C4-12 ときめき
「私はフリーダよ。あなたの名前は?」
「ラハム。君はここの管理者か?」
「そうね。ミルグのどの辺りに住んでいるの?」
「ラドノップのほうだ」
「あら、あそこから来たのね」
ラドノップは帝国七大分国の一つ。最も人口が多く、無難な回答。 ラハムの出身はエディティアのため、全くの嘘だが。
「武力至上主義の国だけど、法も上層部も厳しいから案外平和なのよね」
連れてこられたのは、迎賓の部屋。光沢のある家具で囲まれている。が、荒々しく露出した岩肌と薄暗い灯りに囲まれ、懺悔室のような暗さを感じる。
「金はここにある。だが、先に商品の状態を見せてもらおうか」
「ちょうどこの下の階層にいるわ。でもその前にお話をしましょう」
「話? 一体何だ?」
「あなたという人間にとっても興味があるの」
フリーダの顔が近づく。髪と髪が結びつかんばかりの距離。
「……馴れ馴れしいんじゃないか?」
「いいじゃない、うふふ」
「どうして俺に興味が?」
「ときめいているからよ」
ラハムは軽くため息をついた。こういった経験は初めてではないし、美女に迫られて胸が躍らないと言えば嘘になる。相手が悪党でなければ。
「手短にしてくれ」
「そっけないわね。そんなに非社交的なのに、どうして商人をしているの?」
「食っていくためだ」
「奇遇ね。私も食べていくためにここで働いているわ」
活き活きとした表情を見せるフリーダと対照的に真顔のラハム。子供を嬉々として売買する彼女に嫌悪感を抱いているのだから。
「生い立ちを聞かせてくれない?」
「……大して語ることはない。昔は全てが自分のためにあると思っていた子供だった」
天井を見上げる。地中でも星空が、歴史が見えるような気がする。
「だが色々あって、誰かのために自分があると信じるようになった。そして今を必死に生きている。それくらいだ」
「あらあら、素敵じゃない。謎だらけの答えだけど。そう考えられるのは、きっとあなたが大切にされてきたからね」
「……そうかもな。君は?」
「ほとんど覚えてないわ。気づいた時には孤児だったから」
反射的に質問したが、後悔した。境遇は自分とほぼ同じ。情が移り始めた。




