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プロローグ
静かな夜空に、一匹の獣が憤怒の咆哮をあげた。
………それは、一方的な殲滅の舞台の始まりを告げるものとなる――
漂う生々しい血の臭いにむせかえる。時間はどれくらい過ぎただろう。からだの震えは収まらず、脳が危険だと逃げろと警告し続けている。
教え込まれたことのひとつ、隠凝の文言を唱える背中は小さい――
外には自制心を失った荒れ狂う家族だった犬や猫が……、空は紅に染まり家や建物の燃える様子を象徴しているようだ。
泣き叫ぶもの、子供だけでもと敵に懇願するもの、生きることを諦めたもの、逃げ惑うもの―――諦めきれないものとさまざまである。
どんなに足掻いたとしても、圧倒的な力の差が全てを物語っている。
一国の終わりがすぐそこに迫っていた。
そんななか―――
幼い少女は懸命に走る。手には花の簪を固く握りしめ、何度地面に転んでも、悲しみを押し殺すように瞳に溜まる涙を流してたまるかと堪えながら―――彼の最後の“お願い”を守り抜くために―――