【超短編】空を飛びたい
初投稿です!
これからも短編を投稿するつもりなので、ぜひ見ていただけると嬉しいです!
※この作品は「ノベルアッププラス」にも掲載しています。
あれは、親と旅行に行った時だ。
どこに行ったか、何を食べたか、全く覚えていない。
正直国内か海外かすらも覚えていない。
ただ、飛行機から見たあの光景だけは鮮明に覚えている。
いつもは遥か上にある雲が下にある。
地上にいると感じられない、地球全体を監視できているようなあの感覚。
俺はあの時から、あの光景の虜だ。
少し塗装が剥げてきたランドセルを背負い、みんなで学校を目指して歩く。
カー。カー。
いつも通りのBGMだ。
空を見上げる。
翼を精一杯羽ばたかせて、飛んでいる。
人工の力じゃない。
自分の体の一部を使って空を飛び、いつもあの光景を眺めている。
俺は、そんな存在にいつからか憧れを抱いていた。
「私の夢は看護師です!」
「僕の夢はサッカー選手です!」
毎年、卒業式前日に行われる夢発表会が始まった。
親が来るのはもちろんのこと、家庭科の先生や保健室の先生、施設員さんなど、普段あまり見かけない先生も来る大きな行事だ。
「俺の夢は空を飛ぶことです!」
教室内が大きな笑い声とかすかな心配の声で包まれる。
何故受け入れられないのかいつも疑問だった。
大事なのは、できるかどうかよりやりたいかどうかだ。
夢を叶えるために、俺は人生の全てを費やした。
とりあえず毎日10000回ジャンプした。
翼代わりの腕をいかに効率よく、早く上下できるか、時には物理の本なども読み漁って試し続けた。
市民プールに行って、空中でのフォームを水中で反復し、筋力アップ、フォームの定着を図った。
「ねー、あそこに変な泳ぎ方してるお兄さんいるー」
「こらっ、やめなさい!あんなひとの泳ぎ方、まねしちゃだめよ」
関係ない。どうせ宣言した夢もろくに達成できない、努力しようともしないんだろ。
簡単に飛べるようにはならない。そんなこと分かっている。
でも俺は自分を信じて、同じ日々を繰り返し続けた。
そんなある日、明らかに空中で自重が無くなる感覚を感じた。
コンマ数秒ではあるが絶対に「飛んだ」。
やっぱり夢は叶うんだ。
それからというもの、俺はさらに空を飛ぶことに虜になった。
…飛んだ。絶対に5秒は浮いた。
まだ、まだまだだ。あの光景を。
やっと高さが出てきた。
信号機と同じ目線くらいまでは飛べるようになっていた。
飛べるようになってからというもの、まるで無敵になったような気分だ。
「どうせ飛べないと決めつけていたやつらを見返してやりたい」
「飛ぶことの素晴らしさを伝えたい」
新しい感情が芽生えてきた。
通知が溜まりに溜まったLINEを開き、「〇〇小学校同窓会」に
「参加します」と一言だけ送信した。
「お~めっちゃ久しぶりじゃん!」
「全然連絡つかなかったけど何してたの?」
正直誰の顔も覚えていない。
思い出もないし、過去の話で盛り上がるためにここに来たのではない。
「ちょっといいかな…!」
急に響く大きな声にみんな驚く。
「今、飛ぶから見てくれ!」
ざわつく会場。
「見たい!」とか「飛べるようになったんだすごい!」とかいう反応を期待してたが、
いきなり現れたやつが飛ぶとか言い出したらそりゃ困るだろう。
見せた方が早い。
ステージに上がり、足踏みする。
軽くジャンプする。うん、今日も軽い。
腕を振る。うん、今日も気流を支配できてる。
膝を大きく曲げ、腕を素早く振る。
いつも通り飛べた。全員の頭が見える。
これだ。このために飛んでる。
しばらく飛んでいたが、ここで違和感に気付く。頭しか見えない。
会場において、俺が飛んでいるという事実だけは変わったが、他にはなんの変化もない。
人が飛んでいるのに…?
やっぱり信じられるのは自分だけなのか。
ステージを下りる。
「仕事とかやってないのかな…」
「いい年して空を飛びたいとか恥ずかしくないのかな…」
かすかに聞こえた声が、はっきりと俺の脳内に残った。
「飛べるのはすごいと思うけど、これからどうするの?」
「今までほんとに空を飛ぶことしかしてないの?」
心なしか、俺の周りの空気だけが重たい。
いつもはあんなに軽い体を引きずりながら、会場を後にした。
上を見上げる。俺をあざ笑うかのように星が輝いている。
腕を振る。周りの重い空気を無理やり押す。
皮肉だな。やっぱりこの光景が好きだ。
しばらく腕を振り、この光景を目に焼き付ける。
「さようなら」
地面がだんだんと近づいてくる。
鈍い音とともに、鮮血が跡を濁した。