第18話◎サンドイッチ
アゲハは変わらず
殺意と憎しみに満ちた目で
夏木達を睨み続ける。
ブラッド
「これは…今までのように簡単にいく依頼ではないようだな」
アース
「オイラ…ここまで殺意に包まれた子供を見るのは初めてだぜ…。オイラと1歳しか変わんねぇのに」
アゲハ
「早く出ていけ…!さもないと…っ」
ブラッド
「!? 危ない!」
ブラッドが二人をかばった瞬間に、家の中に突風が起きた。
三人は風に追い出され、ドアを固く閉められた。
再び開けようとするがビクともしない。
アース
「なんだ今の!?」
ブラッド
「風魔法だ…。あんな小さい子供があんな魔力を……しかも呪文を唱えずに魔法を使うとは…。」
三人は今日は無理だと判断して1階へ降りた。
メルト
「ダメだったでしょ?」
メルトが眉を八の字にして溜め息をついた。
夏木
「正直…あそこまでだとは思わなかった。目の前で両親を殺されたんだもの…。あぁなるよね……」
夏木も一つ溜め息をつき…どうしてもアゲハを救いたくなってしまった。
アース
「アゲハってさ、両親いるときも暗い奴だったのか?」
メルト
「…いいえ。とても笑顔の素敵な明るい…天使のような子だったと言われている。あの子が笑えば村人も明るくなれる。そう噂があるの。」
いつまでも人を憎み…
殻に閉じこもるアゲハを
どうしても救いたい。
もう一度…笑うことを教えてあげたい。喜怒哀楽の感情が…アゲハにも存在することを…。
夏木は本気で思った。
心からアゲハを救いたいと…
次の日の朝…
夏木は誰よりも早くに目覚め
2階に上がった。
コン コン
昨日と同様…
軽くドアをノックする。
もちろん返事はない。
だがドアは開いていた。
夏木はゆっくり部屋に入った
アゲハは眠っておらず
ぬいぐるみを手にして
昨日と同じ目で夏木を睨む。
夏木
「私は夏木。昨日は驚かせちゃってごめんなさい。あなたと話がしたいの」
夏木はアゲハに話しかける。
だがアゲハは返事をせず、ただこちらを睨むばかり。
今にも攻撃をしかけてきそうだった。
アゲハ
「……………」
アゲハは口を開かず、その場で立ち上がった。
すると円陣を描き出した。
夏木
「あ…アゲハちゃん…ちょっと待って!」
夏木の声も聞かず、アゲハは風魔法を使った。突風に煽られ、ドアの外に追いやられた。
そして再びドアを固く閉めたのだ。これでは昨日と変わらないではないか。
夏木はドアに近付き
ドアの向こうにいるアゲハに
話しかけることをやめなかった。
返事をしてくれなくても…
魔法で攻撃されても…。
夏木は毎日毎日
ドアの前へ行って
アゲハに話しかけ続けた。
気付けばもう
2週間も時は過ぎていた
だが一向にアゲハの対応は変わらず…夏木に攻撃するばかり。
メルト
「もういいわ夏木ちゃん…情報はいくらでも伝えるからもうアゲハちゃんは……」
夏木
「諦めたくないです!…情報なんていらない…。ただ…今はアゲハちゃんを助けたいんです」
夏木は強い瞳でメルトに訴える。
1日1日が大切。
日々の積み重ねで…いつかアゲハは笑顔を見せてくれる…。そう夏木は信じていた。
ブラッドとアースは夏木の真剣な気持ちを読み取り、あえて何も手助けはしなかった。
きっと…手助けをしても夏木は何も答えないだろうと…そう感じたから。
その3日後…
夏木はサンドイッチを作って
2階に上がった。
コン コン
いつものようにドアをノックする。そしていつものように返事がなく、部屋に入ろうとしたがドアは開かなかった。
夏木はフゥと溜め息をついて
ドアの向こうに話しかけた。
夏木
「アゲハちゃん…私ね、人間界でよく作るサンドイッチを作ってきたんだ。ドアの前に置いとくから良かったら食べて」
そう言って夏木は
ドアの前にサンドイッチを置き、階段を降りた。
次の日…いつものように
2階に向かう夏木。
サンドイッチは手もつけられておらず…虫が集っていた。
仕方なくサンドイッチは捨てて、夏木は新しくサンドイッチを作り直した。
そうして毎日毎日2階に持っていき、同じ台詞を言ってサンドイッチを置いていった。
なかなか手もつけてくれず
虫だけが寄ってくるばかり。
夏木
「ふっ…今日も手をつけず…か。虫さん…あなた達が寄ってきても意味がないの…。私は…私は……アゲハちゃんに一口だけでも食べてもらいたいだけなの」
夏木はこの2ヶ月で相当、精神が参っていたようだ。
なかなか心を開いてくれないアゲハに対して涙を流し、アゲハを救うことができない自分の情けなさに涙を流した。
それでも毎日
サンドイッチを作って
ドアの前に置いていった。
そんなある日
いつものように早起きをして
2階に上がると……
サンドイッチのハムだけが
無くなっていた。
もしかしたら……
夏木は感動した。
あのアゲハが…夏木のサンドイッチに手をつけたのか。2つのサンドイッチのハムだけが綺麗に抜かれていた。
夏木
「あ…アゲハ…ちゃん」
夏木は涙で視界がぼやける。
すごく…言葉では言い表すことなどできないぐらいに嬉しかったのだ。
夏木は次の日も次の日も
サンドイッチを作った。
初めの3日はハムだけ抜かれていたが、
1週間したあとぐらいに、サンドイッチが一口かじられていた。確実にアゲハとの距離が近付いている。そう夏木は信じた。
そんなある日…
いつものようにドアを優しくノックする。すると……
いつもは鍵が閉まっているドアが開いていた。夏木はゆっくりゆっくり部屋に入った。
夏木
「アゲハちゃん、サンドイッチ…持ってきたよ」
アゲハは黙って後ろを向いていた。夏木は皿を置いて部屋を出ようとした。
アゲハ
「…まって」
アゲハが夏木を呼び止めた。
こっちを向いてサンドイッチに指をさした。
夏木はサンドイッチをアゲハに手渡しをした。これだけでも凄い進歩だ。
夏木の手からサンドイッチを受け取って、アゲハはそれを口にした。
ハムが好きなのか、先にハムだけを抜いて食べていた。
夏木の目の前でアゲハが食べ物を口にしている…。夏木にとってそれは夢のような光景であった。
夏木が恐る恐るアゲハに尋ねた
夏木
「…おいしい?」
夏木が少しアゲハの顔を覗いて、手を握りしめて聞いた。
アゲハは数秒、こちらを見て、目をそらした瞬間にコクンとうなずいてくれた。
夏木は号泣した。
嬉しくて涙が止まらなかった
自分の作ったサンドイッチを…あの人間不信のアゲハがモグモグと食べ、話しかけたら首を動かして答えた。
これがどれだけ嬉しいのか…
我々の想像できないレベルだろう。
夏木はしばらく、アゲハと一緒にサンドイッチを堪能した。
最近体調が悪い紫苑です。
実は微熱が続いていたり←
でも明日は就職試験なので
頑張ります!
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