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一回戦 晶龍の導き

季節は新しく命という“灯”を授かった精霊たちが眠りから解かれ春の訪れを確実に感じさせている――




舗装されたとは言えない大小さまざまな石の転がる道を激しく音をたてながら馬車は走る。


窓から流れる雄大な景色をぼんやりと眺める少女―――アリスは、とうとう呆れたといった様子で盛大に溜め息をはく。


「ほんと自由気ままで素晴らしい性格をおもちね?」


指の間接がいい調子で鳴ってくれる。


「王国と逆方向に向かうってどういうことかしら?エクランドさん」


いつもは呼び捨てで彼の名を呼ぶのだが、怒ると少々丁寧語になるようだ。


ふふっ……と首をかしげ微笑む顔は女神のような顔立ちなのだが……、今日は……目が笑っていない、魔力を少し使ったのか不機嫌オーラがゆらめくと共に彼女の長い黒髪もうねる。


しかし、そんな脅しもこの空気な上司には効力を発揮しない。

その辺にいる大男達でも魔力を少しちらつかせば散っていくというのに。

性格の歪んでいる度合が異常なのだろう。


「だって、今は調度“晶龍祭り”の期間でしょ~?行かなきゃ損すると思ってね、ノエル君だってそう思うでしょ~?」


蜂蜜色の長くふわりとした髪をたなびかせ、窓から顔を出して、運転を任されたノエルに同意を求める。


「俺は知らない」


「あれ~?昨日『行く価値はあるな』って言ってたでしょ~」


「晶龍祭りはブルーシェルの一大行事みたいなもので観察の意味合いだ、昨夜貴様に酒を……う……運転に集中させてくれ……」


最後の願いは風に呆気なく消されてしまう。

頭痛を我慢するノエルがアリスの脳内に浮かぶ。


「二日酔いしてる奴にどうして運転を任せられるの、神経疑うわ……」


「だってノエル君が、『五大魔導騎士とあろう方々に運転させられません』って言ってからでしょ~?」


五大魔導騎士―大陸戦争の勝者、五大国それぞれの武力の頂点。

人間の間でいくら魔導を使えても、魔族という壁は越えることは容易でない。

機構で言うと、性能が異なるといったところだろうか。しかし、神は魔族を完全なる個体にはしなかった。彼らの大半は、肉体的な武術や剣術の類いを苦手としているのだ。魔法でこなせてしまうからこそ、接近線で肉体を行使して戦うことができないのだ。

魔法は使えずとも、己の持つ感情や、体次第で、妖刀や魔剣にも手を出すことができる。

騎士道、魔導を極め君臨する存在、それこそが五大魔導騎士なのだ。現在、アリス、エクランドを含めた4人が席を埋めている。



呑気な男だ……とアリスは心の中で呟く。


そんなこんなで会話を繰り広げているうちに蒼の装飾魔法のかけられた“ブルーシェル”の国門(ゲート)、族に言う関所が見えた。


「ま、貴方の目的が何であろうと関係ないわ」


「あぁ、それは勿論さ、お互い深い干渉はしないのも、規則だからね~」


「人混みに乗じて任務から逃走しないでよね。ほんと迷惑なの、良い?絶対よ?」


子供に聞かせるように念を押す。そうでもしなければ、単独で何処かへ飄々と行ってしまうからだ。


「もちろんそのつもりさ~」


途端にエクランドからいつもにこやかな表情が消え、目は獲物を定める狐のように、さらには私の耳元に唇を近づけてくるではないか。


「何を考えて……」


「平和と秩序を刻め――」


耳元に残る低い声の残聴は微かな憎しみが込められているように感じた。


その後ゆっくりと顔を離していくエクランドはすっかりもとの表情へ戻っていて、成り行きでアリスは頭を撫でられる。


「撫でられるような年じゃない」


そう拒みながらも、完全に拒否することはない。


「少しくらい良いでしょ~。ま、気楽にいこうよ、ノエル君だって幼い頃にお祭りなんて行けなかっただろうから……ね?」


「それはそうだけど――」


気楽だなんてどの口が言うか……


けれどノエルは本当に幼い頃、同い年の子供が友達と遊び成長する時間を銃の扱いに費やしてきた。


こじつけだろうが、この男の感情はどうなっているのか理解に苦しむ。



「は?五大魔導騎士様が乗ってるって?お兄ちゃん、嘘は言っちゃいけないよ~」


何やらいつの間にか関所の申請をしているようだが、外で揉めている。


「……騒がしい……」


席を立ち馬車の扉を開けようとしたら、エクランドに手を捕まれる――


「面白そうだから、もう少し座っていようよ~。ピンチになったら出ていけば良いんだから、ね~?」


そういうものかと疑問を抱くが承諾して座り直すことにした。


「いいかい兄ちゃん、五大魔導騎士様ってのは、偉大な方たちなんだぞ。世界中の騎士のなかの騎士、魔導師の鏡なんだ、だから……」


うるせぇ……


ノエルは二日酔いのせいもあるが耳に響く大声と終わりの見えない長話にうんざりしイラついていた。


危うく懐の銃を取り出しそうになるが、反対側にはいった証明書を取り出して開く。


そう、世界最高権力機関“ワンド”の騎士であることを証明する選ばれたモノにしか持つことの許されない証明書だ。


「これでどうだ」


冷たくいい放ったノエルは人付き合いが苦手だ。だからこういう時の手順がスムーズにいかない。


証明書を目にした、門番が驚きのあまり倒れそうになる。

そりゃそうだ、ワンドは実質世界を統率している機関なのだから。


「しっ、失礼しっ…いたしましたっ!!」


何度も何度も頭を下げる姿は実に滑稽……否、面倒だ。


「わかったならもういい、頭を下げるな。……俺は気が長くない。通してもらおうか。」


相手を思いやる言葉が出ないのは何とも言えぬ歯痒さだ。


「はっ!かしこまりましたっ!直ちに城へ伝達いたします!」


「い、いや、それはかまわないっ」


どうすれば良いやら、混乱する。


「ノエル君ちゃんと説明しなよ~」


「だっ、だから今しようとしていたんだっ」


「おやおや、反抗期がまたやって来ましたか~?」


ひょこっと窓から顔をだしたエクランドは小言を言う。


「エ、エクランド……様っ!?本当にお出でだったとはっ……!?」


五大魔導騎士の顔が民衆に知れ渡ってるっておかしいだろ――真面目なノエルはこんな上司のいらぬ心配をしてしまうのだ。


「おっ、お気をつけてっ!!」


最上の礼をした門番を尻目に馬車はブルーシェル内へと進む。

華やかに彩られた町は活気があり、観光客でも賑わっているようだ。


「にしても、ある意味――」


「毎年不気味な光景ですね~」


ノエルの言いかけた言葉をエクランドは続けた。


そうね―――アリスもまた二人と同じだ意見のようだ。


よく言えばこの国は静かな、落ち着いたといった街並みの代名詞のようなところだ。


反対に、力による支配がここの住民を縛っているとも言える。



この国、ブルーシェルは軍国であり、別名“水硝子”と言われている。

その名の由来は守り神と謡われる晶龍にあり、かつて行きすぎた大陸戦争に終止符を打つために目覚めた晶龍が祠へ還る際、天高く飛翔し飛び込んだ飛沫が三つの大湖となり晶龍の魔力を含んだ純水が国を繁栄に導いたという言い伝えからだ。

ただ、ここの統治者達は人間で、晶龍に会うことすらできない奴等。


その晶龍の機嫌を損なわぬようにと毎年開催されるのがこの祭りであり、民間の主な仕入れ次期である。


三人は馬車を降りて、すぐにそれを高値で売り払う。

エクランド曰く、資金はある方が今後のためだということだ。


「ノエル、疲れたでしょう?先に何処かで休もうか」


暖かな瞳でノエルを労るアリスは少女らしからぬ表情、母親のようだ。


「大丈夫です、心配には及びません、俺なんかよりアリス様は大丈夫でしたか?道が……、道でしたから。」


「問題ないわ、ノエルは何でも出来る子に育ったわね」


手をあわせ喜ぶアリスのこの嬉しそうな表情はエクランドに向けられることはまずない。


「ほらほら、二人とも、一応主と従者なんだから、誰が親子の会話を見せろって言ったの~?」


焼きもちかと思ったが言わずに伏せておく。


「わかった、それにしても久しぶりに行くわ―――任務が入れすぎなのよ」


「はい、最近は物騒になってきましたし……」


「そうそう、晶龍に御言葉いただきにここまできたんだしね~」


エクランドの調子いい言葉に二人は顔を合わせて揃って答える


「「え、ウソ」」


「半分ね~」


クスクス笑うのは――というか、この上司は大半のことに関して笑っている。ネジが緩いのかもしれない。



一行が向かうのは“晶龍の祠”だ。

祠に奉られているのは彼の龍であるが、誰しも入れるとは限らない。


普通のモノは辿ることさえできない。


それが、真実だ。


魔獣、魔族、精霊、魔剣といった類いは正解の道を辿ることができるが、人間にはそれが出来ず、歩みを進めるといつの間にか入口へ出てしまうのだ。



しかし、自分たちは違う。

エクランドは、魔族であり、魔剣の使い手。

ノエルは感情に選ばれし、銃使い。

アリスもまた、武器に好意を抱かれる最高の使い手だ。


薄く、そして蒼い光を発する壁を伝い歩き、しばらくして龍の住処へと辿り着いた。

ここで、祠の水に触れ対話するに足りるか品定めされるのだ。

だから、ここまで着けたとしても姿を拝見できるモノはわずかであろう。



選ばれたモノにしか通れない神聖な空間、そして辿り着けても、選ばれたモノにしか姿を見せない龍が――――



ナゼソコニアル



「なっ!?何故、姿をっ!!?」


「め、珍しいこともあるもんだね~っ……」


「…………っ」


驚きを隠すことが出来ない。

エクランドでさえ、驚き、動揺を微かに見せる。

まだ、自分たちは祠の水に触れ、力を指し示していないのに。


ザッ


「「「!!?」」」


地面を踏む音がし、先に先客がいると分かり警戒をする。


針積めた緊張感に気づいたのか晶龍に近い影がびくつく。


そんな空気を察してか――


『案ずるな、警戒しなくてもこのモノに力はまだついておらぬ。只の人間である。』


その透き通った声にノエルは畏怖の念を抱く。

まるで、己の全てを視られているようだ。


すかさずエクランド前進し口をはさむ。


自分たちもそれについていくように龍と影に近づく。


「畏れ多くも晶龍よ、何故、人間を通したのですか、魔力が高いのかと思えば……そうでもないようだ。」


いつもの崩れた言葉でなくきちんとした言葉で語る。


『二十年の月日が流れたか――久しいな。傍らにおるのは……ほぉ…、はじめての客だな…。そして、アリスよ。よくぞ参った』


「えぇ……。ノエル、大丈夫よ。喰われたりはしないわ。」


「い、いえ、本物の龍を見たのは初めてですから、少し驚いただけです。」


それなら、良かった……と安心した様に見せるアリスだが、内心はそんな穏やかなものではない。


『お前も、挨拶したらどうだ』


鎮座する龍の頭の真下にたたずむ少年に促す。


「ど、どうも……こんにちは?」


図体はそこそこしかっりとしていて、黒髪……この辺りでは見られない色にアリスと同じ出身かとノエルは思う。

年は、16~18といったところか。

何しろ魔力が感じられない。

本当に只の人間だ。


「平凡そうだね~、けどま、ここに居るってことは何かあるか――…少年、私は、エクランド・バルガーさ」


握手を求めるエクランドに少年は躊躇しながらも手をあわす。


くくくっ……龍の笑い声


『坊やはしっかり者になったわい。結輔よ、お前は用心せねばならんな』


龍は笑いながら、結輔と呼ばれた少年へ教える。


「月宮結輔、結輔君か~、あの日輪国(ひのわのくに)から学園にね~、まぁ、よろしく頼むよ。」


「俺の名前……っ」


『感覚操作の魔法だ、結輔。魔族には人間やモノの考えることが触れたりすることで読めるんじゃ。敵にすると恐ろしいぞ。』


「魔族、ですか……。」


「私が、怖いかい?」


「そんなことありません!凄いと思います!俺にはできませんからっ!」


出来たら魔族の本能持ってるってことだしね~と笑いかえす、エクランド。


「つき……み…や………」


一人ショート寸前のようにそう呟くアリスは今にもどうにかなってしまいそうだ。


「アリス………様?どうかされましたか?お顔がいつもより白く……。」


『アリスよ。我も久々に驚いたのだ。どうだ、この少年を育ててみるのは。』


「ふ、ふざけたことを………っ。」


「アリス様?」


『気が狂うのも無理はない。しかし、これもまた天の意志やもしれぬ……。ここは一つ我への貸しだと思うて……な』


「龍に貸しを作れるなんてアリスちゃん流石だね~。さぁさぁ、結輔君、一緒に行こうか。明後日からは、学園だ。」


結輔の腕を引き、出口へと二人は走っていく。


「ちょっ、待って下さいっ!!」


エクランドは、楽しそうに、妖艶な笑みを浮かべて、新しい玩具を見つけた……まるで子供だ。


しかし……とノエルが反論しようとしたがそれは叶わなかった。ノエルの体が意志とは関係なく、出口へと向かっていったからだ。


これは、エクランドの魔法の一つ、“意志の糸”だ。この糸が付いている間、命令に逆らうことが出来ないのだ。

おそらく、今回は「ついておいで」とでも言われたのだろう。


変なところで、気が効くと苦笑する。

姿が見えなくなり、私は晶龍へ返す。


「少年のことは、一応は了承します。仮にも龍のお願いですから……。」


『それでこそ、アリスだ。それでは、本題だな。』


「単刀直入にお聞きする、世界で起こり始めている異変は……いったい誰の仕業なのか。」


『………気づいておるのだろう?それとも、確信が欲しいのか、……我は力を戻しきれておらん。それは他の国も同じことだ。アリスよ、まだ異変は始まったばかりだ。焦ることはない。』


「それが、それが答えだと私はとらえる……。構いませんか。」


龍を見上げるアリスは、涙を懸命に堪えている。


『今は、目の前に現れた希望を育ててみよ。それが我の言える言葉であり、導きであるよ。』


「うん」

ついには、頬を涙が伝う。


『またおいで、アリス。我等はいつも君の味方だ。』


そう言い、晶龍は水に姿を眩まし、やがて、姿を消す。


眠ったのだ……


ありがとう……アリス涙が渇いていることに気付く。

晶龍が持っていってくれたのだ。

目を瞑り、再び開けると、そこにはエクランド達がいる出口であった。


「お帰り、アリスちゃん」


「お帰りなさいませ、アリス様」


ただいま――二人に短く挨拶して、横に目線をうつす――


「あ、あのっ、よろしくお願いしますっ。アリスさん」


深々頭を下げるものだからチクりと胸が痛む。


アリス……さんか

“天の意志やもしれぬ”晶龍が言ったことがよぎる。

そうだよね、ただ今は、振り返らず前を見ていくんだ――


「宜しく、結輔君。私はね、アリスってう言うの。」




錆び付き動くはずのなかった時代の歯車―――突如現れた少年に世界、運命が動けと煽られる―――












































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