そういう問題じゃないから。
怜羅は人通りの少ない通路の端で、不機嫌そうに電話に出る。
「田所です。何なら良いの?」
「そういう問題じゃないから。」
「どうして?」
「田所は、同期の一人。それ以上でも、それ以下でもない。」
「食事の一回くらい、付き合ってよ。」
「ムリ!」
「そんなぁ…。」
「急いでるから、切るわね。」
電話を切って、自分の席に戻ると、智也と目が合った。ちらりと一瞥だけして目をそらす。部署内のことなので、特に慎重にしないといけないのだ。
定時になり、怜羅は少しだが、残業をすることになった。視線を感じて顔を上げると、田所が少し離れたところから見ている。智也の方に視線を向けると、田所の存在に気づいていないようだ。
会釈だけして書類に視線を戻そうとしたときだった。
「岡田さん、ちょっと…。」
声が聞こえて、顔を上げると、田所が小さく手招きしている。怜羅は露骨に迷惑顔をして見せてから、再び智也に視線を走らせる。智也と目が合った。
…LINE攻勢の相手、コイツなの〜。
ダメ元で目で訴えてから、立ち上がり、廊下に出る。
「あの…。」
「何か用ですか?急ぎの仕事をしてるから、困るんですけど。」
「俺、何か悪いことした?最近、怒ってない?」
…やっと気づいたか。この鈍感野郎!
「断ってますよね?ずっと、断ってますよね?」
…智也、助けて〜。
「え?」
「同期会で会ったとき、気まずくなるのがイヤだから。これ以上、そういうお誘いしないでもらえませんか?」
「そんなぁ…。」
「では!失礼します!」
かなりの怒りモードで席に戻ると、智也と目が合った。
…どうして助けてくれなかったのよ!
目で訴えてみたが、言いに行けないもどかしさにイライラが募る。デスクに置いてあるスマホに目をやると、LINEの着信を告げていた。
『もうすぐ仕事終わるから、メシどう?』
智也からだった。
約束の場所に着くと、智也はもう席に座っていた。顔を見たらホッとして、涙が滲みそうになった。オーダーはしたが、何を頼んだかも覚えていない。
「ごめんね。無理言って。」
「いいよ。明日、課長に怒られとくから。」
「え…?」
「冗談だよ。」
固まる怜羅を見て、智也が笑う。
「LINE攻勢のヤツって、さっきの?」
怜羅は黙って頷く。
「助けて、欲しかった。」
「迷ったんだけど、俺が出て行くとややこしくなりそうだったから。…ごめんね。」
智也の言うこともわかる。仕方ないと頷く。
「あの人、同期で、気まずくならないように避けているのに。しつこいから、嫌いなの。」
怜羅は泣きそうになっている。
「そうだったのか。…ところで、今日の相談したいことって?」
…いよいよ、話さないといけない。智也の反応が怖い。ここまででダメになってしまうかもしれない。
智也。こんなに大好きなのに。
怜羅は深呼吸をした。




