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処刑台の露と消えるはずが、氷の王子の溺愛ルートに迷い込みました 〜前世の記憶で破滅フラグをへし折るごとに、殿下の執着が増していくのですが〜  作者: 蒼月 美海
第2章:加速する運命と執着

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第7話:初めての共同作業

 学園での冤罪事件から数週間。

 リリアナを取り巻く空気は劇的に変化していた。

 しかし、「悪役令嬢」としての悪名は消え去ったわけではないが、かつての執着を捨て、静かに魔導学に没頭する彼女の姿に、畏怖を混じえた敬意を払う者が増えていたのだ。

 そんなある日、リリアナは国王からの勅命を受けることとなった。


「隣国クロムウェル王国からの視察団をもてなせ……頭が痛いわ……」


 公爵邸の居間に届けられた親書を前に、リリアナはこめかみを押さえた。

 隣国クロムウェルは、このラ・ヴァリエール王国にとって軍事的・経済的に最も重要な同盟国だ。

 しかし、今回の視察団の目的は単なる交流ではない。

 彼らは、リリアナが開発に携わっている「新型の魔導具」や「領地経営の成功例」が本物かどうか、その真価を計りに来るのだ。

 さらに接待の責任者として指名されたのは、リリアナ。

 そして1番の問題は。


「不服そうな顔だな。私との共同作業は、それほどまでに苦痛か」


窓際に立つ、銀髪の男。アルフレッド王子が、不敵な笑みを浮かべて彼女を見下ろしていた。


「……殿下。滅相もございません。ただ、殿下のようなご多忙な身を、このような一令嬢の仕事に付き合わせるのが心苦しいだけでございます」


「白々しい。君が、私から逃げる口実を常に探しているのは承知している」


 アルフレッドはリリアナのデスクへと歩み寄り、彼女が広げていた「おもてなしの計画書」を無造作に手に取った。

 そこには、この世界の貴族社会では考えられないような、斬新なアイデアが書き連ねられている。


「『五感で楽しむ体験型レセプション』……? 『郷土料理のコース形式への再構築』……。リリアナ、君の頭の中には一体何人の賢者が住んでいるんだ?」


「……ただの思いつきですわ。伝統的な晩餐会は、クロムウェルの使節団も飽き飽きしているでしょうから」


 リリアナは内心で冷や汗をかいていた。

 これらは前世で学んだ「イベント企画」や「UXデザイン」の基礎だ。

 王子の鋭い眼光を逸らしながら、彼女は準備に取り掛かった。

 そして視察当日。

 王宮の離宮は、リリアナの手によって劇的な変貌を遂げていた。

 これまでの豪華絢爛なだけの装飾を排し、あえて「引き算の美」を意識した空間。

 クロムウェル王国の象徴である「青」を基調とした魔導ランプが、幻想的な光を放っている。

 視察団の団長であるドミニク伯爵は、入室した瞬間に目を見開いた。


「これは……! まるで我が国の深い森の夜のようだ。王宮に居ながらにして、故郷を感じる。素晴らしい演出だ」


 リリアナは完璧な淑女の微笑みを浮かべ、アルフレッドの隣に立つ。


「ドミニク閣下、歓迎いたします。今夜はただの食事会ではなく、我が国と貴国の『絆』を魔導と食で表現させていただきました」


 そして宴が始まると、リリアナの現代知識がさらに冴え渡った。

 彼女が用意したのは、オープンキッチン形式を取り入れた魔導演出だ。

 料理人が目の前で火の魔法を使い、素材を最高の状態で焼き上げる。

 香ばしい匂いと視覚的な驚きが、使節団の警戒心を解いていった。


「殿下、あちらの副官の方が退屈されているようです。貴国の最新魔導理論について話を振ってみてください。彼は理論派ですから」


 そこにリリアナは小声でアルフレッドに指示を出す。

 王子は眉をわずかに寄せたが、彼女の驚異的な「人間観察力」に従い、見事に会話を繋いでみせた。


「……君は、いつからこれほどまでに人心を掌握するのが上手くなった」


 一息ついた合間に、アルフレッドがリリアナに問いかける。

 二人は会場のテラスで、夜風に吹かれていた。

 喧騒から切り離された二人だけの空間。


「人心掌握だなんて。私はただ、視察団が何を求めているかを考えただけです」


「以前の君は、自分が何を求めているかしか興味がなかった。……今の君を見ていると、時折、手が届かないほど遠い場所にいるように感じる」


 アルフレッドの横顔には、いつもの冷酷な仮面がなかった。

 彼は、リリアナが差し出した温かい飲み物、前世の知識を活かしてスパイスを配合した特製のハーブティーを一口飲み、ふっと息を吐いた。


「この茶……不思議な味がするな。落ち着く」


「それは良かったです。殿下はいつも肩に力が入りすぎていますから」


「……君に言われたくない」


 二人の間に、柔らかな沈黙が流れる。

 リリアナは、隣に立つ王子の姿を見て、ふと思った。

 ゲームでの彼は、常に完璧でなければならず、隙を見せることはなかった。

 けれど、今目の前にいる彼は、リリアナがもたらす 「未知」に対し、子供のような純粋な興味を抱いている。


(このまま、平和に終われば……。殿下も私を『敵』ではなく『有能な部下』として見てくれるようになるかも)


 しかし、そんなリリアナの淡い期待は、王子の次の一言で粉々に打ち砕かれる。


「リリアナ。今夜の成功で、父上も君への評価を盤石なものにしただろう。……これで、君を逃がす理由が一つ消えたな」


「……えっ?」


 アルフレッドは飲み干したカップを置き、リリアナの手を力強く取った。

 そのまま彼女の手の甲に、熱い唇を寄せる。


「君が有能になればなるほど、私は君を誰にも渡したくなくなる。……君が編み出した魔法も、その知識も、その存在そのものもだ。……覚悟しておけ。君が身を引こうと足掻くほど、私は君を縛る鎖を強くする」


 その瞳には、かつての蔑みはない。

 あるのは、獲物を決して離さないという、剥き出しの執着だった。

 リリアナの心臓が、恐怖と、自分でも認めがたい別の感情で激しく鼓動する。

 共同作業の成功は、彼女にとっての「自由」をもたらすはずが、皮肉にも「檻」の壁をより高く、強固なものにしてしまったのだ。


「殿下、それは……公私混同ですわ」


「構わない。私は、欲しいものを手に入れるためなら、王子の地位さえ利用する冷酷な男だと……君が一番よく知っているはずだろう?」


 月光の下、アルフレッドの冷ややかな微笑が、リリアナの脳裏に深く刻まれた。

 招待客たちの拍手が遠くで聞こえる中、リリアナは己の生存戦略が、また一つ致命的なミスを犯したことを悟るのだった。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

よければ、評価、ブックマーク、感想、レビュー、リアクションをお待ちしております。


次回、第8話:仮面舞踏会の夜

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