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black flower 黒竜花  作者: ゼル
9/18

black flower 黒竜花 Ⅸ

Episode 9 命がけの逃走、全てを捨てて







「…今日も居ない。」





グアロの告白の日から3日。


グアロはあの日を境に洞窟に来なくなった。




ノエルはあの日の事を思い出す。


グアロとのキス。

今思い出すだけでも胸がドキドキする。


でも、ノエルはとても暖かさを今でも感じている。


「グアロ、きっと何かあったんだ…でもグアロの住んでいる所…私知らないし…どうしよう。」


ノエルはしばらく考えることにした。



「…」


場所は変わり、ここはグアロの住家でありドラゴンの巣。


ドラゴンたちは世界中のあちらこちらに巣を構えていて、それぞれに多くのドラゴンが共同生活している。






人間はかつて、凄まじい程巨大な文化を築いた。

そして人間は己の欲望のままに更に文化を築きあげた。


そして、その結果大いなるエネルギーの開発をしていた時、暴発。

人間たちの築き上げたものは跡形もなく吹き飛び、多くの人間が消え、そして残された人間にも大きな打撃を与えた。


その結果、人間は衰退した。

今や大きな力を持つ人間は居ない。


かつての人間たちに深刻な被害を与えられたドラゴンたちは、人間とは絶対に関わってはならないと、掟を創った。

これをドラゴンたちは必ず行使しなくてはならない。





グアロは掟を犯した。


人間と関わることは絶対に許されない。

例え今、人間にそんな力が無いとしても。



ドラゴンたちには力がある。

かつての人間たちを殲滅させることなど造作も無かっただろう。

しかしドラゴンたちは見た目に反して、意外と平和主義。


戦うぐらいなら干渉しない。

これがドラゴンたちのやり方なのだ。


しかし、同族にはとても厳しい。

特に、掟を犯した者に対しては。



人間と関わりを持ったドラゴンに与えられる刑は、終身刑。


死ぬまで永遠に牢獄の中だ。



一思いに殺してくれと言わんばかりの極刑だ。

ドラゴンの寿命は長い。


長い年月を狭い牢獄で、翼も広げられない。

食事は毎日与えられる。


死なせないためだ。


生きたまま、己の罪を噛みしめさせること。



無論、グアロも余儀なく牢獄生活。

奇跡でも起こらない限り、彼は残りの生を牢獄で過ごさなくてはならないのだ。


もちろんそれも過去の話だ。今から変えることは出来なくもない。


しかし同じルールで暮らしている群れに急な変化に適応するのは難しい。

だから掟を変えずにそのままでいるのだ。




「…起きてるかい?」


「…あぁ…もう何日も経っているのか…?」


「そうだね、あれから3日。君は眠り続けていたよ…しかし…君だけはここには入って欲しくなかったよ、グアロ。」


グアロの目の前にも牢獄。

その中に居たのは、ついこの間、グアロの相談に乗ったドラゴン、クライム。

彼もまた、かつて人間に恋し、その罪を終身刑として牢獄にもう30年も居る。



「…あぁ…せっかく相談に乗ってもらったのに…すまないな。」

「…いや、いいんだ…」



グアロは起きた瞬間に把握した。

“ああ。もうノエルに会えないんだ”

と。


自分が牢に閉じ込められたショックではなく、ノエルに会えなくなったことを先に感じた。


「…ノエルちゃんのこと…愛してしまったんだね。」

「……あぁ。俺はあいつが…好きになった。あいつのあったかい気持ち…もう味わえないのか…」



クライムもこんな気持ちで牢獄を過ごしたのだろう。

そして今は、クライムが愛した人間の子が、生きていてくれたらそれでいい。

そう考えるようになった。

自分の事を全て諦め、愛する人の無事だけを祈り続けていた。


「…グアロ、君が愛した子が…もしもだよ。」

「…?」



「…ここに来たら…?」

「馬鹿言うな。来るわけないだろう。」


ドラゴンの巣は山の中腹辺りにあるのが一般的。

グアロが居るこの場所も、険しい山の中にあり、高さも中腹辺りに存在している。

人間が来られる場所では無い。

どう頑張っても不可能だ。


「…僕の愛する人は遠くに住んでいる。だから来られないかもしれない。けど君の愛する人は…どうかな。」


「…はは、まぁ期待せずにいることにするさ…」


グアロはすっかり参っていた。

ノエルが来るはずがない。

仮に、ノエルが来たところで他のドラゴンに摘み出される。


「……あー!!分かんない!!」


ノエルはあれから10分程考えたようだ

しかし策は無し。


「こうなったら!自分でしらみつぶしにするしかないわ!!まずはこの近くよ!」


ノエルは無計画でグアロの巣を探すことにした。


(グアロ…あなたが逢いに来れない理由があるなら…私が逢いに行くからね…!)



ノエルは信じていた。

グアロとまた会えると。




しかし、グアロはドラゴン。

飛行も出来る。山の中ではノエルではどうにもならない。

そして何処までの距離が行動範囲なのか。

それも分からない。

探索は困難を極めた。

それでもノエルは諦めたくなかった。



それから更に1週間経った。




グアロと逢えなくなって10日。



毎朝洞窟には来ているが姿が見えない。


ノエルは毎日陽が暮れるまでグアロの巣の手がかりを探した。



「…はぁ、全然駄目だわ…どうしよう……」

ノエルも少々の弱音が出ていた。




「ううん、弱音なんて吐いたら駄目よ!グアロを見つけないと…!」











しかし、この日もグアロの手がかりも、ドラゴンの巣も見つからなかった。



「ノエル、最近何処に行っているんだい?いつもボロボロになって…」


「あっ、えっと、その~そう!落し物!旧文明の遺産をね、使えそうなやつだったんだけど落としちゃったんだ。あはは。」




「ノエル、なんだかケモノ臭いけど…」


「えっ、うっそー身体洗わなきゃっ!」





村人に流石に怪しまれている。

このままだとばれてしまうかもしれない。










人間側にも、ドラゴンには近づいてはならないという仕来りがある。


しかしこれは法によるものでは無いので、グアロほど重く罰せられることは無いが、間違いなく、猛烈な批難を受けるだろう。



「絶対今日探さなきゃ…もうこれ以上騙せないもん。」


ノエルはいつも以上に探索範囲を広げた。






そして、ついにこの日…






「もー…駄目だぁー…」

へとへとになったノエル。

時刻は夕方。もう日が暮れてしまう。



「…グアロ…」


夕陽のかかったオレンジの空を見るノエル。

すると…


「…あっ…!」


空中に大きな黒い影。

すぐそばに降りて行った。

「ドラゴンだ…!グアロじゃないけど…!」


ドラゴンが降りてきた。

餌でも探しに来たのだろうか。

グアロではないことはすぐに分かったが、ノエルは藁にもすがる思いでそのドラゴンに接近した。






「…ったく、何故私がグアロの食事を取ってやらねばならんのだ…ブツブツ…」


(グアロ!?今グアロって…よーし…)


ノエルは忍び足でこそこそとドラゴンに近づいていく。

茂みの音をたてないように慎重に木々の影へと移り、尻尾のすぐ裏手まで来た。


「フム、こんなところか。では戻るか…」

ドラゴンは翼を広げた。

(今!)

ノエルは尻尾を掴んだ。



「ム…?」

ドラゴンは違和感を覚えたようだ。

(やばっ…!)


「……気のせいか。」


バサッと羽ばたき、空を飛ぶドラゴン。

ノエルは尻尾を離さないようにしっかりとつかんだ。

ゴツゴツしていて持ちやすいので、よっぽど揺らされない限りは大丈夫。

しかしノエルの非力な筋力ではしがみついていられる時間はわずかだ。


(グアロ待ってて…私が行くから!)


ノエルは一生懸命尻尾を掴んだ。




ドラゴンが飛び立って5分。

ドラゴンは洞窟へと降り立った。


「フゥ…」


ノエルはパッと手を離し、両手のひらをふーふーと吹きながら、周りを確認し、誰も居ないことを確認した。


とても入り組んだ形をした洞窟だ。

隠れることが出来そうな場所がいくつもある。


ノエルは早速乗ってきたドラゴンの行先を見ながら後ろを忍び足で後をつけた。






向かう先は地下。

ドラゴンサイズの大きな階段を慎重に降りて、辿り着いた先は牢屋。



「グアロ、餌だ。」

「…」

「眠っているのか…それも深く…まぁ良い。確かに置いたからな。」


ドラゴンが戻ってくる!

ノエルは慌てて壁と壁の間に出来ていた小さな溝に身体を忍ばせた。


目の前を通るドラゴンの巨体。


去るまでノエルは警戒をし続けた。


(グアロ…どうして牢屋なんかに…)



そして、完全に姿が見えなくなった時…


「…」

ノエルは牢屋の部屋に入る。


「…」

ノエルはそーっとグアロが居ると思われる場所まで忍び足。


「君は…人間だね?」

「…っ!」

反対側の牢屋の中にドラゴン。

ノエルは慌ててしまい尻餅をついてしまった。


「いっ…」

「ご、ごめん、驚かせるつもりは無かった…」

「…えと、私…お、お願い、私のこと通報しないで、私、グアロに逢いに来ただけなの。」


「…そうか、君が…」

「えっ?」


反対側に居たドラゴンはやせ細っていてやつれている。

しかし、悪意を感じない。


「君がノエルちゃんだね?」

「どうして私の名前知ってるの?」

ノエルはゆっくり立ち上がる。

2人は小声で話す。


「僕の名前はクライム。君の事はグアロから聞いているよ。よく来てくれたね…」

「私はグアロに何かあったんじゃ…と思って…居ても経っても居られなくて…」


「それでも、来てくれて嬉しい。」

「…クライムさん。グアロは?グアロはどこ?」

「グアロはそこで眠っている。君の声を聞かせてやって欲しい。」

「…」


グアロは力無い姿で、深く眠っていた。


「…クライムさん、グアロとあなたははどうしてここに居るの?」

なんとなく分かっていた。

けど、聞かずにはいられなかった。




「…君の想像通りさ。僕も、そして彼も…掟を破ったドラゴンはこうなってしまう。」


「……人間と関わったから…グアロ。」


ノエルはグアロに声をかける…

グアロはゆっくりと身体を動かす。


「…ノエ…!?」

グアロは今までにないほどに驚いた顔を見せた。


「しーっ、小さな声で…」


「お、おう…すまん…」



「グアロ、もしかして、私と一緒に居た所を見られちゃったの…?」

「…あぁ、そうみたいだ…人間と触れ合う罪は終身刑。俺はもう二度とこの牢屋を出ることは出来ない。」

「そんな…どうして…」

「それがドラゴンの掟だ。…ノエル、どうやってここに来たのか知らないが、今すぐ帰るんだ。」

グアロはノエルに言う。


「嫌よ、私このまま帰れない。」

「頼む、このままだとお前も酷い目にあってしまう。ドラゴンの巣に人間が入るなんて前代未聞にも程がある、それに俺はもうここを出られない。」


グアロはノエルの身を案じて言う。


「待ってて、私が何とかしてみる。」

ノエルはポケットからいろんなものを取り出した。

旧文明の遺産だ。

なにか使えそうなものが無いかと思い、いつも何か適当に持ち歩いているのだ。


「ノエル、よせ、早くここを離れるんだ。」

「駄目、私のせいだもん。私、グアロがここまで酷い目に合うなんて思ってなかった。見つかってもお説教ぐらいで済むと思ってた。でも、こんなに重い罰だったなんて。だから…」

「もう良いんだ…ノエル、俺は…お前が幸せに生きてくれれば」


「グアロが居ないんじゃ私は幸せになんてなれないよ。」


「ノエル…」



ノエルは旧文明の遺産の1つを取り出した。

それは小さな棒の形状をした鉄。

それを牢の鍵穴に入れてみた。


「うーん…」

ノエルは力を少し入れてみる。

ガチャガチャと音がする。


「ノエル…もし俺が出られても捕まったら終わりだ。逃げ続けなきゃいけない、お前も故郷がある。」

「…それでも、私はあなたを助けたいの、先の事なんて後で考えるわ。」


偶然は偶然を呼んだ。

なんとカチャッと音と共に牢の鍵が開いたのだ。

「…グアロ。一緒に逃げよう?」

「…知らないぞ…どうなっても。」

「うん、ずっと一緒に…クライムさんも助けてあげるね。」


ノエルはクライムの鍵も開けようと試みた。

しかし…

「…駄目…合わない…!」

「僕は良いんだ。ありがとう、ノエルちゃん。」

「でも…やっぱりおかしいもん、人間と一緒に居るだけでこんなのおかしいよ。」

ノエルはドラゴンの掟を否定した。

「…ごめんね。僕たちにはどうすることも出来ない。」

「…クライムさん…」


「そこで何をしている!!」

「「!!?」」



牢獄の入口だ。

さっき餌を与えていたドラゴンだ。


「マズイ!グアロ!ノエルちゃん!!逃げるんだ!」

「ノエル、覚悟…してくれるか?」

「…うん!」


「脱走だ!!」

上が騒がしい。

仲間を呼ばれたらしい。



「グアロ。」

「クライム…ありがとな。」

「ううん、君はこれから茨の道を歩むことになるだろう、でも君にはノエルちゃんが居る。君の事を思って、こんなところまで来てくれる、君の愛する人が。」

「クライムさん…ごめん、助けられなくて…」

「ノエルちゃん。君はとても優しい子だ、グアロの事…よろしくね。」

「…うん!」


「ノエル!」

「うん!!」

ノエルはグアロの手を掴んだ。


「しっかり捕まってろよ!!」

「うん!」


グアロはノエルをしっかり抱きかかえ、地下牢を低空飛行した。

「止まれっ!うわっ!?」


第一発見者のドラゴンを付き飛ばし、地上へ向けて飛ぶ。




(グアロ、ノエルちゃん、君たちならきっと…僕は信じてるよ。)




「止まれ!」「さもなくば容赦しない!」

「どけえええええええええええええっ!!」


グアロはやぶれかぶれでドラゴンの群れに突っ込んだ。


すれ違う際に爪で何か所か身体を傷つけられて、バランスを崩すが、外へと飛び出すことに成功した。


「グアロ…!」

「だ、大丈夫だ…それよりノエル、今ので怪我してないか…?」

「う、うん、でもグアロが…!」

「ノエル、ごめんな。やっぱり俺、お前と一緒じゃないと…」

「…分かってる。私もだから。」

ノエルとグアロはお互いの顔を見て笑いあった。

こんな状況でも、2人ならきっと。





ドン!



「…えっ?」


大きく揺れるノエル。

グアロの背中に何かが命中。


背中から大きな煙が上がっている。

ぐらっとバランスを大きく崩して…


「グアロ!?」

「…ガハッ…!」





「きゃあああああああああっ!!!?」



下は川だ。

ノエルはグアロに抱きかかえられながら、川に墜落した…











「…ゴボッ!」(グ……ア…ロ………)



川の流れに逆らえず、2人の意識は闇に呑まれて行った…


Episode 9 END

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