第23話◎重なる唇
時速120キロ以上と推定されるスピードで氷柱は夏木に向かって発射された。
夏木は大量出血で避ける気力が無く、死を覚悟した。
……その時
キューン
何かの鳴き声が聞こえた。
……シュルレアだ。
母親はその声に反応して、攻撃を止めた。氷柱は跡形もなく砕け散り、水だけがその場に残ってしまった。
シュルレアは母親に飛び付き、スリスリと頬を擦り付けた。
母親は子供の元気な顔を見て安心したのか、落ち着きを取り戻した。
アース
「…大丈夫…だったのか…?オイラ達。」
ブラッド
「…らしいな」
ブラッドとアースはすぐに夏木の元へと駆け寄った。
ブラッド
「大丈夫か?夏木…」
夏木
「ハァ……ハァ……なんとか…ね」
夏木は弱々しく笑う。
三人はシュルレア達の方へ向いた。
シュルレア達もこちらをジッと見て、1つの小袋を投げつけて森の奥へと姿を消した。
アース
「なんだこの小袋。」
恐る恐る中を開けてみる。
小袋の中身は傷の回復力がある小さな木の実がたくさん入っていた。
ブラッド
「この木の実は…プレーンという種類の木の実だ。回復力があるから…夏木、食べろ」
ブラッドはそう言って夏木の方へ向く。すると……
夏木は血を流してその場で倒れており、意識が無くなっていた。
ブラッド
「夏木!?」
アース
「夏木ぃ!!」
必死で夏木の体を揺らすが…反応がなく、呼吸も浅く…不定期に心臓が動いていた。
口も硬く閉じ、木の実を口にすることさえできない。
アース
「ダメだよ夏木…。絶対死ぬんじゃねぇぞ…死んだら…ダメなんだからなっ」
アースは涙を浮かべて夏木に向かって叫んでいた。
ブラッド
「…死なせない。夏木は絶対に」
ブラッドはそう言って木の実を口にした。
アース
「お…おい、ブラッドが木の実を食べてどうするん………」
その瞬間……。
ブラッドの口が夏木の口と重なった。
ブラッドは口移しで……何個も何個も…木の実を夏木に食べさせた。
アースは驚きながらもただただ見ているしかなかった。
最後の1個を夏木に食べさせて、ブラッドはようやく夏木の口から離れた。
するとブラッドは……
ブラッド
「…夏木は純粋な女だ。俺がこのような行為をしたと知れば…きっと傷付くだろう。アース…このことは夏木には黙っていてくれないか…?いつか…時が来れば…このことも伝える。」
アース
「…うん。わかった」
アースはうなずいて夏木の顔を見つめる。
木の実の力で夏木は数分後にゆっくり目を開けた。
夏木
「う…うーん…。」
アース
「夏木?大丈夫か!?」
アースは夏木の手をそっと握って、体を揺らした。
夏木は目が覚めて、立ち上がることはできなかったが、ゆっくりとその場に座った。
夏木
「あ…あれ?私…。えっシュルレアは!?」
アースはシュルレアやその母親のこと、この場で起きたことを説明した。
だが口移しで木の実を夏木に与えたことは話すことはしなかった。
夏木
「そう…じゃあシュルレアは無事に母親のところへ戻ったのね」
アース
「うん。」
夏木
「よく私…助かったなぁ。運がいいのかな」
夏木はボロボロになった自分の体を見て、命が助かった奇跡に驚いていた。
ふと、ブラッドを見て首をかしげた。
ブラッドは明後日の方向を向いてずっと無言で立っていた。
夏木はゆっくり近寄って、ブラッドの肩に手を置いた。
夏木
「ブラッド、どうしたの?」
心配そうな顔でブラッドの顔を見つめる。
ブラッド
「!?な…なんでもないよ」
ブラッドはまともに夏木の顔を見れずにそっぽを向いた。
夏木は不思議に思いながらも、回復魔法で自分の怪我をゆっくり治している。
ブラッド
「さぁ…シュルレアも母親の元へ帰したし、行くか」
相変わらず、顔も見ないで森の出口に向かって歩き出した。
アースも夏木の前を歩いて、ブラッドと並んでいる。
夏木はソッと自分の唇に指をあてた。
(なんだろう…。唇に何かの感触、感覚が残ってる。2人の様子もおかしい…手元に落ちていた1つの木の実…。これと関係があるのかもしれない)
夏木は何かに感づきながらも黙って何も言わなかった。
森を抜けて、再び遠くに伸びる道をひたすら歩いていく。
三人の空気は気まずいままだが、時々他愛のない話をして徐々に元へと戻っていった。
数時間歩いて、小さな街が見え始めた。
夏木
「ブラッド、あの街は?」
ブラッド
「リンプンビズキスっていう街だ。異なった性…つまり男女がが同じ比率で存在する。」
アース
「うわぁ!あれなんだ?」
アースがある大きな建物を指差す。
古い建物だろうが、とても真っ白で綺麗な建物だった。
ブラッド
「ここは教会だ。リンプンビズキスでは交際、見合い、結婚などが盛んに行われるらしい」
夏木
「未知の世界にも教会なんてあったんだ…素敵…………」
夏木は大きな教会をしばらく見つめていた。
そして、しばらく見つめていると教会の鐘が鳴り始めた。
リンゴーン リンゴーン
夏木
「素敵………。」
ブラッド
「どうやら今は中で結婚式をやっているようだな。」
アース
「すっげぇ!いいなぁ、見てみたいぜ」
アースと夏木は教会や鐘の音に対して興奮を抱いていた。
しばらくして、教会は静まって、中の人が一斉に出てきた。
夏木
「結婚式が終わったのかな」
ブラッド
「そうらしいな」
アース
「なぁなぁ!中にまだ花嫁いるかもよ!行こうぜっ」
アースは教会に向かって走り出した。
ブラッド
「あ…アース!」
夏木
「追いかけようか」
ブラッド
「そうだな」
二人は仕方なくアースを追いかけて、教会に入った。
そこには花嫁らしき人が立っていた。
白いウェディングドレスを着ており、とても綺麗な人だ。
夏木
「うわぁ……綺麗…。」
夏木はウェディングドレスを初めて見て感動した。
貧乏暮らしをしていた夏木はウェディングドレスなど目にしたことはなかったのだ。
ブラッド
「すみません。勝手に教会に入ってしまって」
???
「うふふっ、いいのよ。もう結婚式は済んだから。…あなた達は流離いの旅人さんかしら?」
とても透き通った声で花嫁は答えた。
???
「私の名前はユティ。こっちは夫のサルエルよ」
サルエル
「初めまして。サルエルです。旅人さんでしたら良ければ家に来ませんか?人数は多い方が楽しいですよ」
夫も優しそうな人だった。
三人はひとまずサルエルとユティの家へ向かうことにした。
ユティ
「ここがマイホームよ」
ユティが指を差して、ドアを開ける。すると中には1人の可愛い女の子がいた。
???
「あっ、おかえりなさい!」
年齢はアースと同じぐらいだろうか。ふわふわした茶色い髪で、とても可愛らしい子だった。
ユティ
「この子はファイン。私の妹よ」
ファイン
「初めまして!」
ファインは可愛らしい笑顔で夏木達を迎えてくれた。
最近無性にカラオケ行きたい紫苑です。
金欠だとどこにも行けないから悲しいw
21時を過ぎると眠くなるのですがなぜでしょうか?
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