black flower 黒竜花 Ⅶ
Episode7 仲直りの薬
ノエルが持ってきた旧文明の遺産の中に紛れ込んでいたかつての兵器。
壊れているとはいえ、物騒な者を持って不思議そうにするノエルを見て、グアロはついカッとし、怒ってしまう。
ノエルがそんなものを持っているのは見たくない。危ない。
そんな気持ちで怒ったグアロだが、気の強いノエルと喧嘩してしまう。
言いすぎたと反省するグアロ。
雨の中、一人で転びながら村に変えるノエル。
ちょっぴり亀裂の入った2人の関係はここで終わってしまうのか。
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グアロとノエルが喧嘩した日の翌日、いつもの時間になってもノエルは布団から起き上がろうとしない。
「…うっ…なんだか…いたっ…」
ノエルは頭を抱えたままゆっくりと起き上がる。
「……クシュン!!!」
ノエルは小さくクシャミをした。
「…身体…熱い…」
(どうしよう…グアロに謝りに行こうとしたのに…これじゃ…)
ノエルは謝りに行こうと考えていた。
グアロは自分が拾ってきた旧文明の遺産に危険なものがあったから止めようとしてくれたのに、ムキになって怒ってしまった。
悪かったなぁと反省したノエルだが、どうやら風邪をひいてしまったらしい。
フラフラとしながらも立ち上がるノエルだがまともに歩けもしない。
「駄目だぁ…まともに歩けないよ…」
ノエルはぺたんと床に座り込んだ。
しんどそうな息がハァハァと出る。
「…グアロ……」
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「…来ない…」
洞窟で待つグアロ。
グアロもノエルに昨日の事を謝ろうとしたのだ。
だがノエルは来ない。
(…やっぱ…もう来てくれないのかよ……って!ちがっ!俺はあいつが来なくなることを願ってたじゃないか!)
だがグアロは願っていたこととは裏腹に、ノエルが来て欲しいと思っていた。
「…くっ、もう怒ってないから早く来いってんだ…」
グアロはこの日、一日中、陽が暮れるまでノエルを待っていた…
だがノエルは来ない。
もう俺の事なんか忘れちまおうとしてるんじゃないのか
俺がノエル傷つけたからもう来ないのか
グアロはそれでも謝りたくて何日も待った。
それからさらに3日が過ぎた。
「…ゴホッ…ゴホッ!!」
ノエルの風邪は治っておらず、村の医者に処方された薬草を食べて、療養していた。
もちろんグアロが毎日洞窟で待っている等知るはずもないが、ノエルはしんどいこの時でもグアロの事を考えた。
「…ちゃんと会って謝りたいよ……早く治ってよぉ…ゴホッ!」
なかなか熱も下がらない。
少し強い風邪にかかってしまったようだった。
「…グアロ……」
洞窟でもグアロは待っていた。
「…もしかして…何かあったのか…?あの日は雨だった…どこかで足を滑らせて今もどこかで動けずにいるとか…!?」
グアロはついにはノエルの身に何かあったのではと思うようになっていた。
しかし実際ノエルは風邪にかかり寝込んでいる。グアロの予想はだいたいあっている。
「…今夜…誰も居ない夜、様子を見に行ってみよう…あの村だよな…」
グアロはついに村へ様子を見に行くことを決めた。
喧嘩してもノエルが気がかりだった。
せめて元気かどうかだけでも知りたかった。
グアロはこの日の夜、村のそばまであるべく音をたてないように向かった。
グアロ仲間の群れたちにも適当な理由でごまかして外出の許可を貰い、単独で行動した。
グアロの居る群れでは夜は巣で休むことを義務付けられている。
だが理由を伝えれば出られるようになっている。
グアロはノエルを見たかった。
そのためには他の人間が寝静まった深夜に行くしか方法は無かった。
「…」
(ノエル…何処だ…!?どの家だ…?)
グアロは村の家々を見渡した。
すると外れの方に、旧文明のガラクタが詰んである場所を発見した。
その傍に小さな家がある。
(アレだ…アレに違いない。)
グアロは物音を立てないように慎重に向かった。
家よりも一回り程大きいグアロの身体だ。
わずかな足音は仕方が無い。だが他の住民は寝静まったまま。
大丈夫だ。
グアロは小さな家の窓から中を除いた。
(…ノエル…!)
中には額に氷の入った袋を載せ、ハァハァとしんどそうに苦しむノエルをグアロは見た。
(風邪を引いたのかノエル…!俺のせいだ…俺があの日に喧嘩したからだ。雨が降ったから濡れて風邪を…)
自分が喧嘩の種を創った。
雨の日に1人で帰ったから風邪を引いた。
いつもなら雲行きが怪しいから様子を見て、雨が止んだら解散するようにしていたのに、近くまで送れたりも出来たのに。
喧嘩なんてしたから。
感情的にならずに落ち着いて指摘すればよかったのに。
グアロは後悔した。そして自分が何とかしなければとグアロは思った。
「俺がノエルを治してやらないと…」
グアロは翼をバサッと広げ、空を飛んだ。
それは村に突風となって駆け抜けた。木々が強く揺れ、葉が舞い散る。
しかし村人たちにはただの突風としてとらえられたのか、誰一人反応することは無かった。
「風邪に聞く薬草は…確か生命の丘にあったな…」
生命の丘。
ありとあらゆる病に対応した草々が生えている場所だ。
そこは大きな山脈と並ぶほどに高い場所に位置しており、グアロたちドラゴンたちしか知らない聖なる場所。
(風邪に効く薬草は種類があるが、あれがいい。総合的なあらゆる治療に使える薬草…調合術は久しぶりだ…腕、鈍ってなければいいんだがな…)
グアロは薬に詳しいようだ。
昔、グアロは薬の調合を勉強していた時期があったらしく、その時の知識と技術が生かせる。
その地は激しい嵐が舞う場所。
その嵐を超えた先に聖なる血があるのだ。
標高5000mを超えるその地にグアロは空を飛翔して挑んだ。
「くっ!すげぇ嵐だぜ…!昔は簡単に通ってたんだが…!」
グアロは薬の調合をしていた時期に何度もこの地を、この空を飛んだが、長年やっていなかったことがあり、今回はかなり辛い飛翔となった。
だがグアロは今回、強い想いがあった。
(ノエル…待ってろ!)
グアロのノエルに対する想いがグアロに力を与えた。
風を貫き、腕にくくられたノエルの赤いスカーフを掴んで翼をちからいっぱい羽ばたかせた。
そして暗い雲を抜け、黄色と白の入り交ざった神聖な空へと身体を突き出した。
「おおっ!やったぜ…!」
グアロは丘に降り立ち、薬草を探した。
知識は十分に備わっている。
手際よく、必要な薬草を回収した。
ついでに今後あると便利だろうと思う薬草もついでに採取した。
(…俺、どうしてこんなにもノエルのこと治してやりたいと思うんだ…?)
あれだけ居なくなってほしいと呆れたはずのノエルの存在を今はこんなにも大切に思う。
まだグアロは気づいていなかった。
グアロにとってノエルはもうただの“厄介者”ではなく
“大事な人間”
になっているのだということを。
帰りはただつっきるだけだ。
あっさりと嵐を抜け、いつもの洞窟へと向かった。
そこで薬草を大きな爪で細かく切り崩してすりつぶし、粉にする。
そこに微量の水をかき混ぜる。
「ここに…よっと…」
ブチッ
「いてっ…!」
グアロは自身の鱗を1枚剥ぎ取り、それをすりつぶし始めた。
(俺たちのドラゴンの鱗をすりつぶして液体に混ぜれば完成だ…)
ドラゴンの鱗は薬草と混ぜ合わせることでよく効く薬となる。
「出来たぜ…!」
グアロは外に出て、大きめの葉っぱを切り取って、そこに爪で文字を描いた。
グアロはその後再び村まで移動し、ノエルの家に向かった。
ノエルの部屋ではノエルがしんどそうに眠っていた。
「…早く元気になれよな…」
グアロは小さい窓に触れる。
その傍に薬の入った薬品が入った容器、文字が書かれた葉っぱ。
その上に重しとして小石を置いて、ひとまずこの場を去った。
そろそろ夜明けだ。
「おかえり。」
グアロは自分の巣へ帰ってきた。
「あぁ、ただいま。」
門番に挨拶を交わし、自身の住み場所へと戻った。
身体を丸め、眠りに就こうと寝転がる。
(…俺らしくもないな…どうしちまったんだろうな俺…)
グアロはノエルに特別な感情を抱いていた。
今まで人間なんて過ちばかり繰り返す愚かな生き物だと思っていたのに、その愚かな生き物…いや、人間ではなく
ノエルという人間だけが、今心配で仕方ない。
「…訳がわからん…本当に…」
グアロは自分でもわからない思いを胸に眠りについた。
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朝起きたノエルはフラフラと立ち上がりながら窓にかかるカーテンを開けた。
「今日も曇り空ね……ん?何かしら…?」
ノエルは早速気が付いた。
昨夜グアロが置いた風邪薬だ。
「何か描いてる」
ノエルはくらくらしながら大き目な葉っぱを見た。
そこに爪で文字が書かれていて…
「…」
「もう…馬鹿ね。」
ノエルは涙をポロリと流して、薬の容器を早速適量飲んだ。
「うー…マズイ…!この黒いの何かしら…?」
マズイなぁと思いながらも嬉しそうにその薬を飲むノエル。
はらりと落ちる葉っぱには
”早く元気になれ、待ってるからな”
と、書かれていた…
Episode7 END