表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【超短編】空を飛びたい

作者: ねーむれす

初投稿です!

これからも短編を投稿するつもりなので、ぜひ見ていただけると嬉しいです!

※この作品は「ノベルアッププラス」にも掲載しています。

あれは、親と旅行に行った時だ。

どこに行ったか、何を食べたか、全く覚えていない。

正直国内か海外かすらも覚えていない。


ただ、飛行機から見たあの光景だけは鮮明に覚えている。


いつもは遥か上にある雲が下にある。

地上にいると感じられない、地球全体を監視できているようなあの感覚。

俺はあの時から、あの光景の虜だ。


少し塗装が剥げてきたランドセルを背負い、みんなで学校を目指して歩く。


カー。カー。


いつも通りのBGMだ。


空を見上げる。

翼を精一杯羽ばたかせて、飛んでいる。


人工の力じゃない。

自分の体の一部を使って空を飛び、いつもあの光景を眺めている。


俺は、そんな存在にいつからか憧れを抱いていた。


「私の夢は看護師です!」

「僕の夢はサッカー選手です!」

毎年、卒業式前日に行われる夢発表会が始まった。


親が来るのはもちろんのこと、家庭科の先生や保健室の先生、施設員さんなど、普段あまり見かけない先生も来る大きな行事だ。


「俺の夢は空を飛ぶことです!」


教室内が大きな笑い声とかすかな心配の声で包まれる。

何故受け入れられないのかいつも疑問だった。


大事なのは、できるかどうかよりやりたいかどうかだ。


夢を叶えるために、俺は人生の全てを費やした。


とりあえず毎日10000回ジャンプした。

翼代わりの腕をいかに効率よく、早く上下できるか、時には物理の本なども読み漁って試し続けた。

市民プールに行って、空中でのフォームを水中で反復し、筋力アップ、フォームの定着を図った。


「ねー、あそこに変な泳ぎ方してるお兄さんいるー」

「こらっ、やめなさい!あんなひとの泳ぎ方、まねしちゃだめよ」


関係ない。どうせ宣言した夢もろくに達成できない、努力しようともしないんだろ。


簡単に飛べるようにはならない。そんなこと分かっている。

でも俺は自分を信じて、同じ日々を繰り返し続けた。


そんなある日、明らかに空中で自重が無くなる感覚を感じた。

コンマ数秒ではあるが絶対に「飛んだ」。


やっぱり夢は叶うんだ。

それからというもの、俺はさらに空を飛ぶことに虜になった。


…飛んだ。絶対に5秒は浮いた。

まだ、まだまだだ。あの光景を。


やっと高さが出てきた。

信号機と同じ目線くらいまでは飛べるようになっていた。


飛べるようになってからというもの、まるで無敵になったような気分だ。


「どうせ飛べないと決めつけていたやつらを見返してやりたい」

「飛ぶことの素晴らしさを伝えたい」

新しい感情が芽生えてきた。


通知が溜まりに溜まったLINEを開き、「〇〇小学校同窓会」に

「参加します」と一言だけ送信した。


「お~めっちゃ久しぶりじゃん!」

「全然連絡つかなかったけど何してたの?」


正直誰の顔も覚えていない。

思い出もないし、過去の話で盛り上がるためにここに来たのではない。


「ちょっといいかな…!」

急に響く大きな声にみんな驚く。


「今、飛ぶから見てくれ!」

ざわつく会場。


「見たい!」とか「飛べるようになったんだすごい!」とかいう反応を期待してたが、

いきなり現れたやつが飛ぶとか言い出したらそりゃ困るだろう。


見せた方が早い。

ステージに上がり、足踏みする。


軽くジャンプする。うん、今日も軽い。

腕を振る。うん、今日も気流を支配できてる。


膝を大きく曲げ、腕を素早く振る。

いつも通り飛べた。全員の頭が見える。


これだ。このために飛んでる。


しばらく飛んでいたが、ここで違和感に気付く。頭しか見えない。

会場において、俺が飛んでいるという事実だけは変わったが、他にはなんの変化もない。


人が飛んでいるのに…?

やっぱり信じられるのは自分だけなのか。


ステージを下りる。


「仕事とかやってないのかな…」

「いい年して空を飛びたいとか恥ずかしくないのかな…」


かすかに聞こえた声が、はっきりと俺の脳内に残った。


「飛べるのはすごいと思うけど、これからどうするの?」

「今までほんとに空を飛ぶことしかしてないの?」


心なしか、俺の周りの空気だけが重たい。


いつもはあんなに軽い体を引きずりながら、会場を後にした。


上を見上げる。俺をあざ笑うかのように星が輝いている。


腕を振る。周りの重い空気を無理やり押す。


皮肉だな。やっぱりこの光景が好きだ。

しばらく腕を振り、この光景を目に焼き付ける。


「さようなら」


地面がだんだんと近づいてくる。


鈍い音とともに、鮮血が跡を濁した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ