待っててね。
ケーキをお腹いっぱい食べて帰って、しばらくしたら、智也から電話があった。
「明後日から出張に行ってくるね。帰りは、またお迎え来てくれる?」
「お土産の内容次第ね。」
「なんだよ~。ひでーな。」
「ウフフ。ホントは帰って来てくれるだけで十分。」
「わかってる。ちゃんと何か買ってくるよ。…ところで例の同期の男、大丈夫?」
智也としては、田所のことが気がかりである。
「あれ以来、話してない。LINEも来てない。」
「…何かあったら言えよ。」
「わかった。」
しばらく智也の顔が見られないのはさみしいけど、目が合わないように、知らん顔するのも大変だから、少し楽かもしれない。
翌朝、早くに智也から『待っててね。行ってきます。』というメッセージが入っていた。始業前の静かなひとときに、オフィスの窓から飛行機が飛ぶ様子を見て、智也が乗っているかも、と思いを馳せていると、真後ろから一番聞きたくない声が聞こえた。
「おはよ。岡田さん。」
田所である。無視してしまおうか、しばし迷って振り返る。
「おはようございます。何か御用ですか?」
「つれないなあ…。今日、お茶しない?ハワイアンパンケーキなんて、どう?」
「ちょっと、話がある!」
通路に強引に連れ出して、まわりに人がいないのを確かめて、大きく息を吸い込む。
「田所。アンタってバカ?」
「どうして?」
「断っているのが、わからないの?しかもよその部署に入ってきて、そんなこと言う?」
「同期の友達として、お茶に誘うのもダメなの?」
「他の同期と行きな!私はアンタとお茶する気も、食事する気もないの。」
「その気の強いところも、けっこう好きなんだよな…。」
「はぁ?」
怜羅の不機嫌が一気にピークに達した。
「同期だから、カドが立つのは困ると思ってガマンしてきたけど、ハッキリ言うわね!私、頭が悪い人と、しつこい人が死ぬほど嫌いなの!」
「そんなあ…。」
大の男が、小柄な怜羅の前でうなだれる。これでは、もし誰かに見られたら、怜羅がいじめているのか、別れ話のもつれか、と疑われても仕方ない状況である。それこそ、誰かに見られたら困るので、田所を放置して席に戻る。
智也の席に目をやる。智也のいないデスクを見るのは、さみしいような、ちょっとホッとするような…。
「田所にあまりキツイこと言わないでやって。」
コピー中、背後に聞こえた声に振り返ると、同じ部署の同期の菊川豊だった。
「知ってたの?」
「田所が岡田に気があることは、同期の男はみんな知ってるよ。」
「何ソレ?」
「岡田が異常に冷たいことも 、みんな知ってるよ。」
「だって、そういう風に思えないし、しつこいんだもん。」
「あそこまで言うことないだろう?…もう少し優しくしてやってよ。」
菊川はそれだけ言うと、ファイル片手に去っていった。
菊川にしても、同期の男らにしても、田所のしつこさを知らないのだろう。
…これじゃあ、私が悪者じゃないの。気分が落ちるなあ。
“待っててね。”のメッセージに少し素敵な気分だったんだけどな。




