C4-6 転生者ラハム
青年ラハム。彼はこの世界における転生者であり、仲間のテロリスト。前世はただの三十代の男だった。
転生前は何か秀でたものがあるわけでもなく、妻子も何もいなかった。大した魔法を使えず、見窄らしい容姿も相まって他人から笑われることが多かった。
生き甲斐といえば公園や家の周囲で犬や猫などの動物に餌を与え、育てること。自分に構ってくれて、存在理由を与えてくれる動物が好きだった。
「はぁ……はぁ……」
前世では日課があった。体を鍛えること。そして身体中の魔力が枯渇するまで魔法を使い切ること。
それらの行為は魔法の力を強め、種類を増やすという噂があった。 民間療法の域を出ていなかったが、信じてひたすら努力し続けていた。
「ちくしょう、どうして俺の魔法は何の取り柄もない籠手しか出ないんだ」
いつまで経っても出せるのは、役立たない地味な籠手だけ。武装魔法の一種だが何も傷つけられず、守ることもできない。生まれ変わる前の彼のランクは初級マジシャン。この世界における底辺だった。
「危ない!」
ラハムはある日、嵐のせいで崩れた家の下敷きになって死んだ。死体は同じ村に住んでいた誰かに埋葬されたらしい。そうして、最悪な前世は突然幕を閉じた。
ーー!? どこだここは?
新たに目覚めたとき、赤ん坊になっていた。
「見てあなた! こっちを見たわ!」
「ああ、なんて可愛いんだ」
再来した先は誰もが羨む富豪の家。美人の母と権力者の父に見守られながら再び誕生した。
ーーまさか、生まれ変わったのか!?
ラハムは転生した。最初から存在する大きな財力と地位。加えて端麗な容姿と高い運動能力、知力も備えていた。
その上、転生後の魔法のランクはこの世に百人しかいないアークウィザード。天才と呼べる魔法の才も与えられ、新たな彼は完璧な男だった。
「ラハム、私と一緒に帰りましょう」
「ずるい、あなた昨日も一緒に帰ってたでしょう」
「待てって、ラハムは今日は俺たちと戦争ごっこするんだって」
「おいおい、俺は一人しかいないんだぞ」
幼い頃からヒーロー扱いで、十代になる頃には友達も知り合いも多かった。貴族が通う学校の中、同世代の女子や男子からいつも何かしら誘いを受ける。
毎日のように誰かに取り合われ、優越感を感じない日などなかった。
ーー前世の記憶はもう、自分の名前も思い出せないくらい霞んだ。まあいい。あれは悪夢みたいなもんだ。俺の本当の人生は今なんだから。
自分は主人公。この世は自分のために存在しているのだと信じて疑わなかった。
十代前半のある日、切り刻まれた上に磔にされ死体となった父親。それに加えて殺害された、数多の友人知人の遺体を見るまでは。
「くそ……うぅ……」
彼の故郷は突然帝国の軍隊に襲われ、あらゆるものを破壊され尽くした。才能はあったが、まだ子供だったラハムに為す術はなかった。
全てが終わった後は血と灰の匂いを感じながら、崩れた家と街を見て悔し涙を浮かべるだけ。身に纏う高級な貴族の服も、ズタボロの布となっていた。
「行こう、ラハム」
日が暮れる中、隣に立っていたのは旧知の仲である少女、フレナただ一人だけだった。幼いフレナは瓦礫の上に立ち、ススにまみれた姿で塵芥となった故郷を見据えていた。
彼女が着ていたのは、母親が編んでくれた大切なニットとスカート。それはあちこちが鮮血に染まっていた。
「……分かった、フレナ。お前だけは、俺が護り抜いてみせる」
数え切れないほど大切なものを失ったが、最愛の幼馴染はまだ生きている。互いに手を握り、満身創痍の少年少女は歩き出した。
ーーまだ終われない。いや、むしろここからが本番なのかもしれない。
今や十八歳となったラハムは今日も目を覚ます。仲間を守るため。そして、自分の故郷を滅ぼした帝国に復讐するために。
物語のメイン主人公は転移者の多田進ですが、サブ主人公はこの世界で転生したラハムです。4章まで来て今更ではありますが。 彼を主軸とする章もそこそこ書く予定です。 ラハムを含め、仲間たちの過去編もいつか書きます。




