表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界英雄物語  作者: mania
Chapter4 それは呪いか祝福か
70/73

C4-9 黒い友情

「さて、今回の標的を教えよう」



 メリアは筆を手に取り、地図上の一点を丸で囲んだ。それは、帝国ミルグの西の果てに広がる荒野だった。

 かつて街があったのか、廃墟のような建物が点在する場所。その中に、一つの施設が存在する。



「ターゲットはここに存在する、とある孤児院」


「孤児院?」


「ああ。しかし、孤児院とは名ばかり。実態は子供の人身売買や薬物の製造を行う施設さ」


「人身売買……そういえば、アルジェのところでも奴隷の話が出ていたな」


「帝国のいくつかの地域では、奴隷制度が存在しているみたいね」



 どこへ行っても人の業は変わらないのだろうか。魔法が存在するこの異世界ですら、欲望と邪悪は根深く広がり続けている。



「ちなみに、どんな薬物を扱っているんだ?」


「毒や麻薬だね。一部はエディティアにも流れていて、それなりの被害が出ている」


「!! この世界にもそんなものがあるのか……」


「子供たちは薬物の実験台にされる。そして、実験が終わった後は……生きていれば売り飛ばされる。卒業って隠語でね」


「売り飛ばされる……奴隷にするためにか?」


「さあね。考えたくもないよ」



 進の心はまるで火中の葉っぱのように激しく揺れた。無垢で無実の子供たちが、想像を絶する残酷な運命にさらされているのだから。



「下僕扱いは当然のこと、魔法のモルモットにされることもある。依頼主たちから聞いた話だ」



 口を開いたのはラハムだった。冷静な口調ではあったが、その声には抑えきれない怒りが滲んでいた。言葉の端々から、心の奥底に渦巻く憤りが伝わってくる。



「なっ……! 鬼畜どもめ……」



 進は拳を握りしめ、怒りを抑えられずに声を荒げた。しかし、ラハムの次の言葉がさらに場を凍りつかせた。



「そして、食べられることもある」


「……は? 食べる? 子供を?」



 誰もが耳を疑った。室内には重苦しい沈黙が広がる。時間が止まったかのような静寂の中、進は冗談だと片付けようとしたが、ラハムの表情がそれを許さなかった。



「帝国には人肉を嗜む奴らがいる。今回の標的である孤児院の運営者は、その一人らしい」


「どうして……よりによって人を食べるんだ?」


「特定の魔法使いたちは、魔法の副作用で味覚が変化し、人肉を美味だと感じる」


「なんでそんなことができるんだ……同じ人間だろう」


「そんな理屈が通じないから、俺たちはテロという手段を取る。今までも、これからも」



 進は拳を強く握りしめた。数週間前、アルジェを殺すと決意した時と同じように、手指の関節を収束させ、掌の中へと力を凝縮する。



「絶対に許さない。終わらせてやる」



 進のその言葉を聞き、ラハムは過去の記憶を振り返る。故郷で殺された友人たちの横たわる姿。罪なき弱者が虐げられる世界は未だ変わっていない、変えねばならない。



「そうだな、絶対に」



 ラハムと進の間には絆が生まれつつあった。それは友情と呼べるかもしれない。しかし青春の輝きとは程遠い、闇の中で鈍く光る絆だった。

ブクマと評価ありがとうございます。月一以上の投稿を目指しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ