black flower 黒竜花 Ⅳ
Epsiode4 揺れるココロ、感じるドキドキ
グアロとノエルが出会って一か月が流れた。
2人は、あれからも週に3・4日程、洞窟に待ち合わせ、会っては、様々な会話をするという生活を送ってきた。
だがそれは常に洞窟の中だけで行われている秘密の出会い。
それでも、少女ノエルは、ドラゴンのグアロと話をするのが楽しくてたまらなかった。
今まで恐怖の対象として詠われていたドラゴンと話をしている。
好奇心旺盛なノエルはいくらグアロと話をしても飽きないぐらい楽しく話をしていた。
一方グアロはと言うと、ノエルのわがままに付き合うような流れになってはいるが、なんだかんだで来てくれて、ノエルとお話をしているので、まんざら嫌だというわけでは無さそうだ、
だがグアロの心の中にはいつも渦巻いていた。
この現場を他のドラゴンに見られたら…
もちろん自分は罰を受ける。
しかしそれだけではない。人間にも危害が及ぶ可能性だって否定はできないのだ。
ノエルは気にしていないし、誰にもこの秘密を言っていない。
そう、バレなければ良い。
だが早く諦めてもらわねば。
だが、ノエルが居なくなった後、グアロは心のポッカリ感と、ほんのり感がグアロは気になっていた…
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「外に行きたい?」
「うん!!」
ノエルが目をキラキラさせながらグアロに言う。
「馬鹿、駄目に決まってんだろ。」
グアロは顔をぐいっとノエルに近づけて言う。
「えーなんでー?」
「なんでー?…じゃねぇ。」
似てない物まねをしながらグアロは更に顔をググッと近づける。
「だから言ったろ。他のドラゴンに見つかったらマズいと。お前がしようとしてることはお前だけでなく、他の人間もを危険にしてしまうぐらい、リスクのあることなんだぞ。」
「う…分かってるわよ!」
納得したのかしていないのか分からないがノエルはぶぅと頬を膨らませて言う。
「全く…俺たちが内緒で会ってるっていうのをいい加減自覚しろよ。もう一か月になるんだぞ。」
「分かってるけどさぁ…ずっとこんな暗い所じゃ飽きちゃうわよ、もっと広い所で…そうよ!大空を飛んだりとか!」
「何言ってんだ。尚更駄目だ、空はドラゴンのテリトリーだろうが。余計に見つかっちまう。」
「うーん…もう、ドラゴンってめんどくさいのね、掟ばっかでつまんない。」
ノエルはきっぱりとドラゴンに毒舌をぶちまける。
「おま…はっきり言いやがる。」
ドラゴンもストレートすぎるノエルに呆れた。
「良いかノエル。掟っていうのは皆が平和に暮らす為にあるルールなんだ。」
「分かってるわよ。でも何だか私から見たら逃げてるようにしか見えないわ。人間もそうだけど、ドラゴンもお互いに脅え過ぎじゃないかしら。」
ノエルはまたしてもズバッと言う。
「たしかに昔、人間はあなたたちに酷いことしたかもしれないけど…でも今の人間たちはそんな力は無いわ。」
「それも分かってる。でも決まりは決まりだ。とにかくだ!空には絶対連れて行かないからな。」
「ぶぅ。じゃぁ陸で良いわ。」
ノエルはグアロの近づいている顔にグイッと近づく。
「話聞いてたか?」
「聞いてたわよ。空は駄目なんでしょ?じゃぁ空じゃなかったら良いってことじゃない。」
「だから外自体が危ないんだっつーの!!」
グアロは大き目の声でノエルに言う。
「大丈夫よ!この洞窟の周りぐらいなら森で空は見えないし、見つからないわよ!少しだけだから!ね!良いでしょ?」
ノエルは洞窟の付近だけと頼んだ。
この周りは確かに森の色がやや濃いめであり、空から下の様子を見るのは不可能だ。
ノエルは旧文明の遺産を普段から探しにあちらこちらへ行っているから、グアロよりも森には詳しいだろう。
そのノエルが言うのだから、間違いない。
「…少しだけだぞ…」
「ホント!?グアロありがとー!」
ノエルはグアロの顔に抱きついた。
「ちょ、おいっ!はな…離れろ!」
「あーーーー」
グアロは顔を真っ赤にしてノエルを放り投げて背中に乗せた。
「もーー乱暴なんだから。」
「乗ってろ。行くぞ。」
グアロは二本足で立ち上がり洞窟の外へ歩き出した。
「ちょ、ちょっと!二本足だと!落ちるって!!」
「うるさい。今の仕返しだ。」
「悪いことしてないのにー」
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今日は快晴だ。
太陽の光が木漏れ日を作り出し、とても神秘的な光景を生み出している。
「わぁーやっぱり森は綺麗ね!」
「ほれ。」
「いてっ、もう乱暴なんだから!」
グアロは芝生にノエルをつまんでひょいと投げた。
「…木漏れ日が神秘的だな。」
「そうね、ホラ、出てきて良かったでしょ?」
ノエルはニヤリとグアロの顔を見る。
「うるさい。」
「もう、素直じゃないのね。」
ノエルはグアロの身体に飛び乗って、抱きしめた。
「何だよ…慣れ慣れしい奴だな…」
「えへへー、ね。やっぱり…駄目?」
「駄目だ。」
「やっぱり?」
ノエルはやはり空が飛んでみたいようだ。
「それと…お前慣れ慣れしいぞ。」
グアロは抱きついたままのノエルの服の襟をつまんでまた芝生に戻した。
「えーだってグアロの身体、気持ちいいよ。」
「どう気持ち良いんだよ…」
「なんとなく!」
ノエルは即答した。
「全く変な奴だ。そういうのは恋人同士でやるもんだろ。」
グアロはノエルに注意をする。
「まだ…そんなんじゃないだろ…」
「え?」
「ハ?あっ、いや!なんでもねっ!」
グアロは何故か顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「何一人で赤くなってるのよ。」
「何でもねぇっ!」(な、なな何言ってんだ俺は…!)
「グアロ?」
ノエルは幸いにもグアロの失言が聞こえなかったようだ。
故にノエルは何故今グアロがそっぽ向いているのかが全く分からなかった。
「うるさい!ちょっと頭冷やす。」
グアロはノエルをその大きな手で覆った。
「えっ!?ちょっと何!?きゃあああああ!」
ノエルは急に上にグォッと押し上げられる感覚を感じた。
空を飛んでいるのだ。
グアロの手に包まれ、暗い空間にいるノエル。
グアロの手の中だ。ほんのり暖かい。
ノエルは隙間から目の前の光を見た。
「わあああ!!すごおおい!!」
見えたのは空だった。
青く染まる空。
奥に見えるのは海。
ノエルの住んでいる場所は崖に覆われた小さな村。
崖の外の世界を知らないノエルはもちろん海を見るのは始めてた。
「すごい!すごーーーい!!!」
ノエルは大声で叫んだ。
「こら、うるせぇぞ!舌噛むぞ!」
「えっ!?きゃあああっ!」
グアロはぐるぐる回りながら飛んだ。
「ちょ、ちょっと…!目が回るー!」
ノエルはあちこちに揺られた。
「あー…やっぱ空は良いな。」
グアロはすっかりご機嫌だ。
どうやらグアロは空を飛ぶのが大好きみたいだ。
「どうだノエル。空の旅ってやつは。」
「おもしろーーーい!!」
ノエルは笑顔で言う。
「ハッ、お前の顔が見えないけど、楽しいってのが伝わるな。」
グアロはしばらくの間付近の空を飛んで見せた。
ノエルはしっかり目に焼き付けた。
グアロの手に包まれてなので、360度を見渡せるわけでは無いが、ノエルにとっては少しの隙間で見えるだけでも十分すぎる幸せを感じていた。
面白い。
楽しい。
凄い。
ノエルは最高の気分だった。
空を飛ぶグアロの顔もどんなときよりも落ち着いていた。
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「あー楽しかった!」
2人は結局夕方まで飛んでいた。
何時間飛んでいても飽きないその壮大な景色をノエルは十分堪能した。
「でもグアロ、どうして私を空に連れて行ってくれたの?」
「…何故だろうな、俺にも分からん。」
夕暮れのオレンジの光が森を染める。
「ほれ、日が沈む。とっとと帰りな。」
「あ、うん!」
「じゃぁな。」
グアロは後ろを向いて飛び立とうとする。
「あ、グアロ!」
「なんだ。」
呼び止めるノエル。
グアロは振り向かずに言う。
「今日はとっっっても!!楽しかったよ!本当にありがとう!」
ノエルは満点の笑みでグアロに言う。
最もその顔はグアロは見ていないが、その声の言い方だけでグアロには十分伝わった。
「…もうこれっきりだからな。」
グアロはそう言い、翼を羽ばたかせ、飛び去った。
ノエルは手を振った。
「…あー楽しかった!グアロも素直じゃないなぁ。」
ノエルはそう言い、帰りに旧文明の遺産を少し探してから、家に帰って行った。
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「ただいま」
「グアロか、何処行ってたんだ?」
「ちょっと散歩だ。」
グアロは自分の住家へ戻ってきた。
毎度のことだが他のドラゴンはそう聞いてくる。
「ふーん、最近外出が多いからな。やっぱ好きなメスでも出来たのかなってな。」
「だから違うっていってんだろっ!」
違う
と、言うが、グアロも薄々気づきかけていた。
ノエルの事がいつの間にか気になっているのだ。
いつも無茶ばかり言って、いつも言うことがストレートで。
めんどくさい。
けど、ノエルと飛んだ空はいつもと違った。そんな気がした。
グアロの心は揺らいでいた。
そしてグアロに一つの考えが浮かんだ。
(…あいつ…まだ居るかな…)
その後、皆が眠り、静まり返ったのを狙ってグアロは住家の最下層に向けて歩き出した。
そこは牢屋だった。
特別使うことはあまりないが、掟を破ったものが反省の為に入れられる場所だ。
もしグアロがノエルと絡んでいることが見つかれば確実にこの中だろう。
「…まだ…居るか?」
グアロは小声で言う。
「……あぁ、ここに。」
牢から細い手が伸びる。
ドラゴンのようだが、とてもドラゴンとは思えないほど細い腕だ。
「やぁ。」
「…すっかり痩せちまったな…」
「そうだな…で、こんなやさぐれ者に何の用だい?我が友グアロ。」
「…あぁ、お前に聞きたいことがあってな。」
「何だい?」
「人とドラゴンについて…な。」
グアロの心が動こうとしていた。
Episode4 END