第7話 新たな使命
神審ライブでの勝利から数日後、王都の大聖堂にて。
大理石の床を靴音が反響し、巨大な扉が静かに開く。
エリナとマリアベルは、そこに広がる空間に言葉を失った。まるで神が設計した巨大なホール。
天井は遠く、黄金のステンドグラスが燦然と輝いている。
「これ……首、むち打ちになるわよ……」
とマリアベルが呟くと、エリナはうなずきながら「天界サイズの大聖堂って、こういうこと?」と目を丸くした。
正面に立つ神官長は、金の法衣を纏い、荘厳なパイプオルガンの伴奏の中、重々しく口を開いた。
「神より託宣が下った。来月の天恵祭、お前たちを代表に任ずる」
その瞬間、大聖堂内に鳩が舞い降り、どこからともなく神光が差し込む。
「って、どんな演出!?」
マリアベルのツッコミに、エリナは「もうここ、全部が舞台装置みたい」と笑うしかなかった。
——天恵祭。千年に一度、神々の御前で行われる奇跡と信仰の競演。
「千年に一度って……ミスったら千年間、語り継がれるんでしょ!?」
「プレッシャーで胃が破裂するってば!」
マリアベルの絶叫が堂内にこだまし、修道女たちの顔が引きつる。
神官長が説明する。
天恵祭では、信仰都市に赴き、それぞれの神意を舞台で表現する必要がある。
都市ごとに信仰の形が違い、ステージも試練も異なる。
「つまり、信仰系アトラクション巡りね」
「異世界ドームツアーの開幕じゃん!」
準備期間はわずか十日。
衣装、楽曲、移動手段——全て自前でなんとかせねばならない。
まず衣装問題。神界衣装工房の門を叩くが、最初に出てきたのは金スパンコールのローブに「祈」の刺繍がドーンと入ったド派手衣装。
「これ、どう見てもサイリウム振るタイプの衣装じゃん」
「もはや拝まれる前提で作ってるわね……」
却下。そして第二案、羽だらけの白ドレス。
「鳥小屋に転生した覚えはないわ」
試着室の外で神官長が呟く。「祈りのロック……それでいこう」
「祈りのロック!? それってジャンル!?」
方向性は謎のまま、衣装決定。
次は楽曲制作。神界の譜面は五線譜ではなく「七色螺旋譜」と呼ばれ、読み方すら一苦労。歌詞も祈祷語を含むため、韻を踏みながら霊的意味を持たせる必要がある。
「これもう呪文作ってる感覚だよね……」
「曲の最後に魔法発動しそうなんだけど!?」
市場では、舞台用の香草と音響石を揃えるため、交渉開始。
「この香草、演出で煙になって舞うんです。お値引きお願いできますか?」
「それより、君たち……信仰アイドル?」
「いいえ、半分ギャグユニットです」
神界の商人との会話もカオス。
空舟の準備は更なる困難に見舞われる。
飛行許可を得るためには、聖獣に“納得して”もらわねばならない。
書類ではなく、説得——それも感情ベースで。
「わたしたち、あなたの翼で夢を運びたいの!」
「モフモフの背中に乗って、星を超えて歌いたいんです!」
涙ながらに語る二人に、聖獣は一鳴きしてうなずく。神官たちは「え、今ので許可なの!?」とざわついた。
途中、神界の信仰説教スライムに絡まれ、「あなたの信仰値は56点です」と言われたマリアベルが「じゃあ加点狙いで皿洗うわ!」と叫んで逃走。エリナは雲羊に抱きつき、「癒されるけど時間がないの!!」と葛藤。
衣装完成、楽曲完成、空舟も準備完了。
大聖堂の中庭で、最終調整のリハーサルが始まる。そこには神官長と修道女たちの観客席。ステージには“試験用の神光”が差し込んでいる。
「この光、当たると本当に神聖な気分になるね……」
「でも逆光でアイライン飛んでるんだけど!」
そんな掛け合いをしつつ、リハを終える。
最後の夜、二人は大聖堂の屋根裏で星を見上げる。
「怖いよね……何が起きるかわからない」
「でもさ、わたしたち、笑って歌えば何とかなる気がしない?」
「うん、信じるわ。マリアベルが爆笑すれば、神様も笑うって」
こうして、準備は整った。
神審ライブを越えた彼女たちに、新たな奇跡が試されようとしている。
次なる舞台は、風の神を祀る都市——アウルブリーズ。




