C4-11 巣の中へ
夜、星々が大地を照らす中、進たちは廃墟にいた。瓦礫で埋もれた地下に、目的の孤児院はあった。
「ここからは取引人と偽って、一人で行ってもらう。まずは子供達を逃すためにね」
「一人?」
「商人はいつもこの時間帯に一人で来るらしい。ただ、誰が来るかは決まっていない」
「そんなところまで掴めているのか」
「こっちの密偵は優秀なのよ」
偵察の人間について好感を抱いているのだろう。フォランは誇らしげに鼻を鳴らした。
「だから、頼んだよラハム」
メリアは、はち切れんばかりに金貨が詰まった袋を手渡した。
「ラハムが行くのか?」
「そうだ。こういう役目はいつも引き受けている」
「色んな武装魔法を使えるからさ、一番臨機応変に対応できるんだよね」
一人で敵地に乗り込む、彼はまさしく主人公。そんな力が自身にあれば、どれだけ多くの人を救えただろうと進は思った。
「元々いた商人はどうなったんだ?」
「死んだらしい」
理由を聞こうとしたが、その必要はないと寸秒で理解する。相手の情報が掴めているということは、その命も掴んだに等しいのだと。
「無事に帰ってきてね」
フォランはラハムの手を取り、上目遣いで声を出す。握った手は、熱を帯びている。
「わかった」
「これでお別れなんて、死んでもごめんだからね。だって私ーー」
ふと二人が横を見ると、メリアがその光景を注視していたのに気づいた。なんとも言えない空気が流れ、彼女は「あっ、ヤベ」と小声で去っていく。
「行ってくる」
「ラハム、気をつけて」
「ああ、フレナ。分かってる」
ため息をついたフォランが座りこんだ。その後ラハムが一人で地下へ降りていくと、月明かりのように金色に輝く呼び鈴を見つけた。
「これを鳴らすのか」
強く鳴らした。しばらく待っていると、誰かがカツカツと歩いてくる音が聞こえる。不気味でたまらないのに透き通っていて、思わず耳を傾けてしまう音色だった。
「あら、今回の商人さんは格好いい人ね」
扉を開けて出てきた女性、フリーダの笑みは美しかった。敵であることを忘れて、見惚れてしまうくらいに。




