C2-8 重ね続ける業
「いいんだよ! 13だけであの赤豚を始末できれば!!」
13はラハム以外の三人を壁に追い詰めていた。フレナの張る防壁に向かって、強く激しく何度も何度も棍棒を振り続ける。
「まずい、破られる!!」
とうとう防御壁が破られ、その勢いでフレナは吹っ飛んでいく。だが、13はフレナでなく、フォランに向かって攻撃する。腹立たしいという理由もあったが、女王は理解していた。
フォランを殺せば、まともな攻撃が来なくなるということを。
「ウォオオオ!」
「くっ!?」
「させるか!!」
メリアはフォランの前に出て、彼女を庇う。13の攻撃により、彼女の両腕は粉砕され、左方へ吹っ飛ぶ。
「ぐああああ!!」
「やめろ!!」
それを見ていた進はたまらず、女王を狙撃する。だが、弾は当たらず虚しく地面を抉るだけ。この銃は扱いが相当に難しい。
「すっこんでろ! やれ、13!」
13はメリアではなく、フォランを再度狙う。メリアも鬱陶しいが、やはりこの赤髪がパーティの核だという女王と13の判断は変わらない。
「引力……」
「!?」
13は突如、右足のふくらはぎがメリアのいる方向へ引っ張られ、すっ転ぶ。右足には緑の文字が書かれた札が貼ってある。
「!? なんだあの引っ張る魔法? あの女も二重か?」
二重ではなく、メリアの魔法は札に字を書き、魔力を流し込むことで発動する文字札。文字の内容によって発動できる魔法の種類は異なる。出力は平均以下で、大体の札は一度使用すると使えなくなる。
だが、不便さの代わりに、いくつかの効果を発揮できる。この世界では非常に珍しい魔法。
「どいつもこいつも珍獣ばっかり……駆逐しろ!」
右足の札を払った13が、再度フォランめがけて棍棒を振る。
「させ……ない」
だが、今度は13の右腕が引っ張られ、棍棒の狙いがずれる。振り抜いた先は、ただの壁だ。目立たないように右腕の裏にも札が貼られていたのだ。
「あの女! 殴られる瞬間に何枚も札を貼りやがったな!」
13は一旦その場で静止し、全身を確認する。そして身についた札を全て破き、払う。
「見苦しいんだよ! 雑魚のくせに」
「見苦しくなんかないわ。努力は確実に繋がっていくのよ」
「は?」
「おかげ溜まったわ。火葬の時間よ! M2!」
今の今まで魔力を掌に溜めていたフォランは、新たに強烈な一撃を繰り出す。ところどころ青白い、今までより遥かに高熱の爆炎が13を襲う。
「ウォオオオオオ!!」
再生する間もなく、雄叫びとともに13は焼却され、灰は風に吹かれて飛んでいく。残ったのは、血だらけの棍棒だけだった。
「な、なんだ今の火力……あいつ、あんなに強力な魔法を使えたのか?」
切り札を燃やされ、仰天し、呆然とする女王。一方11とラハムの様子はーー
「そこで水平斬り……予想通りか」
11は速度こそ桁外れだが、動きは単調だった。11の行動は女王の思考を反映しているようだ。ゆえに10と同様動きは捉えられ、もはやラハムにまともなダメージを与えることができなくなっていた。
ーー魔力量はこいつの方が数段上だが、練度が低い。この女、実践経験がほとんどないな。
「両刃剣!」
ラハムは一秒ほどでアーマーを解除し、大きな剣を生成する。そして、11の突きを見切り、かわし、カウンターで両腕ごと胴体を切り裂く。
その威力は絶大で、高い素早さが仇となる瞬間だった。再生能力も高い耐久力もない11は、ただ崩壊していくだけ。 とはいえ、ラハム側もあちこち傷だらけで、魔力もほとんど残っていない。紙一重の勝利だったと言える。
「あ……あ……」
切り札二枚を破られ、愕然とする女王の口は半開きになる。視線は何にも焦点を合わせられていない。
「メリア!」
一難が去ったあと、フレナは即座にメリアの元に駆けつけて、治療を開始する。彼女の両腕は、あられもない方向へ曲がっている。
「超再生!」
魔法名とともに、青白い光がメリアの両腕を治していく。傷跡が塞がりはじめ、曲がっていた骨も徐々に元の姿へ戻って行く。
「はは……死ぬかと思った」
「あの黒豚、回復魔法まで……どうなってんだこいつら?」
重症だが、メリアは治療すれば完治する。レジスタンスたちがほっと息をなでおろす中、女王は怒り狂いはじめた。
「ふざけるな! なんでこんな訳わからない奴らと戦わなきゃいけないんだよ!」
手に持っている剣をあらゆる方向に思いっきりブン回す。その勢いで、剣が手からすっぽ抜ける。
「ぎゃっ!!」
飛んでいった剣は隣にいる女王の従者、ブリタの頭を貫く。彼は倒れ、胸ポケットから懐中時計を落とした。中には、娘とおぼしき人物の絵が入っていた。
ちなみにアンビストマ(Ambystoma)はメキシコサンショウの名前です。
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