第16話 終わらない地獄と、私の正気の限界
———落ちた。
いや、吹っ飛ばされた。
送風ドアに豪快にぶっ飛ばされ、空中でスピンしている最中、なぜかマリアベルの靴底に刻まれた「MADE IN SOMEWHERE」の刻印を鮮明に視認。
そのまま天井にゴンッ、壁にドンッ、床にベチャッ。
※ちなみにエリナは着地時に修道服のスカートをふんわりめくりながら顔面から突っ込み、マリアベルは背中から滑っていった。
「……ごほっ、ごほっ……せ、成功……?」
「いや、多分まだ……」
マリアベルの冷たい目。嫌な予感。
耳元で“カチッ”という音。
次の瞬間、床がスライド式で開き、私たちは全員——
「ぎゃあああああああああ!!!!!」
第一地獄:油まみれ滑り台
想像の三倍長い。しかも表面は新車のボディくらいツヤツヤ。匂いから察するに……オリーブオイルEXヴァージン。
スピードはもはや滑り台ではなく射出砲。体勢を直そうとした瞬間、遠心力でマリアベルが横に90度回転し、その足が私の耳を直撃。
「お耳パーン! お耳パーンになったぁ!」
「文句言わない! 私だって今、視界全部オイルよ!」
「エリナ、笑ってる場合じゃない! 舌出すな舌!」
途中、急カーブに差し掛かると、遠心力で三人が一瞬“重ねミルフィーユ状態”に。
一番下の私は背骨がミシミシ言っていた。
第二地獄:回転式水流プール
滑り台出口は、もはや水槽ではなく巨大な洗濯槽だった。
半魚人(♂)がミキサースイッチを嬉々としてON。
するとプールの中で、私たちは全自動洗濯コースの「強」に設定されたタオル状態に。
「うわあああ! 上下が分からない!」
「ちょっと! 誰の足これ! 私の顔に直撃して——ぷばっ!」
「わ、わたしのスカートの中で何かもぞもぞしてるぅぅ!」
泡と水流で何も見えない。息を吸おうとしても、入ってくるのは水か、泡か、もしくはマリアベルの叫び。
ようやく水面に出たとき、三人の髪型は見事に“泡立ちアフロ”になっていた。
半魚人が満足げにうなずく。「うむ、柔軟剤の香りも良し」
第三地獄:透明吊り橋と自走モップ軍団
プールを抜けたら、次は透明ガラス製の吊り橋。
下には偽物マグマ(温風は本物)がうねり、髪がパサパサに乾いていく。
が、景色を楽しむ暇もなく、背後から「モコモコモコモコ」という不穏な音。
「……羊?」
「違う、あれ——掃除用自走モップだ!」
「なんで牙ついてるの!?」
モップ軍団は、ただ掃除するだけでなく、繊維製品を感知すると吸着・吸引する高機能AI搭載型。
つまり——服を着ている限り、逃げ切れない。
「エリナ! スカート! 食われる!」
「やだぁぁぁ!! 信仰心まで吸われるぅぅ!」
マリアベルもマントの半分を食われ、必死に振り払うが、モップは「ピコピコ」という謎の電子音を発しながらしつこく追撃してくる。
第四地獄:氷の坂道(省略しない版)
橋を渡り切ると、そこはなぜか極寒地帯。足元の坂道は氷の彫刻のようにツルツル。
しかも坂の中腹には——ペンギン(本物)が、なぜか警棒を持って待機している。
「え、あいつら何する気?」
「わかんないけど、目が笑ってない!」
案の定、坂を滑っているとペンギンが待ち構えていて、容赦なくシッポや足を突いてくる。
結果、私たちは氷坂を“落ちる”ではなく“弾かれる”形で転がり落ちた。
第五地獄:無限演歌タイム
転がり着いた部屋には、なぜかカラオケマシン。
扉が閉まり、自動で曲が始まる。タイトルは——『愛と修羅場と布団の中で』。
歌わないと扉が開かないシステムらしい。しかも採点機能付き。
「これ試練じゃなくて拷問よ!」
「エリナ、何でそんな熱唱してんの!」
「だって早く開けないと……うぉっ! 天井から水が!」
結局、三人で必死にデュエットし、点数が80点を超えた瞬間だけ扉が開いた。
でも、誰一人として歌詞は覚えていない。
精霊の声
「よくぞここまで辿り着いた……」
天井から響く低音。姿を現したのは、水鏡の精霊ルナリス。
「雷の試練だと思った? あれは仮面。本当の試練は、終わらない地獄を超えることだったのだ」
……そう言われても、もう何も感じない。
笑いも涙も尽き、私たちはただ天井を見つめながら、同時にこう思った。
——もう帰りたい。




