同期のしがらみ。
『お疲れさまです。今日、彼と電話で話しました。きちんと別れることができました。』
夜遅くに、怜羅は智也にLINEで報告をした。ひょんなことから、心配をかけてしまったので、報告したかったのだ。
『よかったね。今日は、お客さんと食事しているので、明日電話します。』
すぐに返信が来て、なんだかホッとする怜羅だった。
翌日の昼休みのこと。怜羅たちが座るテーブルに同期の“放送局”井上香奈が珍しく近づいてきた。怜羅はこの手の人種が苦手なので、避けているのだが、時々こうして情報収集に近づいてくるのだ。
香奈はまず“報道”を始める。
「ドコソコの部署の誰と誰が付き合っているらしい。」というネタ数点をいつものように“報道”しだした。
…あーあ。始まった。鬱陶しい。早くどっか行けばいいのに。
話が途切れたようなので、ホッとしかけた時、話がこちらに振られた。
「私達同期も、そろそろ結婚なんて、ありそうよね。怜羅?」
「…私だったら、無いわよ。」
「どうして?彼氏、年上でしょ?」
「別れたから。」
「どうして?」
「悪いんだけど。そっとしておいてくれる?」
「どうして?」
「そっとしておいて。」
「どうして?」
…この唇、ホチキスで留めてやりたい!
「香奈。アンタはデリカシーとは無縁のようね。」
「だってぇー、知りたいんだもーん。」
「悪いけど、急ぎの仕事があるから、もう行くね。」
これ以上、香奈と話したくないと思った怜羅は、席を立った。
午後、バタバタが少し落ち着いてきたところへ、香奈が内線をかけてきた。
「何?」
「話を聞きたいんだけど。」
「そっとしておいてと言ったはずよ。アンタ、そういうことばかりしてるから嫌われるのよ。」
「アタシ、嫌われてんの?」
「知らないなんて、幸せね。」
怜羅は、それだけ言って受話器を置いた。
「岡田さん、ちょっと小耳に挟んだけど…。」
定時の少し前のドリンクコーナー。残業前に、休憩していると、顔だけ知っている同期の男性に話しかけられた。
「何?」
「今、彼氏いないって聞いたんだけど…。」
「いませんけど、何か?」
…犯人は、香奈だな。
「今度、食事に行かない?」
「同期会?」
「いや、そうじゃなくて。…じゃあ、映画は?」
…こいつ、ヤバい。誘う気だな。トボけちゃおっと。
「同期会で映画?ありえないでしょ?」
「そ、そうだな。アハハハハ!」
「じゃあ、仕事に戻るから。」
怜羅は逃げるようにドリンクコーナーを立ち去る。
彼がタイプじゃないこともあったが、今は、そういう話に乗りたくないのだ。
残業中、視線を感じて顔を上げると、先ほどの同期の男性がいつものように少し離れたところから見ていた。会釈をすると手を振って帰っていく。ここ数日、残業をしていると、いつもそうだ。
彼は異動してきたばかりらしいのだが、怜羅はいまだに名前を知らない。というより覚えていないのだ。
残業を終えて帰ろうとしたら、LINEのメッセージが来た。差出人は田所誠一。同期カテゴリに登録されている。
『映画に興味ないなら、ドライブはどう?』
どうやら、先ほどの同期は、田所誠一というらしい。同期つながりで友達登録していたようだ。
怜羅としては、まだ智也のことは話したくないが、田所の誘いは断りたいところだ。
「既読スルーで気づいてくれるといいんだけど…。」
田所には、敢えて返信をしないことにした。




