C4-4 クイスの日記 存在しないページ 前半
ここから先は、僕の記憶を綴ります。翌朝、僕は先生にそっと起こされると、ゆっくりと車椅子に乗せられました。岩でできた廊下に出て、車輪がゴトゴトと小さな音を立たせながら、僕たちは進みました。
「嫌だ」
車椅子が揺れるたびに、僕の心も同じように揺れていました。そして、その不安に耐えられなくなった僕は、小さく悲痛な声を上げました。
「先生やみんなと離れたくない」
その言葉に先生は一瞬だけ顔を曇らせ、けれどすぐに優しい笑顔を浮かべて答えました。
「でも、お外に行かないと治らないわ」
「嫌だ、嫌だ! ここから離れたくない! 僕は先生のことが好きなんだ。先生にお嫁さんになってほしいんだ!」
「あらあら」
僕の突然かつ必死の告白に、先生は驚いた様子で立ち止まりました。見上げた先生の頬は、ほんのり赤く染まっていた気がします。
「ここを出れなくてもいいの? 治らなくてもいいの?」
「いいよ! 先生と一緒にいられるのなら!」
「まあ……」
先生は僕の左手をそっと持ち上げ、薬指にどこからか取り出した小さな輪っかをはめてくれました。それは先生が得意とする織物で作られた、真っ赤な糸の指輪でした。
「先生、これって……もしかして?」
僕は驚きと期待に胸を高鳴らせながら尋ねました。すると先生は静かに、けれどはっきりと答えてくれました。
「分かったわ。ずっと一緒にいましょう」
その言葉を耳にした瞬間、飛び上がりそうなほどの幸福感が僕の全身を包み込みました。
「うぐぅ!?」
しかしそれも束の間、突如として鋭い痛みが背中に走り、全身が痺れました。 目の前が暗くなり、次第に意識が遠のいていく中、先生の綺麗な笑みとカサカサと何かが動く音が脳裏に焼き付きました。




