい-の包みをそっと開けると、和服独特の色合いと艶の見事な生地が現れた。

「キレイだね。買ったの?」

「気のない返事ね。怜羅のよ!お嫁入り道具!」

「はぁ?何で?早すぎでしょ?」

「何言ってるの?もうずっとアンタが高校生の頃から少しずつ買い揃えてきてるのよ。…そろそろ、見せてもいいかと思ってね。」

ちょっと涙ぐむ母。

「お母さん!まだ決まってないし。会ってみただけで、キチンと挨拶にも来てないのに、涙ぐんでどうすんのよ。」

「智也君になら、安心して怜羅のこと、お嫁さんに出せるわ。」

「だから、付き合いだしたばっかだし、やっと…」

エッチしたところなんだから!と言いそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。

「やっと…、何?」

「なんでもない!着替えてくるから。お母さん、ゴハンの支度、これからなんでしょ?」


『最近どうよ?』

夜も更けて、もう少ししたら寝ようかな、と思っていたところへ理子からのLINEが入る。

『お母さんが、嫁入り道具とか言って和服を見せて、涙ぐんでた。気が早いっつーの!』

『笑笑笑。おばさんらしいなあ。よほど後輩くんのこと気に入ったんだね。』

『まあね。それ自体はよかったと思ってる。』

そう。智也が先日の、宗教のことですぐに動いてくれたことで、怜羅はとても安心したし、怜羅の母にとっても、それはなんとも好印象だったらしく、すっかり気に入ってしまった。智也は、まさにピンチをチャンスに変えてしまったのだ。


怜羅にとって、今回の智也の行動は、色々と考える機会になった。

人間、正直なら良いと思っていた。


竜夫は正直だった。が、それだけでは、ご縁は繋がらなかった。図々しいところもあったし、浅はかなところもあった。そこがイヤだった。しかし、正直ではあった。年齢は怜羅の4歳上だが、様々な行動から、大人とは思えなかった。それに、反対されたときにアクションを起こさなかったことも、今後について考えさせられた。一緒に生きていく相手にはふさわしく思えなかった。


智也は、どこまで正直か、実のところまだよく知らない。が、自分に自信を持っている。とにかく会わせてくれ、とご縁をつなぐ為のアクションを速攻で起こした。ビジネスで言うところのクイックレスポンスである。年齢は怜羅と同い年だが、包容力を感じる。


正直さは必要だが、それだけでは一緒に生きていく上で無理があるということ、年上だからといって、大人とは限らないということも痛感した。


竜夫とは、両親に反対されたから別れたわけではない。反対されたことによって、相手の行動を見て、自分の意思で別れたのである。この点に関しては、強引に別れさせずに、しばらく放置しておいてくれた両親に感謝である。


あの花冷えの夜、どうして自分が答えを出したのか、どうして竜夫じゃダメだったのか、和服と母の涙を見て、答えが引き出せた怜羅だった。

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