C4-9 黒い友情
「さて、今回の標的を教えよう」
メリアは筆を手に取り、地図上の一点を丸で囲んだ。それは、帝国ミルグの西の果てに広がる荒野だった。
かつて街があったのか、廃墟のような建物が点在する場所。その中に、一つの施設が存在する。
「ターゲットはここに存在する、とある孤児院」
「孤児院?」
「ああ。しかし、孤児院とは名ばかり。実態は子供の人身売買や薬物の製造を行う施設さ」
「人身売買……そういえば、アルジェのところでも奴隷の話が出ていたな」
「帝国のいくつかの地域では、奴隷制度が存在しているみたいね」
どこへ行っても人の業は変わらないのだろうか。魔法が存在するこの異世界ですら、欲望と邪悪は根深く広がり続けている。
「ちなみに、どんな薬物を扱っているんだ?」
「毒や麻薬だね。一部はエディティアにも流れていて、それなりの被害が出ている」
「!! この世界にもそんなものがあるのか……」
「子供たちは薬物の実験台にされる。そして、実験が終わった後は……生きていれば売り飛ばされる。卒業って隠語でね」
「売り飛ばされる……奴隷にするためにか?」
「さあね。考えたくもないよ」
進の心はまるで火中の葉っぱのように激しく揺れた。無垢で無実の子供たちが、想像を絶する残酷な運命にさらされているのだから。
「下僕扱いは当然のこと、魔法のモルモットにされることもある。依頼主たちから聞いた話だ」
口を開いたのはラハムだった。冷静な口調ではあったが、その声には抑えきれない怒りが滲んでいた。言葉の端々から、心の奥底に渦巻く憤りが伝わってくる。
「なっ……! 鬼畜どもめ……」
進は拳を握りしめ、怒りを抑えられずに声を荒げた。しかし、ラハムの次の言葉がさらに場を凍りつかせた。
「そして、食べられることもある」
「……は? 食べる? 子供を?」
誰もが耳を疑った。室内には重苦しい沈黙が広がる。時間が止まったかのような静寂の中、進は冗談だと片付けようとしたが、ラハムの表情がそれを許さなかった。
「帝国には人肉を嗜む奴らがいる。今回の標的である孤児院の運営者は、その一人らしい」
「どうして……よりによって人を食べるんだ?」
「特定の魔法使いたちは、魔法の副作用で味覚が変化し、人肉を美味だと感じる」
「なんでそんなことができるんだ……同じ人間だろう」
「そんな理屈が通じないから、俺たちはテロという手段を取る。今までも、これからも」
進は拳を強く握りしめた。数週間前、アルジェを殺すと決意した時と同じように、手指の関節を収束させ、掌の中へと力を凝縮する。
「絶対に許さない。終わらせてやる」
進のその言葉を聞き、ラハムは過去の記憶を振り返る。故郷で殺された友人たちの横たわる姿。罪なき弱者が虐げられる世界は未だ変わっていない、変えねばならない。
「そうだな、絶対に」
ラハムと進の間には絆が生まれつつあった。それは友情と呼べるかもしれない。しかし青春の輝きとは程遠い、闇の中で鈍く光る絆だった。
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