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black flower 黒竜花  作者: ゼル
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black flower 黒竜花 Ⅴ

Episode5 背負う覚悟、終わったストーリー




「人とドラゴンについて…聞きたい。」






ノエルのことが気になってしまう。


本来掟に従い、人間との関わりをもってはならない竜族。


しかしグアロは今それを破っても、ノエルと一緒に居る。

突き返すにはいくらでも出来るし、その気になれば殺してしまって無かったことにしてもいい。

ドラゴンのグアロにそのようなこと造作もない。


しかしグアロは今もなお、ノエルと会って、話し、空まで飛んだ。



人とドラゴン


決して関わるべきでない二つの種族のはずなのに

グアロもそれを理解して育ってきたはずだった。


なのに何故今はこんなにも揺らぐのか。

グアロには分からずにいた。


だからここに来た。


ここはグアロの住む竜族の住家

ここにはたくさんのドラゴンが群れを成して暮らしている。

群れと言っても、掟さえ守っていれば行動は自由の主義を取っている住家なので、一つの場所を皆が使って暮らしているだけでもある。


その竜族の住家の地下深くに牢屋がある。

その牢屋は、掟を破ったものが反省として入れられる場所。


簡単な罪なら1日程度で済むが、人との関わりを持つことは最も重罪。

一生牢屋で暮らさねばならず、まともな食事すら与えられない生き地獄を死ぬまでしなければならないという重い刑が科せられる。


グアロも、もしノエルとのかかわりがバレてしまうと、そうなる。



そんな牢に、一匹だけその重罪を背負ったドラゴンが居た。

そのドラゴンはグアロの古くからの友人だ。


「人とドラゴンの関わり…?何故そんなことが知りたいんだい?グアロ。」


「…興味本位さ、クライム。」


グアロの友人の名はクライム。

幼馴染の彼らだが、クライムはある日人間…10歳ぐらいの少女と出会い、仲良くなった。

クライムは恋心を抱いていた。

好きで一緒に居た。


現在から30年程前の話になる。


そして一緒に居たところをたまたま同じ竜族に見られてしまい、少女と隔離され、クライムは牢に入れられた。


クライムもその少女が今どうしているかは分からない。


そして彼は約30年間、ずっとこの牢屋で暮らしているのだ。


グアロも人間と関わるからこうなるんだとクライムを軽蔑したが、時々覗きに行ったり族長に釈放を願って断られる等、なんだかんだでクライムとは友人関係を維持していた。




「興味本位か…そうには見えないけどね、まぁ良いさ、どういうことが聞きたいのかな?」


「人はかつてこの世界を破滅に導いた。そしてドラゴンはその力に脅えた。そして今、力を失った人間、そして俺たちドラゴンはそれぞれ関わりを遮断して暮らしている。だけど人間にはもはや力の無い生き物だ。昔とは違うそれなのにいつまでもこの掟を変えないのは何故なんだ?」

グアロはわずかに今の人間とドラゴンの関係に疑問を持ってきた。


人間と関わって、少し心が動いてきているようだ。


「それが掟だからだよ。」

「答えになってなくないか?」


「なってるさ、掟を変えることが出来ないんだよ。急に重罪が無罪になると群れは混乱してしまう。今まで禁句だったことが急に変わると群れ全体のバランスが崩れてしまうんだよ。」


その理由は群れの関係にあった。

同じルールで暮らしている群れに急な変化に適応するのは難しい。

だから掟を変えずにそのままでいるのだ。


「けどよ、それだとドラゴンはいつまでも人間と関わりが持てない。それでいいのかよ。」

グアロはクライムに聞く。


「おかしなことを言うなぁグアロ。君だって人間との関わった僕を軽蔑しただろう。それがドラゴンとして当たり前の発想だよ。」

「そうだけどよ…分かったよクライム。他言無用にしてくれるなら話してやる。」


グアロはクライムと約束を申し込んだ。

ノエルの事を話すことを決めたのだ。


「どうせここに来るのは餌やり担当と君ぐらいしか居ないさ。話す相手も居ないよ。それに友人の頼みだ。喜んでその約束を交わすよ。」

クライムは同意した。


「分かった…実はな…」



「…そうか、君は…人間と関わりを持ってしまったんだね。」


「あぁ…なんだかな…最初はすぐに突き放すつもりだったんだ。けど次第にそれが長引いちまってな、今ではすっかり仲良しこよしだ。困ったもんだぜ。」


グアロは呆れるように言う。


「でもな、何だか不思議なんだ。あいつと居ると…ドキドキしちまう。気になっちまうんだ。いけないことをしているっていうのに、何度も会ってしまうんだ。」


「…人間は不思議な生き物だろう?」

「あぁ、ホントだな。わけわからん。」


「僕はそんな人間が好きだ。昔の人間は心を歪ませた者が多かったけど、今はそんな気配は何も感じない。人間はのどかに暮らしている。その中でいつも一生懸命生きている。畑を耕し、自分で食料を苦労して確保して、皆が助け合って生きている。怒ることも悲しむことも知っていて、喜びも知っている、とても不思議で面白い生き物なんだよ。」


「ホントにな、あいつもそんな感じさ。」



クライムとグアロは人間について話をした。

不思議な生き物人間は、2人の心を弾ませる。


「でもグアロ、君は牢に入って欲しくない。人間と関わりを持つなとは言わない、けど…絶対に他の竜族に見られてはいけないよ。僕は君とこんな暗く、狭い所で暮らしたくなんてない。君は大空を飛び回っていてほしいんだ。」


クライムは言う。

グアロを気遣っている。


「もう会うなって言わるかと思ったけどよ…そう言ってくれてありがとよ…あいつにも言って聞かせるよ。」

グアロはクライムに礼を言う。


「礼なんて。それより…もっと大事な事があるよ。グアロ。」

クライムの目は真剣な目つきになっていた。グアロもそれに気づいた。


「グアロ、君は人間の寿命が何年か知っているかい?」

「…70年ぐらいか?」

「そう、それよりもう少し短いかもしれない…しかし僕たちドラゴンはその何倍も長く生きるんだ。つまり…分かるだろう?君がその子…ノエルちゃんと過ごせる日々は僕たちドラゴンにとっては一瞬なんだよ。」


「……そう…だな…」



グアロもそれは薄々感じていた。

人間とドラゴンは生きれる時間が圧倒的に違うのだ。


人を好きになっても


人はあっという間に死んでしまう。


「君はノエルちゃんを失う時が来る。その悲しみに耐えられる覚悟はあるかい?」

クライムはグアロに大きな悩みの種の植え付けた。


「…クライムはあったのか……?その覚悟…」


「…あぁ、僕はそれを承知で人間と交流した。その覚悟が無いとあとで悲しむことになるからね…僕はまだ大事な人を失った経験をしていないからあまり大きなことは言えないけど…グアロ、君は経験するかもしれない。その時君はその悲しみから抜け出さないといけない、強く心を持って、覚悟を持って人間と付き合わないといけないんだよ。」


クライムの言うとおりだ。

ノエルはいつか自分より早く死ぬ。

それも、ドラゴンにとっては短い時間だ。


それでもノエルと関わるべきなのか。


「グアロ、よく考えてみると良い。結論は急がなくてもいい。自分なりの答えを導き出してごらん。」

クライムはグアロに優しく言う。


「…あぁ、分かった。」


グアロは決めた。

これからどうノエルと付き合っていくかをよく考えようと。

そして今、自分はノエルと一緒に居たいのか、居たくないのかその気持ちに整理を付けようと。


しかしグアロはそう思ってはいてもやはり心は大きく揺らいでいた。

頭がこんがらがってくる。

「今日は帰るよ、話、聞いてくれてありがとな。」

グアロはそう言い、帰ろうとした。


「グアロ。」

「なんだよ。」

クライムは帰ろうとするグアロに声をかけた。


「悩みの種を増やしてしまって悪かった。でも自分の気持ちに嘘はつかないで。君の信じる道を進んでくれ。」


クライムは言った。


「…あぁ。ありがとな。」

グアロはそう言い、地下牢を出た。





(…グアロ、君はその人間に……恋をしているんだね…君がもしその子と共に行くなら……君は茨の道を歩くことになるだろう、けど…)


「君ならきっとうまくやれるよ、グアロ。」

クライムはそう呟き、暗い牢の中で眠りについた。







(思い出すなぁ…あの子のこと…元気に生きてくれていたら僕はそれで…構わない…)




「…」


今は分からない。

自分がどうしたいのか。


それを分からせるためには…


もう少しノエルと過ごす必要があるのかもしれない。


見つからないように、ノエルともう少し関わってみよう。

そして、自分なりの答えを導こう。


グアロはそう思った。


そしてグアロの中にはクライムに言われたノエルと関わるリスクについての悩みが付きまとった。


人間と関わる以上、決して外せない悩みだが、それを考える前にまず自分がどうしたいか。

それを考えなくてはならない。


グアロの頭はこんがらがってわけがわからなくなった。


「…あー…全然まとまらねぇ…ったく…どうしてこんなことになっちまったのやら…わけわかんねーぜ…」





グアロの心は更に揺らいでしまったのだった…






Episode5 END

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