C1-1 Hello nightmare world
「手がああぁぁ!?」
多田 進は、あまりの痛みに蹲る。彼の左手は切断され、夥しい血が溢れ出す。
「うるせえ!」
進の手を切断した男が怒鳴り返す。人相が悪く、衣服も含めてあちこちに傷がある男だ。
――いったい何がどうなっているんだ!?
進の頭の中は、疑問と恐怖と不安で一杯になりパニックとなる。 彼は大学不合格となったその日、いきなり異世界に飛ばされた。そこで初めて会った男に左手を切断されたのだ。
「クソ! こんなガキに構っている暇はねえ! アイツらに追いつかれちまう!」
止めを刺す暇もないと、人相の悪い男は建物の奥へと駆けていく。何かに怯え、それから逃げるように。
「逃がすか!」
ゴオオオォッ!!
突然、扉の方から少女の大きな声が聞こえた。それと同時に、巨大な矢のような炎が建物内に打ち込まれる。どうやら、進を攻撃した男を狙っているようだ。何が起きているのか確認したい。
だが、今はのた打ち回ることしかできない。痛みでまともに目を開けてどこかを見るなどできやしない。音を聞くだけで精一杯だ。
「うおおっ! くそっ!」
呼吸が整っていないまま、男は千鳥足で炎をなんとか避ける。再び逃げ出し、建物奥のガラスを落ちていた椅子を投げて叩き割る。
尖った破片だらけの風穴に向かってジャンプし、外へと脱出した。建物の周囲は湖に囲まれおり、飛び込んだ先は水中だ。必死に泳ぎ続ける。
「逃がさないって言ってるでしょうが!」
「待った、怪我人がいるよ!」
「う……ぐあ」
横たわる進を何人かの男女が取り囲む。意識が朦朧としていて、顔も人数もはっきりと把握できない。血液が少なくなり、酸素が巡らず全身が痺れている。
この人たちは敵か味方か分からない。今すぐ逃げ出したい。だが、立ち上がることすらできない。もう気絶する寸前だ。
「これは酷い。フレナ、頼んだよ」
「分かった」
フレナと呼ばれた黒髪の少女が進の血まみれの左手の上で両手を掲げる。すると、謎の青白い光が進の左手を覆った。そこから不気味な甘いニオイを強く強く発している。
「何をやって」
「じっとして」
「一体どうなって……」
言い終わらない半端な言葉を発し、進の意識は途切れた。硬い地面の感触も、今はもう何も感じない。ただ、重たい瞼を閉じるだけ。最後まで目に映ったのは、血だらけの左手だった。
陰鬱な展開が続きますが、一旦ep12あたりで明るくなります。そこまでご覧いただけると幸いです。