C3-2 獣の国エディティア
「やっぱり私が一番好みか。照れるね」
「……」
一体どこまでが本気でどこまでが冗談なのか。会って数日とはいえ、このお姉さんの考えていることは本当によく分からない。
「で、マジな話誰なの?」
「誰って……そんなにすぐに分からないよ」
「純粋だね。強いて言うなら?」
「うーん……一番話してる時間が長くて、人と成りが分かるのはフォランかな。いい子だと思う」
正義感と人情に溢れる少女。敵に容赦のない怖いところもあるが、進は素敵な女性だと感じていた。少なくとも、価値観は一致している。付き合えば、間違いなく尻に敷かれそうだが。
「ふーん、ああいうツンツンしてるのが好きなんだ。でも、今はやめといた方がいいと思うけど」
「そういう意味じゃ……」
「太ももか胸ならどっち派?」
「何の話なんだよ……」
「姉さん、もういいだろ。困ってる」
「わるい、わるい」舌を出しながら笑うメリアをラハムは睨む。庭で布類を干して、しばらく雑談していると、鏡が置いてある倉庫から、馬車を引くベレオンの大きな鳴き声が響く。どうやら目的地に到達したようだ。
「着いたみたいだね」
準備を整え、全員が鏡から外に出る。目の前に映ったのは巨大な森林の中に立つ、高さ10m以上もある白い石付造りの壁だ。飾り気のないそれは、城壁のようにも見える。
どうやらこの壁の奥が、エディティア国の中心都市らしい。周囲にはいくつもの小川が流れており、見慣れない木々や花々が咲いている。
植物も動物も、どこか南国を思い出させる雰囲気だ。加えて、あちこちから潮の香りが漂う。その匂いは、近くに海があることをそっと教えてくれる。
「じゃあ首都に入るための審査を受けてもらおうか」
巨大な壁に設けられた木造の扉が開く。それと同時に市街へと続く、海水に囲まれた石畳の大きな橋が眼前に広がった。
「うおっ!?」
進は思わず驚き飛び退いてしまう。なぜなら入り口で待ち構えていたのは巨体を有する獅子や鷲、牛など屈強な動物たちだから。
「これどうなってるんだ!?」
「いいから静かにしておきな。大丈夫、食われやしないよ。皆腹一杯なんだから」
「こういう審査なのよ」
クンクンと、動物たちが進のあちこちに鼻を近づけて、匂いを嗅ぐ。それは数十秒ほどだったが、本人にとっては非常に長い時間と感じられるもの。
「……ングゥ?」
動物たちが首を傾げながら集合する。彼らはそれぞれ小さな鳴き声を何度か発しており、まるで小声で相談しているかのような様子だった。
「何だ? 一体なんなんだ?」
「んー、これはもしかするとマズイかもねえ」
皆に緊張が走る。もしかすると、進は審査に落ちたのかもしれないと、不安が漂った。
「ガウ!」
「!?」
突如体格のいい、警察犬のような黒い犬に袖の一部を噛みちぎられる。そして、何事もなかったかのように、のっそのっそとそれを加えて持っていく。
「え、どういうこと?」
「合格したみたいね」
「合格?」
「審査に通ったら、衣服の一部を噛みちぎられるのさ。ちなみに私はへその辺りだった」
「私、スカートの端。ちぎられた」
「靴下だったわ。お気に入りだったのに」
「そうなんだ……」
大なり小なり腹立たしかったには違いないはずだが、今となってはいい思い出。女性全員がそんな感じでふんぞり帰っていた。
「大丈夫か? 随分と長い時間を要したように見えたぞ?」
「仕方ないでしょ。奇天烈な人間なんだから」
「この審査って一度不合格したらもう受けれないの?」
「そうだね。私も理由は分からない。彼らは五感で何かを判断しているようだけど、具体的な中身がまだ分かってないんだよ」
「え? それだけで?」
「そうだ。この国の王様も、獣たちが拒絶する人間はこの首都には住まわせないって断言してる」
「首都以外の監視は厳重じゃないから、外には難民や野党が結構いるけどね」
最初の村で出会った親子をここに避難させたかったが、今のところ再審査の方法や解決の糸口は見当たらない。色々と悩みはあるものの、進は歩みを続ける。
市街へと繋がる橋の奥へ進むと、あちこちに犬や猫、鳥など様々な動物が確認できる。 ほとんどの動物はのんびりと寛いでいるが、何匹かはこちらを監視しているような眼光を放っていた。
ここまで馬車を引いてくれたペガサス、ベレオンを道中の馬小屋に預け、いよいよテロリストたちの母国、エディティアの中心地へと入る。
「ようこそ、首都サネスへ。歓迎するよ」
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