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異界英雄物語  作者: mania
Chapter3 それでも俺は
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C3-4 開演前の静けさ


「お、戻ったね」



 あれから数時間後。進とフォランは一通り市場や海を見終えて帰宅する。二人とも観光を満喫できたらしく、表情がほっこりとしている



「明日はちょっと遠出するからね。劇場に行くよ」


「劇場?」


「今まで通ってきた道とは反対方向でね。馬車で半日くらいのところに劇場があるのさ。そこは国外で、見回りも兼ねてる」


「ついでに何か演目があるみたいだから、鑑賞しに行くって話よ。あんたも来る?」



 フォランとはつい数時間前に別れの話をしたばかりだったが、まだ別れるにはお互いに惜しいと思っているのだろう。進は快く、誘いを受ける。



「おお、面白そう! でも、なんで劇場は国の外にあるんだ?」


「国外の人でも見れるようにってね。当時建設した人たちの想いだよ」


「ということは帝国の人間も来るってことか……危ないんじゃ?」


「確かにその場所は、例外的に誰の領土でもないから襲われる可能性はある。だが、裏を返せばこちらが攻めても文句は言われない」


「そうそう。それにその場所の近くはエディティアの魔獣が何頭かいる」


「魔獣?」


「魔法を使える獣をそう呼ぶんだ。近辺にはアークウィザード級の獣が少数いる。下手に侵略すれば、逆襲されて酷い目に遭うだけだ」



 普段は物静かなラハムだが、この解説時にテンションが高めだった。もしかすると、彼は動物が好きなのかもしれない。



「その翌日は海に行こう。しばらく行ってないもんね?」


「おお! 海、ハマ!」



 フレナは海が好きなのだろうか。彼女は彼女で盛り上がり、体を上下左右に揺らしていた。



「姉さん、もう変な水着着るなよ? 前は男が大勢寄ってきて大変だったんだぞ」


「そうだね。ラハムが守ってくれて、思わずキュンとしちゃったよ」


「人の話聞いてるのか?」


「けっ」



 メリアに抱きつかれているラハムをみて、フォランが不機嫌そうな顔をする。本当に分かりやすく嫉妬している。


 逆になぜ今まで気づかなかったのだろうか。意識するしないのとでは、物事の気づきは鈍るものなのかもしれない。


 そんな雑談を交わしながら一同は夕食を終え、それぞれの自室に戻る。明日は早朝の出発になるため、各自がせっせと準備を整えていた。

 


 ——————

 


「入るわよ」



 夜遅く、フォランはメリアの部屋へと足を運んだ。 赤い寝巻きが可愛らしい姿を描き出す一方で、 彼女の顔には神妙な表情が浮かぶ。



「どうしたんだい? 一緒に寝たいの?」



 ハグをするように両手を広げるメリア。それを見て少女は「気が向いたらね」と何事も無かったかのように椅子に座る。



「進だけど、この国に置いていくわ。テロリストなんて柄じゃない」


「前にも言ったけど、あの子の代わりなんていないよ?」


「関係ないわよ。あいつ自身が限界だって言ってるんだから」


「本当に? 英雄になりたい願望があるように見えたけど」


「実際に戦場を経験したら、思ってたのと違った。なんて、よくある話でしょ。そもそも姉さんが一番、分かってるはずよ。札を通じて感じてるんだから」



 言葉が途切れ、暫しの間、沈黙が流れる。部屋には静寂が満ち、互いの視線が交差する。お互いに表情は緩いが、空気は張り詰めていた。



「最悪戦えないのなら、来るだけでもいいじゃないか。家事でもしてくれるなら助かるよ」


「それ本気で言ってるの? 外に出れば、保身のために誰かを害するときが来るでしょ。つい先日の出来事じゃない」



 反論できずに下唇を軽く噛むメリア。当然だ、確かな証拠ができてしまったのだから。



「私たちが彼を守り切れる保証なんて、どこにも無い」



 この地の多くは無法地帯のようなもので、まして進は魔法を全く使えない人間。外に出れば、悪人から標的にされることはほぼ確実だ。



「姉さんも気づいてたでしょ? 無理してるあいつを。もう限界よ」


「私たちも最初は、死ぬほど辛かったじゃないか」


「一緒にすべきじゃないでしょ。そもそも戦わなきゃいけない理由がないんだから不可能よ。理由が無いなら作らせるなんて、言わせないわよ」


「……そっか。残念だね」


「そうね。居てくれた方が楽しかったけど」



 互いの意見は一致した。近日中に彼とはお別れだと。それが自然で、今までが異常だっただけ。この世界にまともな事などないのかもしれないが。

 


 ——————

 


 同じ日の夕暮れ時に、とある劇場の近くにある森の中。 いくつも鈍い殴打の音が響き渡り、 獣の死骸が大量に作られる。その中には、頑強なアークウィザード級の獣の屍も混ざっていた。



「この辺りは掃除できました。アルジェ様」


「ありがとう。さあ、劇が楽しみね」



 そこでは、二人の人物が会話をしていた。一人は白い髪をポニーテールで整え、褐色の肌を持つ女性だ。彼女は執事のような紳士服を着用している。凛々しい顔つきも相まって、両性的な印象が強い。


 もう一人は、透き通るような白い肌と茶髪の縦ロールが特徴の美少女だ。彼女は気品ある白地のシャツの上に緑のベストを身に纏う。二人とも、年齢は十六、七歳くらいに見える。


 謎の女性たちは劇場へと向かう。奇しくも彼女らは、テロリストたちと同じ目的地へと向かっていた。

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