反対中。
「あんな人、ダメ。付き合うだけでも許しがたいのに結婚だなんて!」
昨夜も岡田怜羅は母親とやり合った。理由は、結婚のこと。付き合って2年になる、野口竜夫との結婚を反対されているのだ。竜夫の家族は賛成しているのだが、怜羅のほうはもうずっと平行線だ。コピー機の前でため息をつく。
…こういうタイプだったら、お母さんも賛成するんだろうな。
目の前を後輩である山下智也が通り過ぎる時に漠然と思った。同い年だが、後輩である智也は、有名私立大学卒業で、チャラ男でもない。人当たりも良い方だ。さらに次男ときている。家も比較的近い。経歴や見栄えの大好きな、怜羅の母親がいかにも好みそうなタイプだ。
一方、竜夫は、大学中退。チャラ男まではいかないが、チャラチャラしている。人当たりは良くない。親が同居希望の家の長男。家は遠い。遠距離とまではいかないが、中距離に相当するだろう。思わず、またため息をもらす。
「岡田さん、ちょっといいですか?」
振り返ると智也が立っていた。
「はい。なんでしょう?」
「使い方がちょっとわからないプログラムがありまして…。」
「アンタ、私に頼むと高くつくわよ。」
「お願いしますよー。」
智也のパソコンを見に行くと、かなり苦戦した形跡があった。
「あー。これかあ。…あ。わかった!」
「イケそうですか?」
「余裕よ。山下!メモしなさいよ。」
疲れからか呆然としている智也にメモ用紙をポンと投げてよこす。…が見ているだけなので一喝する。
「メモっつっただろ!聞いてんのか?」
「…は、はい。」
「見てるだけじゃなくて、手を動かしな。メモしないで次に聞きに来たらわかってるわよね?」
この時、智也が苦笑していたのを、怜羅は知らない
「もう、別れよう。付き合う意味がわからない。竜夫のワガママを飲み込むことも疲れたの。」
智也に対して、母が喜びそうだなんてチラリとを思ったことも、智也を一喝したこともすっかり忘れかけていた頃。怜羅は突然の別れを竜夫に言い渡した。ひんやりとした、花冷えの夜のことだった。
「せめて会って話すべきだろう?この電話一本で終わりなんて、ひどいよ!」
電話で別れ話をした怜羅に対する竜夫の言い分は、普通に考えたらもっともだが、会って話しては、泣かれてやり直す、という繰り返しは、もううんざりだったのだ。
「何にしても、しばらく会わない方がお互いのためだと思うわよ。同じことの繰り返しは、もうたくさんよ。」