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新たな可能性への提案

「おはよう、ハワ。今日はどこに行けばいいんだい?」


幸司が目を擦って、やや不満げにハワに問いただす。

船内の1日は地球と同じく23時間56分4秒ではない。幸司が以前比較したところでは22時間と少しくらいで、それが故に幸司は睡眠時間を削った生活をしていたのだ。


ハワには何度もそのことは説明したはずだが、どうにもわかってもらえている様子がない。というか、こちらが眠い顔をしているのが当たり前といった様子だ。


「おはよう、コウジ。今日は少し重要な話があるんだ。準備ができたら研究機関まで一緒に来てくれないか?」


「重要な話?……わかった。すぐに行くよ。」



研究機関の一室に案内された幸司は、壁一面に投影されたデータと複雑な構造図を前にかなりの緊張を強いられていた。ハワと数名の研究者らしきミノリタスが部屋におり、彼らの視線が幸司に注がれていたのだ。


「改めて説明しよう。これは、君の脳のパフォーマンスを最適化するプロジェクトだ。」


ハワの言葉に幸司は一瞬耳を疑った。


「僕の……脳を最適化?どういうこと?」


「簡単に言えば、君が地球で抱えている問題――例えば受験勉強の効率化や記憶力の向上――それを技術的に支援することだよ。ミノリタスの技術を使えば君の脳機能は短期間で飛躍的に向上することになる。」


幸司は思わず後ずさりした。


「ちょっと待って、それって……なんか怖い話に聞こえるんだけど。」


「君の気持ちはわかるよ、コウジ。でも、これは君にとっても悪い話ではないはずだ。実際、プロセスは痛みを伴わないし、リスクも最小限に抑えられている。もちろん、君が納得しない限り、何も進めるつもりはない。」


ハワの言葉は穏やかだったが、幸司にはその提案がいささか突拍子がなさすぎるように感じられた。


「膨大なコストをかけて地球に帰してくれるだけでもありがたいのに、さらにこんな提案までしてくれるなんて……。」


ハワが小さく笑う。


「理由がなければ不安かい? ただ迷い込んできた者を、あるべき場所に帰すというだけじゃあ僕らの善意と感謝の行き場がない、そういうことにしておいてくれ」


「そこまで感謝されることをした覚えはないんだけどなあ……」



いくらかのやり取りの後、幸司は仮宿に戻った。ハワと研究者たちの提案を頭の中で何度も反芻する。


(脳を最適化……。それが本当に実現できたら、受験勉強が楽になるどころか、合格への近道になるのかもしれない。でも、そんなことをしていいのか?)


心の中には希望と疑念が渦巻いていた。


夕方、窓の外に広がる人工の空を眺めながら、幸司は自分に問いかけた。


(もしこれが成功したら、僕の人生は変わるかもしれない。でも、失敗したら……いや、それに僕の努力はどうなる?これってズルなんじゃないのか?)


手のひらをじっと見つめ、幸司はしばらく黙り込んだ。自分の人生を賭ける価値がこの提案にあるのか、それとももっと別の道があるのか。


次の日、ハワは幸司の返事を待っていた。


「コウジ、どう決めた?」


幸司は息を整え、しっかりとハワを見つめた。


「まだ決められない。正直、考える時間がもっとほしい。」


「もちろんだよ。焦らず、自分が納得できるまで考えてくれ。」


その言葉に少し安堵しながら、幸司は再び自分の決断を考え始めるのだった。


(続く)


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