C4-10 憎しみは止められない
進と仲間たちはペガサス、ベレオンが引く馬車で孤児院へ向かっていた。道のりは一週間以上。進はその間、黙々とラハムとの戦闘訓練に打ち込んでいた。何度もマメを作っては潰し、真っ赤に手の平を染めながら。
「進の様子はどうだい?」
「涙ぐましい努力はしてるが、実戦には程遠い。装備も貧弱で、アークウィザード以上には太刀打ちできない」
「いいんだよ。真っ向勝負をする必要なんてないからね」
メリアの髪が風に舞う。静かな顔立ちに反して、発した言葉には、幾重にも思考を重ねた末の重みと力と険しさがあった。
「この世界では不意打ちや密偵が容易くできない。隣にいればお互いの魔力に気づくけど、あの子は例外の異物だ」
「止めるべきじゃないのか?」
「今更だね」
「進にしかできないことはあるだろうが、素人だ。遠からず死ぬぞ」
「私たちも大差ないだろ? いつ殺されるかなんて、分かったもんじゃない」
「……」
ラハムは嫌悪感の混ざった瞳をメリアに向けた。二人は長い付き合いだが、この時の雰囲気はまるで、お互いが他人かのような溝を感じさせるものだった。
「そもそも進が属する部隊が、俺たちのところである理由は?」
「私が口説いたんだ。うちに来てもらうのは当然さ」
「上に報告してないだろ。何を企んでる?」
「私も悪いんだから、姉さんだけを責めないで。結局、進に頼ってしまったの」
メリアを庇うように、フォランが前へと身を出した。混乱の渦中、まるで闇そのものをまとったかのような進が、のそりと足を運ぶ。
「何を無駄話をしているんだ? 引きこもってれば幸せでいられたとでも? そんなわけないだろ」
「……その通りよ。どちらの国にせよ、もしも権力者が狂気に呑まれたら、いつでも戦争は起こりかねない」
「しかも例のアルジェがこっち側で消えたせいで、因縁をつけられるようになったからさ。今のところ、悪いのは外で暴れたあの女になってるらしいけど」
全員が俯いた。 自分たちが置かれている現実を、改めて突きつけられたから。
「悪魔どもを地獄に叩き落とす。それが終わるまで平和なんか訪れない。だから、あんたたちも戦いを続けてるんだろ」
誰も言葉を発しなかったが、皆の心は一つだった。それぞれが、心の中で深くうなずいていた。
「乗らせろよ。死ななきゃいけない悪党がゴロゴロいるんだろ」
「いいだろう。あんたの役割は敵の隙を作る、場所を知らせる、魔法の謎を暴くことさ」
「とにかく敵の嫌がることをしろってことだな」
「本当はあまり出したくないけど、現場でパニックになるのは笑えない。だから慣れてもらうのさ。戦場が近所の公園だと思えるほどに」
再び手渡される三発しか打てない銃と刀のような剣、鎖帷子。何度か使用したため、それぞれ新たに傷が刻まれている。
「ただし、あんたが保護される可能性はほぼ無いと考えな。前回みたいにね」
「分かってるよ。運が良くて、悪かっただけだ」
「引くなら今だよ」
「よく言えるな、自分から誘っておいて」
「私たちは表向きには存在しないし、捕っても助けは来るとは限らないよ。死ぬよりも酷い目に遭わされるかもしれない」
「生き恥を晒す方が、俺には耐えられない」
「だったら訓練を続けようか。私も手伝うよ」
罪悪感と憎しみが進を突き動かす。自身の贖罪は、帝国の悪人たちの死体を積み上げることでしか成し遂げられないと、固く固く信じてしまったから。
来ていただいてありがとうございます。
四章は一、二ヶ月くらいに一話くらいの頻度で更新していきます。
四章を書き終えたら一章から大幅な改稿を行い、再度改稿版として投稿する予定です。
また、昔作ったものを短編として投稿しました。
ご興味あれば、作者マイページから見てやってください。




