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k-01 小豆島からのお裾分け

元ネタは原付転生の【reverse 90 それが青春なんだ!】を読んで頂けると意味がわかります。

 週末の朝は、平日とは違う顔をしている。


 通勤のサラリーマンも、小学生の黄色い帽子も、自転車で急ぐ人の姿もない。

 西之門の路地は、静かなままだった。


 モト子はいつものように早起きして、二階のベッドメイクを終えた。

 ライダーハウスの廊下には、昨夜チェックインした旅人たちがまだ眠っている気配がある。


 週末の旅人は、平日より少しだけ朝が遅い。

 行く先を決めていない人も多いから、出発の時間も人それぞれだ。


 モト子はそれを、この一週間で覚えた。


   *


 一階に降りて、花とふたりでオープンの準備を進めていると、路地の入口にクロネコヤマトのTOYOTAクイックデリバリーが停まった。


「毎度様! 今日は重い荷物がふたつ届いてますよ!」


 配達員が元気よく声をかけてきた。


「あら、誰かしら」


「えっと……アプリって方と、本田って方ですね。中身は果物って書いてますよ」


 モト子が首をかしげると、配達員はすでにダンボール箱をふたつ、ドサッと店の床に降ろしていた。


「すいません、クロネコさん、それを厨房まで運んでもらえる?」


「お安い御用ですよ!」


 配達員は二往復して、重そうなダンボールをふたつとも厨房まで運んでくれた。


「ありがとうね」


「いえいえ、こんなことで良ければいつでも言ってください! たぶん今夜も仕事明けに寄らせてもらいますね!」


「連日来てくれて、本当にありがとう」


 配達員は軽やかに手を振って、TOYOTA クイックデリバリーに乗り込んでいった。

 エンジン音が路地を離れて、旧東海道の方へ遠ざかっていく。


   *


「モト子さん、これは何ですか?」


 花が困惑した顔でダンボールを見ていた。


「本田くんとアプリさんからみたいよ。中身は果物って書いてあるわね」


 モト子がダンボールを開封すると、中にはネーブルオレンジが山ほど詰まっていた。

 橙色の丸い実が、ぎっしりと並んでいる。

 箱の中に、本田の手書きのメモが入っていた。


『お裾分けです』


 それだけだった。


「きっとまた農家バイトでもしてるんですね」


 花が笑い出した。

 モト子も笑った。


 あの二人が揃ってネーブルオレンジ畑で作業している姿を、なぜか簡単に想像できた。


   *


 十時になった。


 モト子は外に出て、OPENの札をひっくり返した。


 今日は週末だ。

 周囲の工場やオフィスは休みになるから、平日のランチラッシュはない。

 モト子と花は、少しだけ気を抜いて構えていた。


 しかし、いざ昼が近づいてくると、想定外の賑わいになった。


 ツーリング中のライダーたちが、次々とガレージに原付を入れていく。

 週末だからこそ走りに出てきた人たちが、この店を見つけて立ち寄ってくれていた。


 ホールを動き回りながら、モト子は厨房の花に一言だけ呟いた。


「やっとライダースカフェらしくなってきたわね!」


 厨房から、花がサムズアップして返した。


   *


 平日に負けないほど忙しかったランチタイムが終わり、中休みの時間になった。


 モト子がCLOSEの札をひっくり返して戻ってくると、花が賄いと一緒に、見慣れないものをテーブルに並べていた。


「モト子さん、ちょっと味見してください。割と自信作です」


 テーブルの上に、鮮やかなオレンジ色のグラスと、層を重ねたパフェが並んでいた。


「さすが花ちん、もうネーブルオレンジのメニューを考えたのね」


「簡単なものですけどね」


 モト子はまず、結露したグラスを手に取った。

 中には搾りたての果汁と、細かく砕かれた凍ったオレンジが混ざり合っている。


「いただきます……っ!」


 ストローを吸い込んだ瞬間、目が開いた。


 濃い。

 ただ冷たいだけじゃない。


 氷の代わりに凍らせた果肉をクラッシュしているから、溶けるほどに香りが増していく。

 生搾りの果汁を底に敷いて、その上に砕いた果肉。

 口の中でシャリシャリと弾けるたびに、天然の甘みが広がった。


「ぷはぁっ!」


 気がつけば、グラスの半分が空になっていた。


 続いてパフェにスプーンを差し入れる。

 上のバニラアイスは濃厚で、そこにネーブルの強い酸味がガツンとぶつかってくる。

 カットされた果肉のジューシーさと、ウエハースのサクサクした歯応えが混ざる。


 ホイップの層を崩すと、下には荒く砕かれたゼリーがある。

 プルプルとした食感と果肉の粒感が一緒になって、口の中がオレンジで溢れた。


 最下層には、果肉入りのヨーグルトムース。

 バニラアイスで甘くなった舌を、ヨーグルトの酸味がキュッと引き締める。

 最後の一口まで重くならない。


 モト子はスプーンを持ったまま、天を仰いだ。


「参ったわ、花ちん。本田くんとアプリさんが送ってくれたお裾分けが、あなたの手でこんな化け物級のスイーツに化けるなんて。ツーリングで疲れたライダーが食べたら、みんなその場で昇天しちゃうわよ!」


 モト子は親指を立てた。

 花の笑顔が、厨房から返ってくる。


「決まりね。今夜からの期間限定メニューはこれでいきましょう! ジュースとパフェのセットで八百円ってとこかな?」


「いい価格だと思います。ジュースは原価がかかってませんからね」


「そうね。パフェしか原価がかかってないのが、花の恐ろしい料理人の器量よね。そんなところが私は好きよ!」


「私も、絶妙な価格を瞬時に決められるモト子さんのことを愛してますよ!」


 ふたりは向かい合って笑いながら、賄いを食べた。


「そういえば本田くんとアプリさんは小豆島みたいね。ネーブルオレンジ畑で農家バイトでもしてるんじゃないかしら」


「このメモ一行で全部わかるんですよね。あの二人らしいですよね」


 モト子は、手書きのメモをもう一度眺めた。


『お裾分けです』


 それだけの言葉が、なぜかとても温かかった。


   *


 夜の営業が始まった。


「今夜はもう宿泊の方は予約で満室なんだよね?」


「そうなの。女子エリアの屋根裏には空きもあるけど、一般エリアは満室よ。まだ使われてない雑魚寝部屋もそろそろ使えるようにしなくちゃね」


「やっぱり宿泊部門には、あと一人人員を増やさないとですね」


 花の言葉に、モト子は頷いた。


 夕方から宿泊客が次々とチェックインしてくる。

 ひとりひとりをライダーハウスに案内するたびに、モト子はホールを花に任せた。

 花はホールと厨房を行き来しながら、ひとりで切り盛りした。


 週末の夜は、思った以上に動いた。


 ようやく宿泊客のチェックインが一段落して、モト子がホールに戻ってくると、花がほっとした顔をして厨房に引っ込んでいった。


「ごめんね、もうほとんどチェックインしたから、ホールは任せてね!」


 ふたりの声だけが、店の中を行き来する。

 言葉は短くても、動きで伝わる。

 この一週間でできあがった呼吸だ。


   *


 夜も二十一時を回ると、カフェの客入りがまばらになってきた。


 そこへ、朝に荷物を届けてくれたクロネコの配達員が、YAMAHA ギアに乗って戻ってきた。


「お疲れ様です」


「お疲れ様でした。仕事終わりですね」


 配達員は迷わずカウンター席に腰を落とした。

 メニューを広げかけて、カウンターに添えてある手書きのプレートに目が止まった。


「店長、この『小豆島ネーブル・サンライズ』って何?」


「あ、それ、今朝届いたネーブルオレンジで作った数量限定品なんですよ」


 配達員は一瞬も迷わなかった。


「ハンバーグとコーヒーはやめて、これ一個!」


 モト子が笑顔でオーダーを受けて、厨房へ伝えた。


   *


 ハンバーグが運ばれてきた。

 配達員は黙々と食べた。

 仕事終わりの食事というのは、言葉よりも先に体が求めるものだ。


 ハンバーグを完食して、ふっと一息ついた。


 ちょうどその頃合いに、花が「小豆島ネーブル・サンライズ」を運んできた。


 カウンターの上に、鮮やかなオレンジ色のグラデーションが現れた。

 仕事終わりの体に、そのビタミンカラーはそれだけでご馳走だった。


「お待たせしました。今日届けてくれたネーブルを贅沢に使ったセットですよ」


「お、これがあの重かったやつか」


 配達員はニヤリとして、クラッシュド・オレンジジュースのストローを吸い込んだ。


「……っ!? なんだこれ……!」


 一気に目が覚めるような感覚だった。

 グラスを二度見した。


「冷たい……いや、ただ冷たいだけじゃない。このシャリシャリした塊、氷じゃなくて全部オレンジなのか。噛むたびに濃縮された甘みがドバッと溢れてくる」


 自販機のジュースで済ませていた毎日とは、全く別次元だった。

 喉を通る瞬間の香りの立ち上がり方が、違う。


 飲み干したい衝動を抑えて、今度はパフェにスプーンを伸ばした。

 バニラアイスと果肉、ゼリーの層を一緒に掬い上げて、口に運んだ。


「うわ……これは参ったな。美味すぎる」


 配達員はカウンターに突っ伏しそうになるのを堪えた。


 重労働の後にこのヨーグルトの酸味は、体の芯に届く。

 アイスのコク、ゼリーの清涼感、ムースの軽さが一体になって、疲れた体をほぐしていく。


 ふと、家族の顔が浮かんだ。


 うちの奥さんもオレンジには目がない。

 下の娘はパフェが大好物だった。

 明日は日曜で仕事も休みだし。


 最後の一滴、最後の一口まで惜しむように完食すると、配達員は大きく背伸びをした。

 それからモト子に向かって、深く頷いた。


「店長、ごちそうさまでした。正直、今朝この二十キロの箱を運んだ時は『重てぇなぁ!』なんて思っちゃったけど、これだけ美味いものに化けるなら、運んだ甲斐があったってもんですよ」


 配達員としてのプライドと、一人の父親としての喜びが混ざり合った、晴れやかな顔だった。


「明日、カミさんと娘を連れてまた来るから。売り切らないで取っておいてよ?」


「もちろん! お待ちしてますよ」


 モト子が笑って答えると、配達員はカウンターから立ち上がった。


   *


 店を出た配達員は、YAMAHA ギアのシートに跨った。

 ヘルメットをかぶって、エンジンをかけた。


 西之門の路地を、ゆっくりと走り出す。

 路地の石垣が、街灯の光の中に白く浮かんでいる。

 柿の木の枯れ枝が、夜空に向かって伸びている。


 旧東海道に出ると、冬の夜風が頬に当たった。


 でも、さっきよりも少しだけ温かい気がした。


 ギアのエンジン音が、笠寺の夜の路地に小さく響いて、やがて消えていった。


 朝よりも、心なしか背中が軽やかだった。


   *


 二十二時三十分。


 モト子は店のシャッターを閉じた。


 二階を見上げると、まだ灯りがついていた。

 旅人たちが語り合っているらしい。


 今夜の満室の二十床には、それぞれの旅の理由を持った人たちが横になっている。

 明日の朝には、また路地からエンジン音が聞こえてくるだろう。


 モト子は夜の路地に立ったまま、少しだけ空を見上げた。


 小豆島では今頃、本田とアプリが何をしているだろう。

 あの二人がネーブルオレンジ畑で汗をかいて、それがこの店の今夜の一品になった。


 恩送りというのは、こういう形でも繋がっていくものだ、とモト子は思った。


 シャッターの向こうでは、花が後片付けをしている音がしている。


 明日もまた、この路地から始まる。


 これが、『Rider's★I have a low exhaust』、通称『アハロ』の、初めての週末の夜だった。












TOYOTA クイックデリバリー


型式 LDF-KDU280K

最高出力 136ps / 3,000 rpm


YAMAHA GEAR


型式 2BH-UA08J

最高出力 4.3ps / 8,500rpm





カード名:

【不沈の運び屋】YAMAHA GEAR(UA08J)

タイプ

HP150 (低重心設計による圧倒的安定感)


BP (バトルポイント)

70 (4.3馬力だがトルクフルな出足)


コスト

1枚 (ビジネス界のスタンダード)

【技・スキル】


技:BLUE CORE・エコノミー


消費エネルギー: 無し


効果: 自分のトラッシュからエネルギーカードを2枚まで選び、手札に加える。次世代エンジンの高い燃焼効率により、リソースの再利用を得意とする。


技:フットブレーキ・ドリフト

ダメージ: 40


効果: この技を使った後、次の相手の番、このカードは「マヒ」や「ねむり」にならない。足元で操作する「ニュースギア仕様」のブレーキ捌きで、どんな状況でも体勢を立て直す。


【特殊能力:アビリティ】

「最大積載量 20kg」 このカードは、「ポケモンのどうぐ(積載アイテム)」を最大3枚まで同時につけることができる。さらに、アイテムがついている数だけ、このカードの最大HPは「+30」される。荷物を積めば積むほど、重心が下がって安定感が増すという鉄の法則。


【フレーバーテキスト】

「低床リアキャリアに鎮座する巨大なBOXは、プロの証。水冷4ストエンジンが奏でる静かな排気音は、街の物流を支える鼓動そのものだ。今日も彼は、誰かの『日常』を背負って走り続ける。」

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