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異界英雄物語  作者: mania
Chapter1 英雄
1/73

C1-1 Hello nightmare world


「手がああぁぁ!?」    


 多田ただ すすむは、あまりの痛みに(うずくま)る。左手が切断され、(おびただ)しい血が溢れ出す。  


「うるせえ!」  


 加害者の男が怒鳴り返す。人相が悪く、衣服も含めてあちこちに傷がある男だ。  


 ――いったい何がどうなっているんだ!?  


 頭の中は、疑問と恐怖と不安で一杯。 大学不合格となったその日、進はいきなり異世界に送られ、謎の男に左手を切断される。

 

「クソ! こんなガキに構っている暇はねえ! アイツらに追いつかれちまう!」


 止めを刺す暇もないと、人相の悪い男は建物の奥へと駆けていく。何かに怯え、逃げるように。


「逃がすか!」


 ゴオオオォッ!!


 突然、扉の方から少女の大声。同時に、巨大な矢のような炎が打ち込まれる。どうやら男を狙っているよう。一体何が起きているのか。


 今はのた打ち回ることしかできない。痛みでまともになにかを見るなどできない。


「うおおっ! くそっ!」


 息も絶え絶え、千鳥足で炎をなんとか避ける男。建物奥のガラスを落ちていた椅子を投げて叩き割る。


 破片だらけの風穴に向かって、飛び込んで脱出。周囲は湖に囲まれおり、ゼーハーと泳ぎ続ける。

 

「逃がさないって言ってるでしょうが!」

 

「待った、怪我人がいるよ!」

 

「う……ぐあ」


 横たわる進を何人かの男女が取り囲む。出血で酸素が巡らず全身の痺れ。意識混濁。敵か味方がいるのか分からない。逃げ出したい。だが、もう気絶する寸前だ。


「これは酷い。フレナ、頼んだよ」

 

「分かった」


 フレナという黒髪の少女が、両手を掲げる。謎の青白い光が進の左手を覆い、不気味な甘いニオイを強く強く発する。


「何をやって」

 

「じっとして」


「一体どうなって……」


 意識は途切れた。硬い地面の感触も、もう何も感じず、重たい(まぶた)を閉じる。最後まで目に映ったのは、血だらけの左手だけだった。

陰鬱な展開が続きますが、一旦ep12あたりで明るくなります。そこまでご覧いただけると幸いです。

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