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サンタさんの贈り物

作者: はとたろ

来月はクリスマスか…



華やかなイルミネーションが彩る街並みを歩きながら歩美は幼かった頃のクリスマスに思いを馳せた


毎年少しずつ集めたオーナメントやフェルトで作った天使やサンタ、ドライフラワーと粘土で作ったトナカイたちを飾ったリース


自分が生まれた年に父が買ってくれた思い出のクリスマスツリー、11月に入ると毎年テーマカラーを決めてホームデコレーションしたっけ



楽しかったな


あれはもう戻らない…遠い昔のことなんだ…



10年前に父が他界し2年前、大恋愛の末に母が6歳年下の相手と再婚、今年の6月に双子の妹が嫁いでから歩美は笑うことを忘れていた



仕事への行き帰り以外は外出せず趣味で小説を執筆している



独りで暮らすには広すぎる一戸建てへの帰り道…



暗くなってきた曇り空を見あげ呟く



「サンタさん、来てくれないかな…私、いい子に頑張っていますよ…」



…シーン…


「なんちゃって……三十路過ぎの大人の願いは聞いてくれないか…」




「すみません、H駅はこの近くでしょうか…」



背後から唐突に訪ねられ振り向くと背の高い男性が不安そうな顔つきで佇んでいた



「あ~その先を真っ直ぐ行くと交番がありますからそこで聞いてください」



寒いしめんどくさいから交番に丸投げっ


交番教えただけ親切だよね。うん



「助かりました。ありがとうございます」



面長でサラリとした黒髪が片目にかかりアンニュイなムードの男性は心持ち哀愁を漂わせて踵を返した



「待ってください、私も駅の隣のコンビニに行くので案内します」



コツコツコツ…


なぜか並んで歩きだす


背が高いな…30cmは差がある


「お近くに住んでいらっしゃるんですか?」


「ええ、すぐそこです」


「お屋敷街ですから女性の独り歩きは怖いでしょう」



「大丈夫です、子供の頃から住んでいますから…」



あれ?


この人、駅がわからないって言ってたのにどうしてO町がお屋敷街なんて知ってるわけ?


も、もしや…怪しい犯罪関係とか…


何かあったら大声で叫ぶか…白眼をひん剥いてゾンビの真似でもすればドン引くよね



コツコツコツ…


駅まで黙ってるのもなんだし…ちょっと話しかけるか…


「あの、こちらにはお仕事かなんかで?」


「引っ越しした友人に会いに…プライベートですよ」


私が疲れないように少し腰をこごめるようにして話してくれる


なんか…優しい…


おっと、いやいや、油断させて独り暮らしをリサーチして後から強盗するとかって…ヤバい…


あ、独り暮らしなんて言ってないじゃん、セーフセーフ


よし、家族がいるって体でいこう!


「うちの両親は過保護で9時過ぎると外に出してくれないんですよ~いまどき、あり得ないでしょう(笑)」


昔は…そうだった


仕事が遅くなると父と母が駅まで迎えに来てくれたっけ



うわっ、もしかして恥ずかしい過保護な箱入り娘してたのね…



「僕なら…6時だろうと暗くなったら独りで外出させないな…一緒に着いていきますよ」


へえ、…紳士なんだ


「今の時期は暗くなるのが早いでしょう」


優しそうに微笑むな…


こんな風に暖かさを感じるの…久しぶり…


そうこうするうちに駅に到着



着いちゃった…なんとなく安心したような…少し寂しいような…


いやいや、何考えてるの…何はともあれ襲われなくてよかったし


「イートインあるんですね」


駅前のコンビニを見て嬉しそうに彼が言う


「そうなんですよ、ここのイートインはけっこう広くてゆったり出来るんです。寄っていきますか?」



ちょっと、私、何言ってんのよ、やっと家に帰れるのに…


「いいですね。小腹も空いてるし(笑)」


「私もです♪新作のチーズ肉まんわりとイケますよ~」


キュルル…あれ…チーズ肉まんに反応したか…聞こえてないよね…


彼は素知らぬ顔でコンビニに入っていく


よかった~聞こえてなさそ


続いて店内に入ると…おお…! チーズハンバーグ弁当、今日はあるじゃん♪


でもな…男性と向かい合ってお弁当とカップヌードル食べるのもね…


私は自他共に認める痩せの大食いでお弁当なら二枚食べて腹八文目


満腹になるにはカップヌードルのピックサイズと肉まんがほしいところだ


だからって会ったばかりの人に大食いをカムアウトしなくても…


考え込んでいると彼は三種類のお弁当をレンチンしてカップラーメンにお湯を注ぎテーブルには肉まんがたくさんとスイーツがふたつ…


意外と大食い♪


しかも大好きなロールケーキが置いてあるしぃ♪


それとも二個食べるのかな…はっ、私ってどうしてこう食い意地がはってるんだろう


「勝手に席とっちゃったけどここでいいかな? ケーキはご馳走させてください」


ラッキー♪


たくさんテーブルに並べている彼に安心し私もレンチンしたハンバーグ弁当とカレーヌードルをテーブルに置く


「ズズズ…ん~寒い日のカップヌードルって美味しくありません?」


彼はめちやめちゃ優しい眼差しで私を見ている


「美味しいね…」


恥ずかしい…じゃない…お腹空いててがっついちゃったし…


「たくさん食べる人、好きですよ」


嬉しいこと言ってくれる! 優しいんだな


てか…そい言うしかないよね…ははは…


「どうしたの? 箸がとまってるよ」



気を遣わせちゃった…ハンバーグをパクリ…「おいひいでふ…」


「美味しそうに食べるね、よかったらこれもどうぞ」


わわ♪チーズまんと大好きなフランクフルト♪


おまけに揚げたてだっ


「これ好きなんですよ~遠慮なくいただいちゃいます♪」


「あ、ちょっと待って…」


彼はケチャップとマスタード容器を片手で器用に押すとかけてくれた


面倒見のいい人だな


「私、歩美です。中田歩美…」


「偶然ですね!僕も仲田なんですよ、仲田浩二です」


「わあ偶然♪」


話が弾み私達は2時間ほどコンビニに居座り駅に向かったが…


「10時か…すっかり遅くなっちゃってすみません、暗いし家まで送りますよ」


「近いから大丈夫ですよ」


「いけません! 若い女性の夜歩きはなにがあるかわからない」


真剣な顔で怒られてちょっとキュンとしてしまう


「じゃあ…お願いします」


駅から歩いて5分もかからない距離がこの時ばかりは恨めしかった


「今日はありがとうございました」


「いえ、僕のほうこそ遅くまでお引止めしちゃって…」


「帰り道、わかりますか?」


「なんとか大丈夫、しっかり覚えたから(笑)」


なんだか…このまま別れがたい…


2人同時に「あの…」


思わず顔を合わせて吹き出してしまう


互いに考えていたことは同じで私達はラインとメアドを交換した


お風呂に入り部屋着に着替えると養女にお迎えした家族同然のぬいちゃんたちに話しかける


「みんな、聞いて~今日はね、ちょっといい日だったよ」



翌朝、ラッシュの車内でもみくしゃにされながら動けずにいると…


突然、お尻を誰かに触られる


ちょ…! この私に痴漢するとはいい度胸じゃない


おぼえてろ…駅に着いたら駅員にチクってやる


とはいえ…ぎゅうぎゅうでう、動けない…うっ、今度はお尻を揉んできたっ!! こいつ……く、悔しい…


「貴様、いいかげんにしろ!」


え?


どこかで聞いたような声…


次の駅でだいぶ人が降りてやっと動けるようになった私は痴漢男の腕を掴んで引きずりおろす仲田さんと目が合った


「仲田さん!」


「やあ、歩美ちゃん、こいつ、とんでもない奴だ、駅員さん、この人、痴漢していましたよ」


「俺は何もしてねえよ、この女おかしいんじゃねえの…」


「なんですって? さんざんお尻を触っておいて…すっとぼけんな!! この変態オヤジ!! 駅員さん、この変態男、私のお尻をもんだんですっ」


「きみ、常習犯じゃないか!! ちょっとこっちへ…」


40代後半くらいの脂ぎった痴漢男は駅員にしょっ引かれた


うう…ムカつく


「可哀想に…嫌な想いをしましたね」


「い、いえ、仲田さんのお陰で助かりました。ありがとうございます」



私達は顔を見合わせ微笑んだ


「ここで会えたのも偶然だし帰りに夕食でも如何ですか? 餃子の美味い店があるんですよ」


餃子? 大好物なんですけどぉ♪


「行きます♪餃子なら100個は食べちゃうから…」


「なら…食べ比べして僕が勝ったらデートしてくれますか?」


「いいですよ~じゃ、私が勝ったら…私とお付き合いしてください」


「喜んで♪ なら僕は負けようかな」


とびきり素敵な笑顔で彼はウインクしてくれる



私達は笑いながら夕食の待ち合わせ場所に着く頃には心に温かい灯りがともっていた



サンタさん、素敵なプレゼントをありがとう




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