第4話 仏とキリストの狭間で舞え!
王都セレスティア。
そこは異教徒も多く集まる宗教のるつぼ。聖堂、寺院、モスク、神殿が乱立するこの街で、年に一度開かれる巨大イベント――
《大聖歌祭》
教派の垣根を越え、聖なる歌と舞で神に祈りを捧げる。だが近年では、完全にアイドルフェスと化していた。
「神を讃える推し活、それが《聖歌祭》や」
神父がそう言い切った。
そしてワイ、エリナは、神の使徒として――いや、アイドルとして、この大舞台に立つことになったんや。
「エリナさん、今回のライブ……共同センターですわね」
マリアベルが意味深に微笑む。
そう。ワイら《セイント・ステージ・セイレーン》は、ダブルセンター制を取ることになったのだ。
神父曰く「神の前では平等」やから、センター争いは“協調の美”で乗り切る、とのこと。
(いや、でもあいつ……明らかに燃えてるやん……)
マリアベルは、聖歌の鬼や。表の顔は清楚でも、パフォーマンスになると誰よりも熱い。
そして……それ以上に強敵がおった。
「ようこそ、神の娘たちよ……。我らが“真理”を見せて差し上げましょう」
謎の異宗派アイドルユニット、《サード・テスタメント》が突如登場したのだ。
異端、異教、異能。様々な宗教の影に生きる者たちが結集した、超カルト系パフォーマンス集団。
そのリーダー・サマエルは、漆黒の司祭服をまとい、まるで魔王のような気配を放っていた。
「あなた方の“信仰アイドルごっこ”など、我らの前では児戯に等しい」
これは……完全に宣戦布告や。
【リハーサル前夜】
ワイとマリアベルは、王都中央聖堂の地下ホールで最終確認をしていた。
「ねえエリナさん。あなた、仏教徒としての信仰って、今もあるの?」
「えっ……ある、と思うけど……。そもそも坊主やったし」
「じゃあどうして、キリスト教の修道女になれたのかしら?」
マリアベルの問いは鋭かった。
(なんでやろな……)
確かに、ワイはいま十字を切りながら“ナムアミダブツ”言うてる変な存在や。
仏かキリストか――あるいはそのどちらでもない“何か”。
信仰って、何を拠り所にすればええんやろう。
「……ワイ、ようわからん。でも……この世界で、アイドルとして、誰かに救いを届けられるなら……それが“信仰”なんちゃうかなって」
マリアベルは少しだけ目を見開き、それからふっと笑った。
「……意外と、真面目な顔もするのね」
【ライブ当日・開幕前】
王都の聖堂前、広場には数千人の観客。
神官も修道女も、一般人も、商人も、旅人も、みんなペンライトを持ってる。まるで異世界コミケや。
本番直前、舞台袖でマリアベルがぽつりと呟いた。
「……負けませんわよ。あなたが仏のアイドルなら、私は神の化身になる」
(うわ、やっぱり闘志バチバチや……)
神父が無線で叫ぶ。
「いけええええ! セイレーン、出撃やああああ!」
【ステージ開幕】
ステージが光に包まれると、各宗派の代表ユニットが次々と登場。
仏教系アイドル《八万四千ビーツ》がシタールと読経ビートで観衆を魅了すれば、
神道系の《アメノウズメズ》が巫女ダンスで舞い狂う。
そして、ついにワイら《セイント・ステージ・セイレーン》の出番が来た。
ステージ中央に光柱が立ち、ワイとマリアベルが同時に降臨する。
「ナームー! アーメン! セイッ!」
「魂、救済! 煩悩退散! セイントソウル、起動します!」
ワイは袈裟とシスター服を合体させたド派手な衣装で、マリアベルは天使の羽を模したホーリードレスで歌い出す。
――その瞬間、会場が揺れた。
合唱、応援、手拍子、光。
神も仏も、境界線はない。
「次元を超えて、響け……魂のカノン!!」
ド派手なLEDステージに「南無」「AMEN」ネオンが交互に点滅。
後方スクリーンには、曼荼羅と十字架が重なるCG演出。
「うおおおおお!!!」
「ナムアーメン最高ーーーーー!!」
そして、ラストソング――
マリアベルとワイが向かい合い、互いの手を取り合って歌うバラード《Blessing Cross Over》が始まる。
会場中が静まり、耳を澄ますように聞き入る。
「信仰に答えなどない でも私は信じたい」
「あなたと出会い、救われたこの心を」
クライマックス、ハモりながら空を仰ぎ、ワイらは手を天に掲げた。
「南無……アーメン……」
【エンディング・聖歌祭の終わり】
ライブは大成功。
聖堂内での最終発表で、《セイント・ステージ・セイレーン》は“聖歌祭MVP”に輝いた。
歓声と祝福が飛び交う中、しかしサマエルは静かに言った。
「次は“信仰対決”だ。歌やダンスではない。我らの神意がどれほど強いか――その“奇跡”で決する」
神父が慌てて言う。
「奇跡……言うてもな、それ、どうやって競うねん!?」
しかしサマエルは笑う。
「“次回、信仰頂上決戦《奇跡グランプリ》にて”」
マリアベルが真顔になる。
「奇跡で勝負……まさか、本当に“神の力”を見せるつもり?」
ワイらは顔を見合わせた。
(え、奇跡って、出せるもんなん!?)
波乱の《信仰ライブ戦争》は、まだ始まったばかりだった。




