スマートカップ麺
スマートカップ麺
カップ麺と彼女
3割引きで買ってきたカップ麺にお湯を注ぐと、スマートペーパーで出来たカップに広告が流れ始める。側面には商品画像が流れ、カップが振動して安っぽい音楽と明日の割引情報が聞こえてくる。普段よりうるさいが、3割引きだから仕方がない。
3分待てば音が止まり、カップ麺の出来上がりだ。
彼女が部屋に入ってきて、得意げにカップ麺をテーブルに乗せた。
「これねー、半額だったよ」
「あ、これ4分かかるやつじゃん。まあいいや、今夜にでも食ってみる」
彼女と一緒にゲームした。
間近に座る二人の体が触れ合う。
白い肌に、艶のあるロングストレートの黒髪。
お嬢様風のブラウスとスカート。
理想の美少女だ。
髪が揺れると、ふわっといい匂いがする。
こんなに仲いいんだから押し倒してもいいよな?
結局、今日も何もできずに帰る彼女を見送った。
その日の夜遅く、半額なりのうるさい広告を4分間我慢してからカップ麺をすすった。
「はいこれ。なんと6割引きでした!」
今日も彼女が得意満面でテーブルにカップ麺を乗せる。
これは2分でできるやつだ。だが、これはこれで広告が短い分音量が大きい。しかも6割引きとか。
今日も日が沈むまで二人でゲームした。
夕焼けの下で彼女を見送り、別れた後はこの上なく寂しくなる。
深夜に腹が減って、6割引きのカップ麺に湯を注ぐと大音量の広告が流れ始めた。湯気を出しながら湯が震えている。
ドンっと薄いアパートの壁が叩かれた。
うん、これは近所迷惑だった。深夜に安いカップ麺を作り始めた俺が悪い。
翌日。
今日も何もできないまま彼女を見送った。
テーブルには9割引きのカップ麺が乗っている。深夜に腹が減ったが、こいつに湯を注げば9割引きにふさわしい大音量広告が流れるはずだ。
あ、そうだ。
カップの表面にカッターで上から下まで薄く切れ目を入れる。これでスマートペーパーは機能しなくなった。
広告無しのカップ麺はうまい!
「ぶふっ!」
少し開いた窓から女の顔がのぞいていた。
心臓が止まるぞ。何のホラーだよ?
落ち着いてよく見ると彼女だった。
「ああ、びっくりした。真夜中にそういう悪戯はやめてほしい」
苦情を言いながらも、彼女が来てくれたことが舞い上がるほど嬉しかった。こんな時間に来たってことは泊ってくつもりだよな!?
彼女は窓にはさまったまま、まばたきもせず無感情に言った。
「アナタとの契約ハ無効にナリマシタ」
「え……」
ふらふらと窓へ歩き寄ると彼女が消えた。
「あ、ここ3階」
二度と彼女を見ることはなかった。
後悔した。
破格の条件だったのに……
あれほどの「彼女」を購入できる見込みもないのに……
もはや、安売りカップ麺にカッターを入れることに何の躊躇もない。