C2-10 ネズミ狩り
「フォラン!?」
フォランは思わず仰向けで地面に倒れ込む。先ほどまで何の覇気も魔力も感じなかったジョーカー。だが攻撃する瞬間だけ、今までの兵士とは比較にならないほどの、禍々しく強大な力を感じた。
「傷が深い……集合だ! 守り切るよ!」
メリアの掛け声とともに、全員がフォランを中心に集合する。次の攻撃を、何がなんでも防ぐために。
「治れ!!」
急いでフレナがフォランの治療を開始する。両手を彼女の体に向け、青白い光を大きく強く発する。血液が再び沸き、切られた箇所が縫合されるかのように急速に塞がっていく。
「よくも!!」
ラハムは両刃剣でジョーカーを切り飛ばす。ジョーカーは地面を何回転かして仰向けになるが、何事もなかったかのように無傷のまま。それはまるで不気味なコメディの一場面のようだった。
「いいぞ! ジョーカー、よくやった!」
女王は思わず拳を握り締め、喜びに満ちた声を響かせる。一番憎たらしい女を切り裂いたのだ。歓喜も一際大きい。余韻は長く長く続いている。
「やめろ!!」
崖の上の進は、思わず最後の弾を女王に撃つ。今度は当たったが、12の防御壁に弾かれる。
「失せろ雑魚が! お前なぞ、いないとの同じだ!」
女王からの宣告。実際に銃弾を打ち尽くしてしまった進にできることは、ほとんどない。できるとすれば、数振りしかできない剣を振るうことだけ。だが今降りて行っても、足手纏いになるだろう。
「テレロロロロ……デン!」
再びジョーカーの額のマークが回転する。そして、今度はダイヤに止まる。
「はずれか。まあいい、あの女の苦しむ顔を見れて気分がいいし」
ジョーカーは微動だにせず、舌を出して微笑むだけ。全員が立ちすくむ。
「なんなんだ一体? ……あの回転が止まると攻撃が始まるのか?」
「五、六十秒刻みで、額のマークが決定するみたいだね」
「それによって誰をどう攻撃するか決めるのか?」
この世界に自動で攻撃を行う魔法はいくつか存在する。それは時間経過や特定のアクションによって作動することがほとんど。しかし、今のところ相手の魔法の攻撃が開始される内容は不明だ。
全員が固唾を飲んで見守るなか、治療されていたフォランの傷が閉じられる。赤黒かった箇所が、血色のいい肌色に戻っている。
「ありがと、フレナ。もう立てる」
「よかった……」
ほっと息をなでおろすフレナ。治療したとはいえ、それは応急的なものだ。フォランが多少なりとも無理をしているのは分かっているが、それでも表情は少し明るくなる。
「テレロロロロ……デデン!」
その直後、ジョーカーのマークがハートに止まる。
「ウィリヒヒキィ!!」
敵が、突如フレナに襲いかかる。バトンでも回すかのように、鎌を片手で高速回転させながら。
「させるか!!」
ラハムが剣でフレナを庇う。だが、敵の何もかもが、それをすり抜ける。そして、フレナだけを正確に正面から切り裂いた。
「な!? すり抜けた!?」
「うぐううぅっ!?」
フォランほどではないが、彼女の傷も深い。血が溢れる。
「フレナ! フレナ!」
咄嗟にフォランが、彼女を地に倒れさすまいと抱き寄せる。血が、彼女の両腕を染め上げる。
「大丈夫かい!? 自分を治せるか!?」
「なん……とか……」
青白い光を手から放ち、自らを治療するフレナ。みるみる内に、傷が塞がっていく。どうやら自身を治療するときは、他人より数段早い速度で治療ができるらしい。
「今ので分かったわ。条件が満たされたら、必ず攻撃は遂行されるのよ。避けられないわ」
「一体何がきっかけなんだ?」
パッと見はスペードが攻撃、ハートが回復の行動に対して反応した全員が考えている。だが、その予想も確証に至るものではない。目の前のそれは、あまりにも奇々怪界だから。
「仕組みが分からない以上、本体をいかに早く倒せるかだね。これは時間との戦いだ」
「なら、殺す!!」
二人は大急ぎで女王への攻撃を再開する。防御魔法の効力は無限ではない。魔力切れか耐久力切れを狙えばよく、それはこの世界の常識。
ゆえに何度も何度も、ラハムは狂ったように斬撃を浴びせる。12と剣がぶつかる度に、接触箇所が結晶化し火花が散る。
「くそっ、なんでどいつもこいつもまだ生きてんだよ畜生!!」
女王の怒号が響く中、次はスペードが選ばれる。瞬間、ジョーカーはラハムに襲いかかる。
「!? なに!?」
敵を両刃剣で迎撃する。だが、それは先ほどと同様、霞を切るかのようにすり抜ける。一方、相手の鎌だけは、背中からラハムの腹を貫いた。即死は免れたが、その傷は今までの誰よりも深いものだった。
「ぐおおおおお!?」
「ラハム!?」
駆け寄り、彼を抱き寄せるフォラン。貫通した傷口から、蛇口を勢いよく捻ったかのように、血が溢れ出る。
「いよおおおおし!」
女王の雄叫びが、庭園に響き渡る。それを聞くのは女王の敵と、死体だけだった。
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