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異界英雄物語  作者: mania
Chapter2 女王をモノに変えるまで
20/73

C2-3 止まれぬ正義

 

 時は数分前まで遡る。



「あんのジジイ……」


「すまない、すまない……」



 フォランが睨みつけているのは、独り言のように謝罪をする謎の白髪の老人だ。先程までずっと隠れていたようだ。大した魔力を持ってないようで、すぐ近くに来るまで気づけなかった。


 そこは国境に設けられた、関所と城を兼ねた施設だ。馬車は城へと繋がる、石造りの橋の上を渡っていた。橋は片側が跳ね上げ式で、老人により上げられてしまう。つまり来た道は崖となってしまい、戻ることができない。


 残った方は城の大きな庭へと繋がっているが、明らかに誰かが待ち伏せている。おまけに周囲は断崖絶壁。空を飛べればいいのだろうが、生憎ペガサスであるべレオンの翼でも馬車ごと飛行はできない。



「この先に間違いなく、ろくでもない悪人がいるわね」



 庭の方から敵意とともに、邪悪な魔力を感じる。魔法を実際に出すまで魔力の底は分からない。だが、本能的に凶悪な存在が待ち構えていると分かる。



「進に武装させて、連れてくる」


「!? 本気で言ってるの?」



 フォランの表情には、怒りと呆れが同時に浮かんでいた。『素人を矢面に立たせても、死ぬだけ』と言わんばかりの冷たい目つきだった。



「閉じ込められたんだ。一人にさせても死ぬだけだよ」


「来ても死ぬでしょ」


「私たちから離れさせて、後方の監視をさせる。それなら危険は少ない」



 険しい表情のフォランとは対照的に、淡々と話すメリア。真昼、太陽が照らす石畳の橋の上で、鳥の鳴き声だけが聞こえる。



「私たちの家に逃すのは? 鏡を壊せば追えないわ」


「あの家は辺境の中でもさらに辺境にあるのは知ってるだろ。食料のストックもほとんどない。あの子だけならいつか野盗や獣に襲われて死ぬ」


「……愚問だったわね」

 


 ——————

 


 そして、今に至る。



「姉さん、何が起こったんだ?」



 話ながら、ラハムはリビングの籠に置いてあった武装を装着する。フレナも自室に戻って早々に準備を整え始める。二人とも疑問は持っているものの、慣れた顔つきだ。



「国境の城に敵がいる。今は橋の上にいるけど、片側が跳ね上げられて戻れない」


「待ち伏せされてたってことか」


「多分、私たちを狙ってるわけじゃなく、無差別にやってるね。血の匂いがあちこちからする」


「……やりたい放題か、ふざけるなよ」



 先ほどの温和な表情と雰囲気から一転し、激昂するラハム。怒りを燃やすラハムとは違い、進は衝撃のあまり何も考えられず、頭が真っ白になる。


 昨日の今日でこんなに争いに巻き込まれるとは。この世界はあまりにも狂っている。



「進も武装するんだ。私たちの後ろを、馬ニ頭分離れてついてくること。背後から敵が来たなら叫んで教えて」



 メリアはリビング端の箱から、先端の細い筒状の何かと刀に近い形状の剣を取り出す。筒状のものは銃だろうか。引き金と持ち手が見える。加えて、鎖帷子(くさりかたびら)のような防具もだ。そして、それらを進に差し出す。



「気をつけないといけないのは、銃は三発しか打てない。その上、威力も大したことはない。頭に当てれば気絶くらいはさせられるかもしれないけど」


「え!? いや、ちょっと……」


「あと、剣の方はちゃんと何かが切れるのは数振りだけ。攻撃時は柄のトリガーを握って、魔力を刀身に巡らせる。誰かが魔力を込めれば両方とも、また使える」


「待ってよ! 俺は戦えないよ!」


「戦わなくていい。その武器も飾りだ。危なくなったら私にしがみついてな」


「いや、この家にいようよ! 鏡を壊せば追ってこれないだろ?」



 一瞬、その言葉で全員が沈黙する。もしかすると全員が本当はそうしたかったのかもしれない。オアシスを夢見るような儚い表情になる。だが、皆がすぐに現実へと戻り、鋭い目つきになる。



「確かに不利な状況は抜け出せるだろうさ。でも、この家からこの国境に戻るには何週間もかかる。その間に、橋を通る人たちがどんな目に遭うか分からないよ」


「じゃあ橋や城を破壊して逃げれば……」


「敵が黙って見てるわけない。それに、根本的解決にならない。あんたも分かってるだろ」



 メリアの鋭い視線と言葉。進は何も言えなくなり、固唾を飲む。



「俺たちは偵察も何もせず、悪人から逃げるわけにはいかない」


「それに、今までも不利な状況なんて何度もあったからね」



 自身の危険も顧みない、彼らの正義の心。思わず胸が熱くなる。たとえこれから死地に赴くことになろうとも。



「怖いなら、隠れてていい。鏡、壊していい。私たちだけでやる」



 自室から戻ってきたフレナ。胸や首、要所要所を硬質の素材で固めた戦闘服を着ている。先ほどまでの、のほほんとした表情とはうって変わって、覚悟を決めた凛々しい戦士の顔つき。


 可愛らしさに似合わない、強く鋭い眼光が彼女の両目に灯る。



 ーー大丈夫、進はきっと特別になれる



 頭の中で祖母の声が聞こえる。



「……俺にできそうなこと、全部教えて」



 多田進は度胸がないわけではないが、どちらかといえば臆病な人間だ。だが、自分と歳がほぼ変わらない人たち。まして、女性たちを戦わせて一人逃げるような腰抜けではなかった。

皆様のブクマと評価をお待ちしております。

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