C1-2 多田進の説明書
多田 進は父が大企業の幹部、母がプロゴルフ選手。恵まれた両親の元で育った。
兄はプロ野球選手、妹は飛び級でハーバード大に入学。おお、すごい。では、進はどうか? 本人は至って並の人間。
兄に憧れて野球部に入っていたが、ベンチにいる時の方が多かった。自分のの才能は頭脳にあると考え勉強に集中する。だが、妹とは雲泥の差。
ーー大丈夫、進はきっと特別になれる
それは大好きな祖母がいつも言っていた言葉。両親にあまり構ってもらえないから、祖母と一緒にいることが多かった。
「進はきっと特別になれる」その言葉には愛情が込められていたのだろうが、今となっては呪いになってしまった。
進はプロゲーマーやら動画配信者やら歌い手やら……流行りのものに何でも手を出しては失敗を繰り返した。両親も見ていられなかったのか、父の会社にコネで入社しろとのこと。
皆知ってる大学に合格してこい、それなら文句は言われない、と。疲弊し切っていた彼は傀儡のように従い、地方国立大を受験した。結果は不合格。
「そんな意味のない人生を送っていたはずだったのにな……」
合格発表日、彼は異世界に飛ばされた。木造小屋、見知らぬベッドの上。両腕両足を縛られた状態で目を覚ます。甘い匂い。気持ち悪い。吐きそうだ。
切断された左手から響き続ける痛み。過去最悪の気分で目覚めると同時に理解する。
ーー俺はまだ、家には帰っていないんだ。




