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異界英雄物語  作者: mania
Chapter2 女王をモノに変えるまで
24/73

C2-7 撃ち抜くのは未来

 

「あれは不味いね……」



 メリアが駆け足で後方の進へ向かう。



「進、話せるかい?」


「……」



 漂う甘い匂いの不快感に、人殺しの罪悪感。様々なものが脳内で氾濫し、進はフリーズしていた。



「進? 大丈夫かい?」


「な、なに?」



 肩を揺らされ、現実に戻る進。ふう、と一息ついてから、メリアは強い口調で話し出す。



「あんたには、二つの選択肢がある。一つはさっきの馬車に戻って、鏡の前で待機すること。もしも敵が先に来たら、避難してから鏡を壊す。新しく出てきた奴らはとても強い。もう、私たちがあんたを守り切れる確証はない」


「も、もう一つは?」


「もう一つは、さっき焼き払った崖の上に登って、隠れてあの女を狙撃すること。最初の一発を撃ったら、下手に連射しないように」



 メリアは崖へと繋がる、傾斜の緩くて登れそうな部分を指差す。確かにそこからなら登れそうだ。だが……



「狙撃……でも、正直当てられるかは分からない」



 素人が当てられるほど簡単なものではない。実際の銃だろうと、この世界の銃だろうと、それは同じことだった。



「それに、あの敵には防壁を纏っているし、威力の低いこの銃でどうにかなるのか?」


「いいんだよ、それで。ただし、私たちが同一射線上にいるときは、撃たないで」


「え? どういうこと?」


「やってみれば分かるさ。多方向、多人数から狙われることの恐ろしさ」


「……」



 進は(にわか)には、言われたことが理解できなかったが、メリアの自信に満ちた眼差しを見て、迷いはなくなる。



「崖に登り切るまで守りきる。どうする? 今すぐに決めて」



 体中の傷が痛みだす。それは警告なのだろう。逃げろ、やめろという。加えて、先ほど誰かを間接的に殺してしまった罪悪感で動悸がとまらない。だが幸か不幸か、仲間の奮闘を目にし、止まれないほどに彼は勇気づけられてしまった。



「分かった」



 二人は焼け野原になった崖の上に向かって走り出す。ギシギシと、進の重たい装備が揺れる音とともに。女王の視界に二人は入っていない。視線は9と10を倒した、腹立たしい戦士たちに釘付けになっている。



「ふん、下民の癖によく頑張ったよ。褒美に血祭りにしてやる」


「!!」



 突如、11が疾風のような速さでフォランに襲いかかる。どうやら11はスピードに特化した戦士らしい。



「まずい、避けきれない!?」


「はっ!!」



 フォランのすぐ後方に構えていたフレナが再度、防御壁を展開する。それは二人を包み込む、球形状の防壁だ。11の攻撃は弾かれ、派手に仰け反る。速度はあっても、11の体幹はあまり強くないようだ。



「面倒な黒豚だね! もういい!」



 フレナと11の相性がよくないと判断した女王は、11にラハムを狙うよう指示する。



「なにっ!?」



 再び疾風のように走り出し、ラハムを狙う11。あまりの速さに、彼は11を捉えきれず、腕や背を切られる。



「くっ!」


「はは、いいね! そのまま首を刎ねちまいな!」


「……(ブルグント)



 ラハムは槍を消し、代わりに白銀の光輝く美しいフルアーマーを生成して身につける。そして、首に向かって振り下ろされた11の刃をガキィと弾く。 ただ、力の差があるため、剣の当たった箇所は凹んでいた。



「なっ!? あいつ一体何種類持ってるんだい!?」



 女王が驚くのも無理はなかった。なぜなら、武装魔法は普通、一人が生成できるのは一か二種類までだからだ。三種類以上は、才能に恵まれた者しか与えられない。


 とはいえ、生成できるのは一度に一種類のみ。ラハムはアーマーを着たまま、格闘技を駆使して11と戦い始める。



「しぶといわね……」



 一方、フォランは絵札の戦士の片割れ、13と戦っていた。何度も炎を浴びせるが、13はすぐに再生してしまう。移動速度は11と違い、遅めだった。だが、タフネスと再生能力を活かして、じりじりとフォランとフレナのペアを追い詰めていく。



「私も手伝うよ。あんたがこいつを倒せるかにかかってる」



 進を送り終えたメリアは、フォランの元へと駆けつける。それと同時に、緑色の札をフォランに貼り付ける。



燐光(カルサイト)



 メリアの魔法名とともに、メリアからフォランへ魔力が譲渡されてゆく。その移動する魔力の動きは、女王にも感覚で分かるものだった。



「なるほど、その金髪は魔力の貯蔵庫ってことか。先に殺しとけばよかった」


「へえ、意外ね! 後悔できるだけの頭と器があったのね!」



 忘れた頃に発せられる、フォランの煽り。事実、効果はある。ここまでテロリストたちが生き残れたのは、女王に冷静さと慎重さが欠けていたことが大きい。



「二度と話せなくしてやる!」



 魔法で何度怒りを抑えようとも、デスコヴィは溢れんばかりの負の感情を完全に制御できずにいる。彼女は病気にも等しい狂気と癇癪を抱えているのだ。



「!!」



 剣を振り回す女王に恐怖したブリタは再度、魔法のラッパで女王を(なだ)める。そして、女王は多少なりとも怒りを鎮める。



「ふんっ! (なぶ)り倒せばいいだけだ」



 だが、ブリタは女王の積もりに積もった怒りに対して、徐々に魔法の効果が薄れていくのを感じていた。そんなとき……



 バキュウウン!



 北東の崖から女王を狙撃する音が聞こえる。しかし、放たれた弾丸は、女王より後方の離れた場所に着弾する。掠りすらしない。



「くそっ! やっぱり当たらない」


「さっきの黒髪のネズミか? どこ狙ってるんだい」



 だが言葉とは裏腹に、進の狙撃は女王に大きな圧をかけるものとなった。放たれた銃弾の威力は僅か。また、離れているとはいえ、進本人からは魔力そのものを感じない。



 ーーこいつは攻撃の狙いもまともに定まらないし、魔力もない。要するに役立たずの雑魚。だけど、無視はできない……



 仮に目の前の四人を殺せても、それで終わりでなく、11か13のどちらかを残さねばならないという不安が芽生えた。魔法抜きで100%進に勝てる保証はないからだ。



 ーー11、13の両方が消えれば、あの黒髪のガキ一人にすら勝てるかどうか分からない。あいつが格闘技に秀でていれば、絞め殺させるかもしれない。


 ーー12(クイーン)は単なるの防御魔法の上に、使用中に私は歩けなくなる。これだけが残っていても、まともな戦いになるかどうか……



 女王は先ほどまで、11を13に合流させ、フォランたち三人を先に始末しようと考えていた。だがそうすれば、11か13のどちらかはラハムに背を突かれて破壊される可能性が高い。


 とはいえ片方が残れば、後始末はできるだろうと考えていた。 しかし、小物とはいえ進が戦闘にまで参加してきたせいで、その計算が正しいのか少し怪しくなった。



 ーー私の手札はほぼ出し尽くした。これで終わらせられないとマズい。



 不安を払拭できない女王は決断ができず、だらだらと11と13を戦わせている。その判断が命取りとなるとも知らずに。

ちなみにメリアの魔法名の由来は鉱物です。

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