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第6話 半人半鬼

 久しぶりに動き始めた素馨ではあったが、早々に不足を感じていた。

 何しろ硬直しきった体である。動かし方を忘れてしまったように、まだ幾分ぎこちない。

 頭の芯が、鉛に置き換わったような倦怠感もある。

 何より酷いのは、喉の乾きだった。粘膜が張り付いて、息が詰まる寸前である。

 だが、手を見た時、ふと気付いた。

 眼球フェチの目を刳り抜いたことで、指先が血に濡れていた。

「一応は、血か」

 先ほどの少女は、近付きたくない気色の悪さがあった。その血だと言う点に、思うところがないではない。有り体に言えば、遠慮したかった。

 だが、緊急事態である。選り好みをしている場合ではないと自身に言い聞かせて、一息に舐め上げた。


「ぬ――――ぐ――――」

 ぞわりと胸の奥に熱が生まれた。

 辛抱できず、素馨は指先を銜え込む。

 子供でもなければ、眉を顰められるような奇行である。

 だが、眉目秀麗な少年である。ぴちゃりと音を立てながら指を啜る様は、背徳的な色気を感じさせた。

 ただの奇行ではない。

 翁長素馨は、何者であるか。彼は、吸血鬼である。血を飲むという行為は、彼の生まれ持った性だ。

 だから、彼は、体の中に燃える火を感じた。

「く……は、ぁ――――!」

 胸の奥の熱が、次第に大きくなる。臨海を迎えたそれが、ずくり、ずくりと脈動しながら、体の中を動く。

 素馨が感じるのは、僅かな不快感と、それを上回る快感だった。


 ただ、それも長くは続かなかった。

「……これ、だけか」

 気怠げに呟く。

 力は補充された。だがそれは、例えるなら、空のプールにコップの水を移した程度だ。渇きはまるで癒えなかった。

(半端者の上に、摂取した血の量が少ないとくればな。この結果は、当然か)

 寧ろ、飲んだ血の量から考えると、取り戻した力は多い。眼球フェチの少女が、見た目よりずっと優れた力を持っていたのだろう。

 それでも、思わずにはいられない/足りないものは足りない。

「流石に、これだけではきつい」

 そこで、くうと、腹が鳴いた。思わず、腹に手をやる。間の抜けっぷりに、素馨は思わず苦笑した。

「く、く。本当の吸血鬼なら、血を欲しがるだけですむだろうにな」

 吸血鬼の性が血を欲しがり、人間の性が飲食物を欲する。今の素馨は、二重の飢えを感じていた。

「成程。どちらも飲まず食わずだと、こうなるのか。……ありがたくない。実に、ありがたくないが、勉強になったぞ」

 皮肉を言いながら、すぐにどうにかできないことに執着しても仕方がないと頭を切り換える。

「さしあたって」と体を見下ろす。そして、顔を顰めた。

 着ているものが、記憶にある寝間着のままではない。ひらひらとした襦袢のような服だった。いかにも頼りがない。下着もないことが拍車をかけていた。

「妙なことを、されていないだろうな」

 いくらでも悪い考えは浮かんだが、それもまた気にしたところで無駄だった。

 それよりも、格好をどうにかするのが先決だった。


「力の残りが心許ないが、仕方がないか」

 素馨が、く、と得体の知れぬ力を込める様子を見せる。

 直後であった。

 素馨を包む暗闇が生まれた。彼の姿は瞬時に見えなくなり、黒々とした闇が、通路の真ん中に居座った。

 吸血鬼の技能である。ここではないどこかを倉庫代わりにして、ものを出し入れする力だ。素馨は単に、【箱】と呼んでいる。

 箱とは言うものの、容量の上限は不明である。更に、幾ら詰めても、これまで素馨に負担がかかったことはない。都合が良すぎる優れものである。

 ちなみに「四次元○ケットだねえ」とは、宮后の言である。

「これで、よし」

 大した間を置かず、通路に居座る闇は晴れた。その時には、既に素馨の姿は一変していた。

 その格好は、近いものを挙げるなら、学校の制服である。

 ただし、形だけならという話だ。上下共に白い学ランに、朱色の毒々しい刺繍が施されているそれは、到底制服とは言えない。

 手袋も白。靴も白である。そのどちらにも、朱色の筋のような刺繍がある。

 膨張色のためか、じっと見ていると、それらの筋が、脈動しているように感じられる。

 一見奇妙な、というよりも悪趣味な服であるが、それでもひらひらした襦袢よりはマシなのだろう。素馨は、ほうと息を吐いた。

「しかし、こうなるなら、服だけではなく、食べ物も少しは入れておくべきだったか」

 独り言つが、後悔先に立たずだった。

 食べ物が潤沢にある状態から、なんの前触れもなく、飲まず食わずの目に遭うなど、誰が予測できるだろう。

「いや……」

 茉莉花のこと、宮后から受ける仕事などもあり、いつ何があるか分からないと、普段から嘯いていたのは誰か。それを思えば、現状は余りに無様だった。

 心のどこかに驕りがあったのではないだろうか。

 どんな敵とも対等に渡り合える=どんな準備も不要と思っては居なかったか。

 災害用の備蓄を家に用意こそすれ、箱に詰めておこうなど露も考えなかったのは、ただの慢心から来る気の緩みではないか。

 考え込みかけ、しかし、すぐに素馨は前を見た。

「まあ、いい。どこかで補給はできるだろう」

 この切り替えの早さは、沖縄流の、なんくるないさなんとかなるさの精神から来るものなのか。事ここに至っても、彼は割合楽観的だった。


 素馨の足下を包む固そうな靴が、固められた土の地面を踏む。

 だが、不思議なことに音は立たなかった。それこそ、毛の長い絨毯の上を素足で歩いているように、まるで無音だ。

 彼の歩きは、堂々としたもので、抜き足差し足といった様子はない。なのに、その場面から音だけを取り除いたように、恐ろしく静かだ。見る者がいれば、彼を幽霊かなにかと勘違いしたかもしれない。尤も、存在感の有り余る彼の少年を見て、幽霊と思えるかは微妙だが。

 一方、当の本人だが、当然戸惑うこともなく、黙々と歩き続けていた。同時に、周囲に目を向けながら、考えを巡らせてもいた。

(どこまで連れてこられた。ここは日本か。外国か)

 先の少女/眼球フェチの言葉は、日本語であった。ならば、ここは日本の可能性が高い。そう考えつつ、辺りを見渡した。

 地面を掘った土壁だ。所々に木の補強もある。そして、石畳の廊下が続く地下通路。まるでテレビで見た手掘りの洞窟である。大した特徴もないが、どことなく和風の感じを受けた。

(だが、どこか違和感がある)

 それは明かりのせいもあった。見るからに現代風ではないのだ。

 点々と続く明かりが、発光ダイオードでもフィラメント電球でもなく、蝋燭のものなのだ。

 確かに通路は長く、電線を引くのは手間だろう。だが、延々と置かれた明かりの数からすると、交換の手間の方が大きい筈だ。寿命が短く、交換の面倒な蝋燭を、わざわざ使うなど無駄以外の何物でもない。

 そう思いながら、ぼんやりと光る硝子瓶を眺めた素馨であったが、ふと足が止まった。

「違う。これは、蝋燭ではない」

 壁面の窪みに置かれた硝子瓶は、揺らめく炎の明かりではなく、蛍のように明滅を繰り返す明かりを放っていた。

 だが、中のものは、どうみても蛍ではない。余り透明度が高くない硝子とはいえ、目をこらせば、中の輪郭がぼんやりと見える。

 もっと目をこらした。

 光源は一つ/大きさは手の平大/形は人型のよう――――と、またも素馨の腹が、空きを訴えた。

 深く考えるのは後だと、歩きを再開した。

 その後ろで、目をそらされた明かりは、ほんの僅かに暗くなった。


 ――――歩く。

 ――――歩く。

 ――――止めどなく、当てもなく、歩き続けた。

 時計もなく、当てもなく彷徨った地下空間は、素馨から完全に時間の感覚を奪っていた。

 常時であれば、体力には自信がある彼も、消耗状態で延々と通路を歩き続ける行為に、流石に疲れを隠せなかった。

 右と前に通路が伸びる丁字路にさしかかったのは、そんな時であった。

 これまでも何度かあった分岐路だが、今回は明確な違いがあった。真っ直ぐ進む通路には、登りの階段が見えたのだ。その奥には、枠から光を漏らす扉もある。

 出口だ。

 気が急いて、足に力が入った。

 だが、咄嗟に彼が取った行動は、前ではなく、後ろに跳ぶことであった。

 駆けようとした際、視界の端に、僅かな煌めきがあったのである。

 それがなにかを確かめる前に、素馨は土が抉れるほど、強く踏み切った。同時に、右からなにかが飛び出た。彼が一瞬前までいた空間が、鋭い音を立てて切り裂かれた。

 ややあって、低い声が聞こえた。

「反応がいいな」

 暗がりから出てきたのは、戦国時代のような具足を身に纏った男であった。

「時代錯誤な格好を……」

 言いながら、素馨は、振り下ろされたものの正体を見て取った。それは博物館か、どこかの道場でしか見たことがないようなものであった。

「薙刀。それも刃付きときた。話も聞かず殺す気に見えるが?」

「無論だ」

「……そうか」

 余りにもあっさりと言われ鼻白む。同時に、ここはやはり元いた日本ではないのかという思いを強くする。幾ら、日本語で会話できるとは言え、相手の考えが、余りにも元いた場所の人間と違いすぎる。

 先ほどの少女といい、出会い頭に殺し合う気満々の人間にしか会わないなど、余りにも世紀末過ぎる。

 しかし、そんな考えがどうでもよくなる言葉が、具足の男からもたらされた。


「巫女殿……茉莉花殿の話では、争いの少ない国から来たとのことだったが、中々どうして。殺されかけたというのに落ち着いているな」

「茉莉花殿、だと?」素馨の目が見開かれ、髪が逆立った。「姉貴を知っているのか! どこにいる!」

「黙れ小僧! 貴様、俺と対等のつもりか? 答える義理などないわ!」

 ひゅ、と軽い音を立てて、薙刀を二三度降る。

「どうだ、なにか感じるか。無理だろう。この圧倒的な力の差を分からないのだろう。魔力一つも感じられぬ無能者め。

 枯れぬ井戸の如く、才気溢れる麗しき巫女殿と比べれば、汚らわしい貴様の存在など、塵芥にも等しい。ここで死ねいっ」

 そう言って、男は薙刀を大きく振りかぶった。

 始め、男の薙刀を、凡そ、こんな狭い通路には向かない武器と見ていた素馨だったが、高々とそれが掲げられたのを見て、目を剥いた。

 通路の天井が、歪んでいる。丁度薙刀の位置に合わせて広がるように、ぐにゃりと形を変えているのだ。

「それは、なんだ?」

「かあっ!」

 男の返答は、一切容赦のない振り下ろしだった。

 本来であれば、邪魔になるはずの天井は、薙刀の道を作るように、如何様にも姿を変える。お陰で、男の振り下ろしは、余りにも容易く素馨の脳天目がけて迸った。

「ちっ」

 素馨が再び背後に飛ぶ。紙一重である。切られた前髪が、数本宙を舞う。

 しかし、それすらも、男の狙いであった。

「なんだと?」

 またも、素馨は驚きの声を上げる。

 全力を込めたと見えた薙刀が、突如として停止したのだ。余りにも現実離れした動きだった。コンピューターグラフィックスで作られた映像でもないのに、百から零へと運動量が切り替わったのだ。慣性の法則を無視したとしか思えなかった

 そして、無理矢理に止めたのであれば、男は体勢を崩すだろうが、今の男にそれは見えない。体を崩した素馨とは対照的だった。

 具足の男の目が、ぎらりと光る。

 そして、動けぬ素馨に対して、薙刀は真っ直ぐに突き出された。

「獲った!」

 勝利を確信した雄叫びが上がる。

 狙いは喉。研ぎ澄まされた切っ先が、易々と貫く急所だ。

 崩れた体勢では、これ以上引くことはできない。体を反らすにも、もう一拍必要だ。

 つまりは、絶体絶命。

 突如として、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた素馨は――――しかし、口の端を僅かに持ち上げた。笑ったのである。


(なぜ、笑っている……?)

 具足の男が思うと同時に、薙刀が素馨を捉える。甲高い音が、通路に鳴り響いた。

「む、う」

 だが、男の手に返ったのは、軽く切り裂かれた肉の感触ではなかった。先ほどの急停止時には感じなかった、激しい衝撃である。

 全身を預けるような突きが止まっていた。思わぬ強い衝撃に、具足の男の手は、薙刀の柄を僅かに滑っていた。

「馬鹿な、受け、止めた……?!」

 驚く男とは対照的に、素馨は涼しい声であった。

「奇妙な技を使うので、初撃は大事を取って避けたが、何のことはない。格好の割に、鍛え方が足りないようだな。遅い。そして弱い」

 これでは罠にもならないと、素馨は笑う。

 だが、とんでもないと、具足の男は戦慄した。素馨は、右手の指二本/人差し指と中指で、薙刀の刀身を挟んで受け止めたのだ。

 素馨の指は、一見、嫋やかですらある。なのに、万力で締められているかのように、ぴくりともしない。彼には、力を入れている様子はないというのにだ。それどころか、十分に余裕を持って止めたのか、かすり傷の一つもないようだった。

 今まで遭遇したことのない事態に、具足の男の思考は混乱した。しかし、ざりと鳴った足下に、男は正気を取り戻した。

「怯えている、だと? 俺が? こんな無能者に?!」

 後退ろうとした自分自身に何よりも激高し、男は両手で薙刀の柄をしっかと握りしめた。

「受け止められたからなんだというのだ! そのまま押し込んでやるっ」

 腹を括った男は叫び、僅かに足の力を緩めてから、勢いを付けて地面を蹴った。

「死ねっ!」

 抵抗は、思いの外少なかった。薙刀がするりと進んだ。

 男は、自分の力に素馨が耐えられなかったからと思った。

 しかし、素馨の手が滑ったのではなかった。そうだったら、どれだけ良いだろうという、大きな間違いであった。

 現実には、素馨の指の間で、刀身が瞬時に薄くなり、ばつりと断ち切られたのだ。

「――――は?」

「脆い」

 ひょいと傾けられた素馨の頭。その真横を、刀身が断ち切られた薙刀が通り過ぎる。

 折れず曲がらずを信条とする刀が、指鋏で切られる。常軌を逸した光景を見たせいか、完全に突きの勢いがなくなる段になってまで、具足の男は、呆然としていた。

 全身で突き進んだため、間合いは最早詰まっている。


 晒してはならない、大きな隙だった。


 当然、その隙を逃す素馨ではない。瞬時に男の懐に飛び込み、槍の一突きを思わせる平手を放った。平手は、男の胸に吸い込まれ、彼を軽々と吹き飛ばした。

 瞬間、男は重力から解き放たれた。地面と平行に飛んだのである。衝撃の強さは、想像に難しくなかった。

 やがて階段に当たるが、まだ止まらない。ごろごろと回り、上昇していくが、勢いはまだ衰えない。時折明かりの入った瓶も巻き込みながら転がり、遂には扉を破る。そして、階上の壁に当たったのか、一際激しい音が聞こえた。

 そこで音は止んだ。男の体が止まったらしかった。


「……ふん」

 見る者がいたなら、これ以上ない完勝と言うだろう。

 それでも尚、素馨は思うところがあったのか、張り手をした形で僅かな間固まっていた。

 ややあってから、ゆるゆると手を下ろし、僅かに息を吐く。

「眼球フェチの血に助けられたか」

 力を僅かなりとも取り戻していなかったら。取り戻した力より、相手が強ければ。

 どちらであっても、事態はどう転がったか分からない。

「厄介だな」

 ここから茉莉花を助けるためには、あの具足の男と同じような障害が、幾つあるのか。次に会う人間も、出会い頭にこちらを殺そうと仕掛けてくることだろう。

 奇妙な道具も、あれで終わりとは思えない。触れずとも、こちらの体を破壊するような武器もあるかも知れない。


 それを思い――――素馨は、笑みを浮かべた。

「間違いなく厄介な状況。それが、楽しいのか、俺は」

 自身に呆れながら、素馨は口元を触る。

 逆境にあろうと、敵が強大だろうと、全て蹴散らせばよい。そのための、力を持っているのだろう?

 その声は、自分の内側から聞こえた。

 咄嗟に、素馨は胸を押さえた。そうしないと、太い鎖で繋がれた獣が、体を食い破り表に出てくるように思えたからだった。

 ぎちぎちと体の中から、喰われている。胸の内側に、牙を立てられている。そんな妄想にすら囚われる。

 出てこようとする獣が、自分の本性と素馨は悟っていた。

 沖縄で暮らしていた時も、時折その本性が沸き上がってきたことがある。それを人としての理性で抑えていた。

 心配はなかった。余裕があったのだ。十分に太い綱を使った、綱渡りのようなものである。踏み外せば終わりでも、可能性は低い。

 それは、これからもずっと続く筈だった。。


「……その筈だったのに」

 獣を抑えきれていない自分を実感したのは、具足の男のことを考えた時である。


 ――――あれほど強く突いたのだ。もしかすると、死んでしまったかもしれない。

 ――――敵が一人減ったな。


 やってしまったという後悔より、殺人を肯定する自分に、彼は驚いた。

(いや、しかし)

 唯一の肉親を奪われ、それが目の前で騙されていると分かりながら、止めることすらままならなかった。そんな時間が、一体どれほど続いただろう。

 何週間? 何ヶ月?

 それだけの屈辱の時間が、固い棘の鑢となり、素馨から人間らしい心を削ぎ落としていったとすれば。

(……寧ろ、もう人の心の方が、残っていないかも知れないな)


 階段を上がり、血を吐いて気絶する男を見下ろした時に、その思いはより強くなった。

 男は、生きていた。しかし酷い有様だった。手足はあらぬ方向を向き、口から赤黒い血を流して痙攣していた。内臓を傷つけたのだろう。

 だが、素馨はこの哀れな男に、なんらの憐憫の情も感じなかった。

「大人しく、姉貴を返さないから、そうなる」

 素馨ははっきりと認識した。

 姉を取り戻す。

 それが、今の彼に残された、たった一つの行動指針だった。

 

 認識さえしてしまえば、頭は回り出す。堰き止められていた水の流れが、一挙に流れ出した。

 現状で使えるものを確認しろ。

 取れる手段は、なにがある。

 目的までの最適な行動は、なにか。


 答えは、秒と経たずにはじき出された。

 素馨は、ごく当たり前に、痙攣する男の体に近付いていった。


 ――――満たせ。


 抑えているはずの、胸の獣の言うがまま、素馨は血溜まりに足を踏み入れた。

鬼になってもシスコン

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