田所退散。
『田所がまた言ってきたから怒ったら、菊川に「キツいこと言わないでやって」って言われた。しつこいから困ってんのに!』
昼休みに、涙目で智也にLINEを入れる。智也とのことをオープンにしない方が良いだろうということで、秘密にしているだけにやりづらい。
『やっぱりオープンにしようか?』
夕方近くに返信が来た。
オープンにしたら、田所のことは片付くけど、他のことは色々とやりづらくなる。だからこそ、智也のことを話さないでいるのだ。怜羅が無駄に“怖い女”で通すしか、思いつかないのだ。もし、今日のあれでも懲りないようなら、お祓いに行くべきかと考え始めた怜羅だった。
『もう少し様子を見て、お祓いしてくるかもしれない。』
『気は確かか?』
『相手に鉄拳をプレゼントするより平和でしょ?』
『納得。霊感商法は気をつけて。』
…早く帰って来てくれるといいな…。
智也の出張初日にして、心が折れ気味の怜羅だった。
翌朝、出社すると、通路に田所が立っていた。知らん顔して通り過ぎようとする怜羅に声をかける。
「おはよう。昨日は俺も無神経だったよ。」
その一声が怜羅の神経をピキッとさせる。
「はぁ?俺も?無神経は、アンタ一人でしょうが!アンタって、さ…。」
「おはよう。お二人さん!」
菊川が二人の間に割って入ってきた。
「岡田。打ち合わせがあるんだ。コピー手伝ってくれ。」
「あ…。」
「急いでくれ。田所、悪いな。」
菊川に続いて、急いでその場を離れる。
「これをコピーしておいてくれ。」
渡されたのは、クリアーファイルに入った、急ぎとは思えない、ほんの数枚の書類だった。
「これって…。」
「それは、今日中でいい。昨日、寮で田所と少し話したんだ。あのときは、反省してたんだけどな。それより、あのままだと田所を殴りかねない勢いだったから。」
「…ありがとう。会社だけじゃなくて、夜もけっこうLINEいれてきたり、電話してくることもあるから困ってたの。」
「そうだったのか。でもなあ、そんなに悪い奴でもないぞ。友達として、メシくらい行ってやれば?」
「やだ。友達としてでも、なんとなく二人でって思えない。」
「そのハッキリした性分も気に入ってるらしいぞ。」
「余計なお世話よ。…じゃあ、コピーしておくわね。今日のことは恩に着るわ。」
菊川が間に入ってくれたおかげで、お祓いは必要なくなりそうだと、怜羅はホッとして、コピー機に向かう。
昼休みのこと。社員食堂にいたら“放送局”がやってきた。
「怜羅、ちょっと小耳に挟んだんだけどさ。フリーになったとたん、モテてるらしいじゃん。」
…竜夫と別れたことを“報道”したの、アンタでしょうが!
「何の話?」
「同期の中でウワサになってるでしょ?」
…あーあ。始まった。
「それに、私のところにも怜羅のことで何件か問い合わせ来てるんだけど~。」
こういうネタを“取材”して“報道”することが生きがいなのか、この手の話題になるとイキイキしている。怜羅がもっともイラっとくるタイプの一人だ。
「相変わらず、楽しそうね。自分はどうなのよ?人のネタばっか探ってないで、自分のことなんとかしたら?」
「怜羅、すぐ怒る~。」
…やれやれ。田所もだけど、コイツも退散してほしいわ。
コメカミがピキッと音を立てそうな怜羅だった。




