茶番劇
ヘルマに電磁ショッカーを突きつけられても幸司は不思議なほど落ち着いていた。ラトがわずかに目配せを送り、幸司は小さく頷く。ヘルマ達の持つ武器はドローンを落とした連中と比べても相当質素なものだ。それに幸司の防御フィールド発生装置はすでに電源は入っている。状況が悪くなればいつでも発動できる状態だ。
ハワは妙に堂々とした幸司を見て、焦る必要はないと判断。状況を楽しむことにした。
「どうしたの!?早く転送装置まで案内しなさい!」
「ヘルマ……私達も転送装置の近くまでは行ったことはあるけど、あまりにも巨大すぎて、どこに本体があるかは知らないのよ。」
「なんですって!?」
短い膠着状態の後、複数の足音が廊下を渡り、ついに警備隊が到着した。彼らは向き合って動けないハワとヘルマ達を見て、苦々しい顔を隠せない。
「管理局保安課、対テロ警備隊です。ラト博士、こちらに武器を持った一団が押し入ったと連絡が入りました」
「押し入ったわけではありません。素性はどうあれ、ちゃんとドアのベルを鳴らして正面から入ってきた私の患者です。お願いですから彼らを刺激しないで下さい。」
ラトがさらりと答えるが、それを聞いて安堵する警備隊員は一人もいない。
「現在の状況を見るに、その言葉は信じられませんな……」
「ラトさんの言うことに間違いないよ。君達が到着したら急に患者が武器を構えだしただけだ。心配なら管理局に問い合わせてよ。とりあえず役者は揃ったってことで」
電磁ショッカーを突きつけられながらも平然と話す幸司の態度に、ハワはこれから何が始まるのか、とニヤケ顔だ。
警備隊の隊長らしき男は眉をひそめながらもとりあえず管理局へと連絡を入れた。
「……はい、はい、ええ、そうです。人質を取られてまして。はい……申し訳ありません。えーと、そこのマイオリスのお嬢さん、要求はなんだ?」
「あ、あ、あたい達を転送装置まで連れて行きな!」
「……と、言ってますがどうしましょう?え?あ、はい、そうですか。はい。あ……わかりました。はい。そのように」
通信を切ると警備隊長は隊員の武器を下げさせ、ヘルマの方に向き直った。
「管理局は君達の要求を飲んだ。君達を転送装置までお送りしろとのことだ」
「そんなうまいことを言って、あたいを騙そうって魂胆じゃないだろうね?」
ヘルマが叫び、電磁ショッカーをちらつかせる。
「ヘルマ、落ち着け!」
ラトが冷静に声をかけるが、ヘルマの目は血走っている。
「落ち着けって?これが失敗したら、あたいもあんたも終わりだ!頼むよ、転送装置の場所を教えてくれ!あんた達の手は借りない!」
「歩いて行ったらここから3日はかかるところだぞ?」
ハワがからかうように話した。
「そうよ、ヘルマ。あんたの体力だとそれまでに死んでしまうわ。さっきやったのはあくまで応急措置よ。すぐに放射線障害の検査をしないと!」
「あたいには、やんなきゃいけない事があるんだよう!」
幸司はやれやれという顔をして、無理やりヘルマの方を向いた。
「ヘルマさん、僕を連れて行って、みんなの前で殺しても何も変わらないよ?」
「そんなことない!コウジ様、あんたが死んで復活すれば、それでみんな救われるんだ!」
「でも僕は奇跡なんて起こせない。僕の死後、僕の名前を名乗って現れるのは復活したからでもなんでもない、どこかの、背格好の似た替え玉だよ?」
幸司の静かな言葉に、ヘルマは一瞬動揺したようだったが、すぐに表情を引き締めた。
「それでも、やるしかないんだ!あたいが失敗したら母さんと弟たちが……」
「やれやれ、今どき俺でもやらないベタな展開だわ……」
話を聞いたハワは一気に萎えたようだ。
「僕、帰ってもいい? 次の配信のための編集しなきゃなんだけど」
◆
管理局からの通信が警備隊長の端末に再び入った。
「こちら管理局審議官イルゼスです。転送装置へのルートを一時的に解除しました。施設の損壊を防ぐため、侵入者を装置まで誘導します。警備隊は別働隊の存在に留意し、彼らの護送にあたるように」
警備隊長が端末を閉じ、ヘルマを睨む。
「君達を転送装置へ案内しよう。でも、その代わり、人質には危害を加えないように」
「ありがとう、ラト……やっぱり、あんたのところに来て良かった。」
ヘルマはホッとしたように笑ったが、その目にはまだ不安が残っている。
幸司はラトにそっと近づき、低い声で囁いた。
「僕ら、無事に転送装置の方に行けるのかな?」
ラトは小さく頷き、耳元で囁き返した。
「はい。そこでコウジさんとはお別れになります……あとは管理局に任せるしかありませんね」
幸司はラトの言葉に頷きながらも、何かを決意したような目をしていた。




