チョコレート、好き?
残業を終えて帰宅して、遅い夕食を済ませ、風呂から出たところで智也から電話がかかってきた。
「彼と最後に話したんだね。」
「うん。これでもうカーチェイスも心配ない。心配かけてごめんね。」
「そうか。よかった。」
「ところで、怜羅って、チョコレート好き?」
「好きだよ?」
「じゃあ、お土産に買っていくよ。」
「本当?じゃあ美味しいの買ってきてね。」
自然に声が弾む。
「秘書の人におすすめをきいてみるよ。」
「わーい!」
「ところで、いつ帰って来られるの?」
「今のところ予定通り、2週間だよ。」
「そっか。チョコはもうしばらくお預けね。」
「こら。チョコだけかよ!」
「そうだよ。」
「なんだよ。ひでーな。」
お互いの笑い声が聞こえる。
電話の向こうは、遠い遠い香港だと思うとちょっと切なくて、言葉が途切れる。
「帰ったら、どこ行きたい?…怜羅?聞こえてる?」
「あ。ごめんね。どこがいいかなあ。」
「考えておいて。」
「わかった。考えとく!」
今の怜羅は、智也と話せば話すほど、もっと話したくなっている。早く会いたくなる。竜夫の時は、怜羅はこうではなかった。強引さを“想われている”という気になっていただけだと、最近になって気づいたのである。
「どこにしようかな。」
さっそく、iPadを立ち上げ、デートスポットを検索してみる。
…ショッピングでもいいけど、前回と同じというのもなあ…。ディズニーランド、は遠いし。映画…急に田所の顔が浮かんできて、意気消沈。映画は却下!どこか、遊園地とか、…水族館かあ。
「水族館、いいな。ペンギン見たい!」
大きな声で独り言を言う怜羅だった。
「元彼と会ったこと、知らないみたいだったな…。」
ホテルでビールを片手に智也は呟く。“対決”のことを知らせたくないと思っていたが、竜夫のような男なら言うかもしれないと、少々気掛かりだった。智也は、竜夫に対して“幼稚で無神経”という印象を受けたのだ。もう、怜羅を怖がらせないで欲しいと心から願う智也だった。
「怜羅…。」
…どんな表情で会ってくれるんだろう?会社では気が強いという印象ばかりの怜羅だが、話すたびに違う一面が見える。もし頼んだら、空港でどんな表情で出迎えてくれるんだろうか?もし俺が手に触れたら、もし抱きしめたら、もし…もし…。
「あー!何考えてんだ!俺!」
付き合ってもいないのに、告白すらしていないのに、智也の頭の中で、次から次へと想像がわいてくる。
「の、飲みすぎだ、飲みすぎ!明日も商談だし!寝よ!」
ベッドに入ってガバっとブランケットをかぶる。
サイドテーブルには、空き缶が2本。飲んべえの智也にしては控えめな量だった。




