C1-16 旅立ちの日に
ベッドの中、進は考え込んでいた。メリアたちについていくことには、躊躇いと不安があった。たまたま自分はここに飛ばされただけ。
魔力が無いなど、元々いた世界の人間なら誰もが持っている特性。至って凡人の自分に、危険な状況で生きていける自信はなかった。しかし……
——あんたしか出来ないことはなくとも、あんただけが行ったことは確実にある
フォランの言葉が頭の中で響く。同時に胸が熱くなるのを感じる。きっと、ここに来たことに何か意味がある。
ーーそもそも彼女たちは本当に信じられる人間なのか? それに、自分がテロリストになれる、人が殺せるとは正直思えないな。
と進は悩む。しかし、この村に留まっていても何も起こりはしない。もしも、ここで止まれば二度と進めなくなるような気がする。
それに、自分が何かできれば、この村も無法地帯ではなくなるかもしれない。
ーーとにかく、二人について行ってみよう。何かがわかるはず。何かが動き出すはず。
進はそう決心する。
——————————
「嬉しいよ、一緒に来てくれて」
翌朝、馬車が停めてある村の出入り口。そこに進はいた。これからテロリストたちの母国へ行くために。
「一旦、二人の国までついていくだけだよ」
「私たちだけじゃないんだけどね、あの二人を紹介しないと——」
「待って!」
誰かが走って駆けてくる。徐々に姿が大きくなるそれは、進が助けた親子だった。
「はぁ、はぁ……お別れを言いたくて」
「それでわざわざ走ってきたのか」
母だけでなく、娘も拙い走りで駆け寄ってくる。ぜーぜーと息を切らしながら。
「そうだ! 俺と酒蔵で喧嘩していた男の人が無事が知ってる?」
「ええ。生きてるわよ。片足を切られて歩けなくなったけど」
「!!」
想像以上に酷い目にあっている男の状況を聞いて進は顔が青ざめる。だが幸か不幸か、こういったことにもはや慣れてしまい、気持ちを切り替えて話し出す。
「あの人のおかげで助かったからお礼を言いたくて」
「大丈夫よ、代わりに言っておいたから」
こういう大切なことは直接言うべきだろうが、フォランもメリアも早くしろと言わんばかりの目で見つめてくる。また次の機会があればお礼を言おう。そんな機会があるかどうかは分からないが。
「行くのね」
「うん。君も元気でね」
進は娘の頭を撫でる。だが、浮かない顔だ。わかっているのだろう、お別れの時間が近づいていると。その顔を見て後ろ髪をひかれるが、進は行かなければならない。
何故自分はこんな場所に来たのだろうか。何の意味があるのだろうか。彼女らについて行くその先に、答えがあるような気がするから。
「投げ出したくなったら、私たちのところに戻ってきてね」
「戦いに行くわけじゃないって。それに、そんなに簡単に投げ出さないよ。男の子だから」
男の子だから。昔よく祖母におまじないのようにかけてもらった言葉だ。これだけで一回り、二回りは強くなれる気がするのだから不思議だ。
「あなたは優しいから、苦しむときが来るわ。戦いで人を殺めた私の夫も同じだった」
「だから、まだ戦うって決めたわけじゃないよ」
「勝手にこの世界に呼ばれたように、あなたの意思通りにはならないわ。きっと」
「……」
今のいままで旅立ちの日のような、温かい風が吹いていたはずだった。しかし、この瞬間は何もかもが寒くて不安に感じる。まるで地震が唐突に起こり、足場が揺れ動くような感覚。
「元気でね。また会えると願ってる」
進は大きなほろのついた馬車に乗り込む。馬車は動き出すが、その姿が見えなくなるまで、親子はずっとその場で立ち続けていた。
これで一章は終了です。読んでもらってありがとうございます。
主人公が手を切り落とされた伏線は、後々回収します。
★評価やブクマをお待ちしております。




