表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界英雄物語  作者: mania
Chapter2 女王をモノに変えるまで
19/73

C2-2 一寸先は悪夢 (ベレオン 挿絵あり)

挿絵(By みてみん)

ベレオン イメージ図


 リビングの隅の大きな箱から取り出されたのは、鈍色のガントレットだ。そして、フォランはそれを進の左腕につける。端っこには輪っかがついていて、それを締め付けることでガントレットは腕と固定される。



「そういえばそんな魔道具もあったな。忘れたけど」


「イカす」


「重た! なにこれ?」


「いいから、これもつけて」



 青色の石がついた首輪を渡される。吸い込まれそうな澄んだ色だ。進はそれを首につける。すると石が鈍く輝き出す。



「つけてどうなるって……うおお!?」



 左手が動く。自分が思った通りに。どうやらこの首輪を介し、持ち主の意思を命令としてガントレットに送っているようだ。



「す、すげー! これって義手じゃないか。しかもすごいハイテクな」


「そう。5キロくらいあるけどね」


「5キロ……」



 かなり重たい。常に筋トレをしているようなものだ。 まだ治りきっていない傷口が、開きそうな気がするほどの負荷がかかる。



「あと、壊れやすいからあんまり乱暴に扱ったらだめよ」


「……もっといいやつないの?」


「ないわよ」



 フォランは我儘を言うなと言わんばかりにぶっきらぼうに答えた。その言葉に進の表情は一瞬で虚ろなものに変わった。しかし、彼はいつまでも後ろ向きでいるわけにはいかなかった。深呼吸をし、自分に言い聞かせる。



「不便だけど、ないよりは遥かにマシか」


「右腕と両足もあるから、そこもぶった斬られても大丈夫よ」


「何も大丈夫じゃないだろ……」



 こんな重たいものを何本もつけてられらない。というより、フルセットがあるということは、彼らは両手両足を失っても戦うという決意を持っているのだろうか。そう考えると、少しゾッとする。



「ちなみに誰もが人間の魔力は感じられるけど、モノの魔力は察知できないの。それで熊よけができると思っちゃだめよ」


「ハッタリにはならないってことか」


「逆に言えば油断させられるけれどね。じゃあ二人とも色々頼んだわよ。私は姉さんといろいろ話してくるから」


「そうだな……じゃあまずは掃除から一緒にしよう」


「過去の話、聞かせて」


「あ、うん」



 進は慣れない義手をつけて家の掃除をし始める。この家は築数年といったところだろうか。建ってから新しい印象を受ける。


 フィクションでしか見たことのないような上品な階段、家具、蝋燭、絵や置物。ファンタジーが好きな進は、歩いているだけでワクワクしてしまう。


 掃除中に進は、自分の過去と住んでいた世界の内容を話す。二人は小説でも読むかのように純粋に楽しみながら聞いてくれた。


 やはりこの世界との乖離(かいり)が激しすぎて信じてもらえなさそうだが、いくつか共通点はあるようだ。



「銃はこの世界にもあるな。火薬じゃなくて魔法を撃ち出すが」


「へぇ、面白いな」



 雑巾で窓を拭きながら、話を続ける。どうやら異世界であっても同じ人間同士発想は同じらしい。似たような発明は多々あるようだ。



「スマホ、私、ほしい」



 フレナの話し方は、言葉使いや間の取り方が独特な印象を受ける。選ぶ単語は短いものが多いが、全体的に伸び伸びと間の長い話し方。おっとりしているというか、天然とでも言えばいいのだろうか。



「端末だけあっても電波がないからどこにも繋がらないよ、多分」



 フォランやメリアと違い、二人は好意的かつ真剣に聞いてくれる。真剣に聞く方がおかしいのかもしれないが。



「二人とも、信じてくれるの? 俺の話」


「正直、(にわか)には信じられない。物理的な法則とかはこの世界と同じだから、それをベースに作られた記憶って感じがする。フォランも言ってたけど、魔法で進の頭が混乱してるんじゃないか」



 果たしてどちらのほうが夢かうつつか。今はどちらも現実と信じて生きていくしかないが。いずれの世界にせよ、辛いのはなんとかならないものか。



「だとすれば、この顔の造りとか服装とかどう説明がつくんだろ」


「別大陸から来たっていうのが一番納得できるな」


「進の話は面白い。いい絵本、書けると思う」


「絵本か……」



 確かに何かしら元にいた世界をベースに、何か書籍を出してもいいかもしれない。売れる気がする。こんな理不尽な目に遭ったのだ。


 少しくらい元の世界にいた恩恵を享受してもいいだろう。まともな出版の仕組みがこの世界にあればの話だが。



「ところで進は、俺たちが何をしているのか知ってるのか?」


「うん? ああ、メリアから聞いたよ。帝国に対抗するテロリストだって」


「そうか……巻き込んでしまってすまない」



 ラハムの面持ちは罪悪感からか、とても暗い。それは彼が善良な人間という証明でもある。雑巾で拭いたガラスが綺麗に彼の曇った表情を映し出す。



「いいよ。戦うわけじゃないし。それに、村に留まってても安全じゃない上に、何も始まらないよ」


「ポジティブ」



 フレナはいい子だね、と言わんばかりに進の背中を軽くポンと叩く。その柔らかい手といい匂い、不規則な行動から進はドキッとするが、彼女本人は無表情なので困惑してしまう。



「でも、そんな重大な秘密を俺に話してよかったのかなって思う。今更だけど」


「進はみんなを助けた、いい人だからな」


「聞いたのか、村での話……」



 思わず目線を逸らしてしまう。一応誇りには思っているが、言いふらされると気恥ずかしいものはある。



「もちろん。それに、姉さんのつけた札をずっとつけてる」


「え? 札?」


「聞いてないのか? それをつけてると、姉さんは相手が今どんな感情を、どれくらい抱いているか分かる。裏切ろうとしてるなら、すぐに気づける。悪意や敵意が分かるから」


「な!?」



 そんなことは一言も聞いていない。ただの翻訳機だと思っていたが、それ以上の役割があるようだ。やはりメリアは腹黒い。



「あの女……尋問も必要なかっただろ」



 思わず悪態をついてしまうほど進は怒る。当のメリアは尋問によって、進が本当に魔法が使えないのかギリギリまで追い詰めて確認したかっただけだが、タチが悪い。てへペロとメリアがウインクをする姿が想像できてしまい、さらに苛立つ。



「やったれ、やったれ」


「煽るなよフレナ……」


「ふん、まあいいさ。皆の国に行くまでの付き合いだろうし。俺は何の訓練も受けてない一般人なんだから」



 膨れっ面で進は淡々と話す。感情的になってしまったが、事実、自分が戦いで何ができるわけでもないだろう。ただの素人なのだから。



「でも、俺たちと一緒にいる時点で常に危険は伴う。顔はバレてないが、お尋ね者であることは間違いない」


「それはそうかもしれないけど……」



 ーーあなたの意思通りにはならないわ。きっと。



 あの村で出会った女性の声が響く。同時に胸がざわめく。



「あんたたち、武装を整えて表に出て!!」



 突然メリアの荒々しい声が聞こえる。どうして嫌な予感だけは、こうも正確に当たってしまうのだろうか。

イラストは全部AIです。科学の力ってスゲーと思います。

皆様のブクマと評価をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ