第11話◎夏木の想い
ランカを連れ、
船は高波に流され
しばらくして、遠くに町が見えた。ブラッドの話によると
あの町は「エーデルワイス」
花の町と呼ばれるほど、花や木など、自然が多い町なのだ
安全でおとなしい魔物しか
存在しないため、平和な町だ
休息をとるには
丁度いい場所だろう
旅の疲れを癒すため、
町に足を踏み入れた。
ブラッド
「噂通り、自然の多い場所だ。2、3日世話になるか」
アース
「いい匂いだなぁ!オイラ眠くなってきた」
夏木
「私も…。まずはどこか泊まる場所を探さなきゃね」
ランカ
「…クスッ」
4人はまず泊まる場所を
探し始めた。町だから建物は多く、ホテルもたくさん存在していた。
ランカ
「ランカ…ここがいい」
ランカは
あるホテルを指差した。
大きめのホテルだが少し薄汚れていて、不気味な感じがした。ランカはこのような雰囲気をとても好むらしい。
ブラッド
「ふむ…。まぁ宿泊代を聞いてみないとな」
4人はとりあえずホテルに入り、受付の人に話しかけた
受付
「はい。こちらは2泊3日3名様でしたら3500яになります」
日本円にして約35000円。
この世界ではそこそこ安い値段だった。
まてよ…3名?
夏木、ブラッド、アース、ランカの4名だが…
この受付の人にはランカが見えていないのだろうか。ランカはずっと受付の人を眺め、夏木の手を握っていた。
とりあえず案内された部屋に行き、荷物を置いた。部屋は少し汚れてはいたが綺麗に整理されていて、広い空間だ。
アースはベッドに飛び乗り、夏木はベッドに座り、ブラッドは茶を飲んでいた。ランカはただただその光景をジッと見ているだけである。
こんなにも落ち着いたのはいつぶりだろうか…。どこに行っても敵だらけのため、なかなか落ち着いて休息はできない。
その為か夏木は酷く疲れていた。
夏木
「皐月…。大丈夫かな」
ふとつぶやく。
するとブラッドは
夏木の隣に座り話を聞いた
ブラッド
「皐月…今病気にかかっているというお前の妹か?」
夏木
「うん。今も…きっと苦しんでいると思う。私は早く薬を手に入れて元の世界に戻らなきゃ…。…皐月」
夏木はギュッと手に力を入れて肩を震わせた。皐月が心配で仕方がなく…落ち着かなかった。
ブラッドはそんな
夏木の肩を抱き、話し始めた。
ブラッド
「夏木…お前がそうやって皐月のことを思う気持ちを大事にすれば…きっと皐月は大丈夫であろう。最後には必ず救われる。皐月も…この世界も。そう信じて俺達は生きて行かねばならぬ」
ブラッドはそう言って
優しく微笑んだ。夏木は
そのようにいつも
ブラッドの言葉や温もり…
優しさに救われていた。
夏木
「ありがとうブラッド…」
その時から夏木は自然に…
無意識にブラッドに
惹かれていたのかもしれない
だが、いつかは
別れが来ると心の底では
わかっている為、夏木は
その気持ちを押し込んだ。
次の日…。
夏木が目を覚ますと、
お腹が異様に苦しくて
息ができなかった。
びっくりして
お腹を見てみるとランカが
ちょこんと座っていた。
ランカは
目を覚ました夏木に気付き
お腹からおりて
手をひっぱった。
ランカ
「お姉ちゃん、ランカの髪をといてよー」
ランカも
グッスリ寝ていたのか、
綺麗な髪が
グシャグシャになっていて、
怖い雰囲気が増していたのだ
夏木はゆっくり起きて、
自分のクシを取りだし、
ランカの髪をとき始めた。
ランカの髪は
グシャグシャになっていても
指通りは綺麗で
スーッとクシは通る。
夏木は…ランカの髪を
とくことでかなり
心が癒された気がした。
まるで…妹の髪を
といているように
感じられたから…。
ランカ
「お姉ちゃん、とくのお上手~」
ランカがクスクス笑い、
足をパタパタ動かしていた。
夏木は涙が出た。
またこうして
妹の髪をとく事ができたら
どれだけ幸せだろう。
家族の顔が絶え間なく
夏木の頭の中に浮かぶ。
でも、ランカの髪を
といていても…
すごく幸せに感じた。
サラサラの髪、
ランカの声、
"お姉ちゃん"という響き。が
妹と重なるからだ。
夏木にとってランカは
妹のような存在になっていた
夏木
「はい。出来たよランカちゃん」
ランカ
「お姉ちゃんありがとう!」
ランカはまた昨日のように
綺麗なツヤのある黒髪に戻った。
ランカ
「またランカの髪をといてくれる?お姉ちゃん」
夏木
「うん!いつでもやってあげるよ」
夏木がそう言うとランカも笑顔になり、寝ているアースのお腹に飛び乗った。
アース
「いってぇぇ!」
おかげでアースは目覚め
その声でブラッドも起床した
平和だ。静かな朝だった。
敵も来ない。
時計の動く音と風の音しか聞こえない。
時々…ザワァっと
葉が揺れる音がする。
夏木は静かに風にあたっていた。
就職試験の下見に京都まで
行ってきました紫苑です
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