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知識の重圧と選択の時

 翌日、幸司の表情は冴えないままだった。


 脳改造の提案について、心が定まらないまま時間だけが過ぎていく。ハワが与えてくれた選択肢が、自分にとってどれほど重大な意味を持つのかを考えれば考えるほど、頭が混乱していた。



「コウジ、今日は少し散歩でもしてみるかい?新しい区画を案内できるけど。」


ハワが穏やかな声で誘いをかける。彼の気遣いをありがたく感じつつも、幸司の胸にはどこか釈然としない思いがあった。


「……別にいいよ、少し頭を冷やしたいし。」


二人は居住区からやや離れた学術区画に向かった。ようやく見慣れ始めた道中、幸司は思い立ったように尋ねる。


「ハワ、僕が地球に帰るためには、どれくらいの人手やコストがかかるんだ?」


ハワは少し考え込んだ後、正直に答えた。


「正確な数字は僕も知らないけど、船団全体のリソースからすれば、決して小さくない規模だよ。君を元の場所に戻す技術には、この船団でも最先端の研究が必要なんだ。」


その言葉を聞いて、幸司の心には複雑な感情が湧き上がった。


「そうか……それなのに、さらに脳の改造なんて話まで出てくるなんて、ちょっと信じられないよ。」


ハワは静かに笑った。


「いいじゃないか。もらえるものならもらっておきなよ。」


「タダより高いものはないっ……てね」


「それも地球の価値観かい?面白いね。どんな意味?」


幸司は求められるまま諺の意味をハワに教えたが、その目はどこか遠くを見つめていた。



学術区画に到着すると、ハワは幸司を最新の研究室に案内した。


透明なスクリーンに映し出された脳のシミュレーションが所狭しと画面を埋め尽くしている。脳神経科学のプロジェクトが進行中であることは幸司にも判った。


「こんにちは、コウジさん。私はラト。このプロジェクトの主担当です。」


ラトと名乗る長い髪と大きな瞳を持つ女性型のミノリタスが柔らかな笑みを浮かべながら幸司に近づき、優雅に一礼した。彼女は地球人の基準でも十分以上に美人で、幸司はその登場に思わず目を奪われた。


ラトは微笑みながら手元の端末を操作し、プロジェクトの進捗を説明を始める。だが幸司は返事をするのも忘れ、彼女の整った顔立ちに目を奪われていた。


「コウジ、ラトの美しさに見惚れるのは分かるけど、まずは説明をしっかり聞こうね。」


隣でハワが笑いながら囁き、幸司は慌てて視線を逸らした。


「あ、いや、その……よろしくお願いします!」


ぎこちなく頭を下げる幸司に、ラトは小さく微笑んだ。


「これがコウジさんに提案した技術の基礎です。」


ラトが手元の端末をくるくると操作しながら、柔らかな声で説明を始めた。映像に映るのは、微細なナノマシンが脳の神経回路を調整する様子だった。


「この技術は脳の機能を大幅に強化させるものです。ただし、長期的な影響や完全な安全性についてはまだ研究段階です。」


その言葉に、幸司は不安を感じた。


「……つまり、リスクはゼロじゃないってことだよね?」


ラトと、その周りに居た何人かの研究者は一斉に頷いた。


「そうですね。しかし、現時点での試験結果は極めて良好です。実際にこの技術を使った被験者の大半は、劇的な効果を実感しています。」


「被験者?」


幸司は眉をひそめた。


「もちろん、すべて自発的な参加者です。私たちは無理強いは決してしません。幸いにも、地球人と我々の脳の構造やDNA構造はどちらも非常に似通っていますので、技術の転用が可能でした。」


「こんな複雑なものが、世界を隔ててそこまで似てるなんてこと、確率的にあるものなのかい?」


「すでにコウジさんは補助器具なしで船内の大気を呼吸できていますし、食事も我々と同じものを食べていると聞いています。我々は祖先を同じくし、どこかで別れたものと考えた方が説明がつきやすいですね」


ラトは少し首を傾げながら優しく微笑んだ。


ハワが口を挟む。


「コウジ、無理に決める必要はないよ。ただ、こういう選択肢があることを知っておいてほしい。」


幸司は研究室を後にしながら、胸の中で葛藤を深めた。


(これがラノベだったら『異世界チートキタ――――!』ってなるところだよな……でも、自分の身にリスクありで提示されると、話は別だな……)


幸司の中では答えはほぼ決まっているものの、最後の一歩を踏み出せずにいた。


(続く)


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