第24話 異世界歌合戦!耳と腹筋を守れ
――歌姫・響先輩が黒い霧とともに消えた直後、王都祭典の広場には、妙な静けさが訪れた。
いや、静けさと言っても、焼き鳥屋台の「はいタレ一本!」とか、綿菓子屋の「残り三本でーす!」とか、生活音は全開だ。
でも、それはあくまで祭りの雑音。今の私の耳には、さっきまでの洗脳ソングの余韻がまだこびりついて離れない。
「エリナさん、今の人……知り合いなんです?」
「うん、元・先輩。あと、今はたぶん世界改変系ラスボス候補」
「軽く言わないでください!」
マリアベルが焦っているのを横目に、私はふと気づく。
ステージ脇に、見慣れない立て看板が立っている。
【王都祭典特別企画 異世界歌合戦 飛び入り参加大歓迎】
……いや、嫌な予感しかしない。
しかし、私が看板を二度見しているうちに、司会役の派手なおっさん(肩から鳥の羽根飾り、全身スパンコール)が叫んだ。
「さあ次の挑戦者はぁ〜……さっきの謎の祈りソング少女だァーーー!!!」
「ちょ、ちょっと待って!? 私、そんな予定じゃ――」
「ほらエリナさん、もうステージ上に呼ばれてますよ!」
「押すな押すな! うわぁっ!」
背中を押されてステージに上がると、観客席から「さっきの人や!」と妙に好意的な声援が飛んできた。
……いや、それは嬉しいけど、この状況は絶対フラグだ。
「挑戦者エリナ! 対戦相手はぁ〜……歌姫ヒビキだァーー!!」
黒い霧が再び舞い、歌姫が登場。
ああもう、完全にボス戦モード。しかも形式が歌合戦って、なんでゲームジャンルが急に変わってるんだ。
「ルールは簡単! 一曲ずつ歌って、どっちが観客のハートを射止めるか勝負だ!」
「観客のハート(物理)とかじゃないよね?」
「それは場合による!」
……場合によるって何。怖すぎる。
先攻は歌姫ヒビキ。
彼女がマイクを持つと、空気がピンと張り詰め、紫色の光がステージを包む。
響く声は……やっぱり圧倒的。力強くて、甘くて、どこまでも深い。
観客の顔が再びうっとりしてきて、さっきの洗脳モード再突入。
「マリアベル、準備!」
「はいっ!」
彼女は鞄から取り出した――巨大な耳栓を観客席に投げ込み始めた。
投げられた耳栓は、頭上でぽふっと弾け、綿菓子状になって観客の耳を覆う。
※副作用として甘い匂いでお腹が減る
そして私の番。
正直、歌で勝てる自信はない。でも――異世界で身につけた奥義がある。
「いくよ……南無阿弥陀仏アーメン・リミックス!」
打楽器担当の犬(祭り序盤から踊ってたやつ)がステージ横でドラムを叩き始め、私の祈りソングに強引なEDMビートが乗る。
バチバチの低音に合わせて、なぜか観客席の屋台のおっちゃんまでノリノリで踊り出す。
祈りと炭火焼きの融合――新ジャンル爆誕。
「おい……ちょっと楽しいぞこれ……」
「耳が守られてるのに、腹筋が死にそう……」
観客は笑いながら踊り、洗脳の紫光はどんどん薄れていく。
歌姫は眉をひそめ、ステージの奥に立つ影――あの闇精霊をチラリと見た。
精霊が小さく頷くと、歌姫は静かにマイクを下ろす。
「……面白い。でも、この勝負はまだ続くわ」
司会のおっさんが「引き分けぇぇーー!」と叫び、会場は一気に大歓声。
でも私は知っている。これはただの前哨戦。本番は……もっとやばいやつだ。
その証拠に、歌姫は去り際、私の耳元で囁いた。
「次は海の底で会いましょう、エリナ」
……海? あれ、これ次回も地獄確定コースじゃない?




