C4-13 同郷
「必死に飢えを凌いでいるときに、ある方に拾われたの。あとは任された仕事を命懸けでこなす毎日ね」
「大変だったな」
「ええ、とってもね。分かってくれて嬉しいわ」
一度離れたフリーダの顔が寄ってくる。まるで目と目が溶け合うかのように、見つめ合ってしまった。
「ちなみにある方とは?」
「それは内緒。でもとんでもなく偉い方よ」
おそらくフリーダの里親は、分国の王や大臣のような存在。そういった権力者がこの施設を支援しているという背景も理解できた。
「ねえ、もし孤児だった頃に出会っていれば、助けてくれた?」
「助けるさ」
演技半分だが、本気半分なのが伝わったのか。フリーダは幼子に戻ったかのように頬を赤らめ、瞳を麗せた。
「ふふ、あなたにもっと早くに出会いたかったわ」
そろそろ話を切り上げないといけないマズイと思った。これ以上聞くと、殺すのに躊躇いが出ると。
「そろそろ商品を見せてくれないか?」
「紅茶はいかが? 淹れたてよ」
「いや、喉は乾いてない」
「……」
何も聞こえなかったのように、フリーダはどこからか裁縫箱を取り出した。そして糸で指輪を編み出す。ラハムは彼女の不可解な行動を見て、沈黙するのみ。
「私ね、実は生まれがエディティアなのよ」
「!?」
軽やかな口調だったが、放たれる言葉には泥臭さと、息苦しさが感じられた。憎しみも。
「ならどうしてミルグ側についているんだ?」
「聞きたい?」
再び顔が近づく。見つめられたラハムは気づく。今までのこれは彼女からのアプローチではない、品定めだと。
「首都サネスには辿り着いたけど、動物たちに追い出された。小さい私でも容赦なく。呪われてるわ、あんな国」
凍りつき、何も言えなかった。自分が衣食を得た一方で、彼女は何も与えられず、狂気の世界へ置き去りにされたのだから。
「あのときほど、人も動物なのだと思い知らされた瞬間は無いわ……さ、編めたわよ」
「これは?」
出来上がった指輪を手渡された。色鮮やかな作りは見事で、意図せず注視してしまう。
「あなたのために作ったの。つけてほしいわ」
「どの指に?」
「決まってるじゃない。左手の薬指でしょ」
「冗談はよしてくれ」
フリーダは「うふふ」と微笑を浮かべる。 それはこの暗い地下には似合わない、とても可愛らしいものだった。
「ラハム。あなたミルグの人間じゃないでしょ」
「!? 何を根拠に?」
「ラドノップは今はもう、平和な場所ではなくってよ」
戦慄した。かけられたカマに、まんまと引っかかったのだから。
「それに顔つき、匂い、いろいろあるけど一言で言えば……」
彼女の揺れていた髪が、見えない糸に束ねられるかのように、一つにまとまった。
「女の勘よ」
直後、カサカサと何かが動く音がした。
「くっ!?」
とっさのところで本能的に何かからの攻撃を避ける。それは人間の子供ほどの体長はあろう、何体もの蜘蛛たち。ラハムはすでに囲まれていた。
ーーなんなんだこいつら? 魔力を感じないぞ!




