black flower 黒竜花 Ⅲ
Episode3 近づくココロとココロ
こそばゆい
なんだこいつ
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旧文明の遺産を探しに森へ入った少女ノエル。
彼女は途中雨宿りの為、洞窟へと入って行った。
そこで彼女は決して出会ってはならない存在である”ドラゴン”と出会う。
怪我をしていたが、ノエルは止血をした。
人間の肉は不味いから食べない、ややこしくなる前に去れと言われたノエルだったが、今まで聞いていた話と全く違うことにノエルは拍子抜け。
もしかしたら悪い種族ではないのではと判断したノエルは、明日またここで会おうと言う。
ドラゴンは来る気は無いし、どうでも良いと思ったがどうやらドラゴンもまた人間に対して拍子抜けをしたらしく…?
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目を覚ますといつもの天井。
ノエルは今日は少し早くに目を覚ました。
眠たそうにふらふらと歩きながらも、クローゼットの中にあるいつもの服を取り出す。
ピンク色であちこち違う服の布で直した跡がある。
「うーん…と…」
ノエルは外へ出た。
ノエルの住んでいる家のすぐそばには小川がある。
透き通るような綺麗な水で、冷たくて気持ちが良い。
この世界では川で泳ぐ生き物を【フシュ】と呼ぶ。
小さなフシュがこの小川にも時々姿を見せる。
自由気ままに泳いでいて気持ちが良さそうだ。
「よいしょ…」
ノエルは小川に顔を付けた。
フシュがノエルの青い髪の毛に入ろうとしているが、入る前にノエルはじゃぶじゃぶと顔を洗い出し、驚いたフシュは逃げてしまった。
「ぷはーっ!すっきりした!」
顔を上げ、用意していた布で顔を拭く。
「よっし!行こうかな!」
ノエルは走り出した。
行先は昨日行った洞窟。
ドラゴンに会いに行くためだ。
森を抜けて洞窟へ。
ノエルの心は
会えるかなぁ。
その気持ちでいっぱいだった。
ドラゴンはもう来ないと言った。
でもまだいるかもしれない。
可能性は低いが、ノエルはそれでも会いたかった。
ノエルの好奇心はもはや誰にも止められなかった。
今まで人間にとって恐怖の対象だったドラゴン。
そんな存在に昨日遭遇して、そして会話までして。
人間を食べないという真実を知り。
ドラゴンとはどんな生き物なのか。
どんな暮らしをしているのか。
人間の言う真実と実際ドラゴンが送っている生活のスタイルは実はまるで異なるのかもしれない。
ノエルはドラゴンについて知りたいと思った。
そして何よりもドラゴンが追っていた怪我も気になっていた。
村の人に教わった限りでは、ドラゴンは再生能力にも優れていて、傷なんてあっという間に治癒してしまう。
そう教えられていたが、昨日であったドラゴンの傷はすぐには治っていなかったし、出血もしていて止まる気配も見せていなかった。
つくづく人間が広めているドラゴンの生態は大きくずれているようだ。
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「居るかな…?」
ノエルは洞窟に入った。
昨日となんら変わり栄えのしない洞窟を進む。
大きな空洞はすぐそこだ。
ノエルは曲がり角からこそっと空洞を覗く。
すると…
(…あっ…居る…!)
ドラゴンが居た。
間違いなく昨日のドラゴンだ。
腕にはノエルが巻いた赤い布がある。
ノエルは大声で叫んだ
「ドラゴンさーーーーーーーーーーん!!!!」
「うぉ!?」
驚いたドラゴンは体をビクッと動かし辺りを見渡した。
「ここ!ここ!」
ノエルは自分の居場所を知らせ、ドラゴンに向けて走った。
「何だ…お前か…脅かすなよ。」
「えへへごめんね。それより!やっぱり来てくれたの?」
ノエルは居るとはあまり思ってなかったので嬉しそうにドラゴンに聞く。
「キズがまだ痛んでたから少し様子見てただけだ。ったく、もうすぐ出ようとしてたのによ…」
ドラゴンはぶつぶつと文句を言う
「そっか、まだ傷。良くならないのね。」
ノエルは心配そうにドラゴンに言う。
「ふん、こんなもんすぐに治る。それよりお前、何でまた来た?」
ドラゴンはノエルにぐっと顔を近づけて言う。
顔がノエルのすぐそばまで来る。
ノエルの身長の半分ぐらいの大きさの顔がぐっと近づいてきたので、ノエルはちょっとだけ後ろに下がった。
「え、えーっとね、居るかなー?って思ってきたの、そしたら居た!って感じ!」
「ふーん…居なかったらどうするつもりだった?」
「そりゃ諦めて帰るしかないじゃない。でも会えて良かった!私もっとドラゴンさんとお話したくって。」
ノエルはニコッと笑って答えた。
「…ドラゴンと会話したい?お前何言ってんだ。」
「え?」
「昨日も言ったろう、ドラゴンと人間はお互いを干渉しない仕来りがあると…そういうことだ。」
「でも私が聞いたドラゴンの話と、今のあなたは全然イメージが違うわ。もっと凶暴な性格だと思ってたもの、いいえ、そう教えられてきたんだもの。」
ノエルは人間の広めていたドラゴンの話をドラゴンに教えた。
「その辺はお前ら人間と同じだろ、ドラゴンだって気性の荒い奴だって居るさ。だがな、人間の肉を食う奴は誰一人として居ない。あんなに不味い肉はこの世にない。」
ドラゴンは言う。
人間の肉とはドラゴンにとっては、相当不味い代物のようだ。
ノエルはこのドラゴンだけが人間の肉が嫌いなのかもという仮説も立てていたが、どうやらそれは違うようだ。
「じゃぁドラゴンは人間を襲ったりしないのね。」
「しない。と、いうよりは干渉しない仕来りだからその行為は禁止だ。そして今こうやってお前と話してることも禁止行為なんだよ。」
更に顔を近づけるドラゴン。
「じゃ、じゃぁ無視すれば良かったんじゃないの?」
ノエルは聞く。
「どーせ無視したら傍でギャーギャー騒ぐんだろ。」
「あら、よく分かったわね。」
「だと思った。」
五月蠅いのは御免だ。
ドラゴンはそう言い、顔を離した。
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「ねぇドラゴンさん。あなたの仕来りでは人間はどう見られてるの?」
ノエルはドラゴンに聞く。
「…そのドラゴンさんっての止めろ。何か癇に障る。」
「えっ?じゃぁ何て呼べばいいの?」
「俺には”グアロ”って名前があるんだ。」
「そう、じゃぁこれからはグアロって呼ぶわね、だからグアロは私のことノエルって呼んでくれるよね。」
ノエルはドラゴン、いや、グアロに言う。
「ま、お互い様ってやつだな。」
「うん、じゃぁ改めてグアロ。さっきの質問教えてくれる?」
ノエルはちょっと嬉しそうだ。
名前で呼び合うまでになってしまったからだろうか。
「…俺たちドラゴンに伝わる言葉がある。」
グアロは翼をバサッと広げた。
「人 天と地を脅かす者也
人 遥か昔 地を壊し文明を滅す
竜 地 其の魔の力で自然 戻す
人 魔の力に衰退せし
竜 人を恐れる者
人 竜を恐れる者
竜 人
互いに相容れぬ者也」
「…難しくて分からないわ。」
「だと思った。」
グアロは翼をたたんでため息をついた。
「俺も生き証人なわけじゃないから憶測な説明しかできないが、人間は遥か昔、とても高度な文明を持っていたらしい。」
「やっぱり!じゃぁこの辺りに転がっているのは旧文明の遺産なのね!」
ノエルは嬉しそうに興奮した。
「そうだな、確かにこの辺りにあるよく分からんガラクタは旧文明の遺産…そして遥か昔の人間が使っていたものだ。」
「私の推理は間違ってなかったのね。良い話を聞いたかも!」
ノエルはキャッキャとはしゃぐ。
「おい、話を続けて良いか?」
「あっ、ごめん!良いわよ!」
「で、人間はその文明の力を利用して何かでっかいことを計画していたらしい…しかしそれは失敗に終わり、その結果人間はこの世界の大地を破壊してしまい、この世界は生物の住める世界ではなくなってしまったらしい。」
「でも私たちは生きてるわ?それはどうして?」
ノエルの疑問その1。
「この大地を蘇らせたのは俺たちドラゴンらしい。」
「ドラゴンが?」
「そうだ、俺たちドラゴンは魔力と呼ばれる力を持っている。俺たちは魔力の力で空を飛んだり、自然治癒の能力を早めたりするんだ。」
「え?その翼で飛んでるんじゃないの?」
ノエルの疑問その2。
「この翼は飾りみたいなもんだ。俺たちは魔力が無いと飛べない。」
「ふーん…飾りなんだそれ…」
ノエルは不思議そうに見ている。
「ドラゴンは魔力の力で大地に自然を取り戻した。しかし人間ってのは恐ろしい生き物だ。世界をあっという間に壊してしまう。だからドラゴンは人間に干渉することを止めた、その時生き残っていた人間たちは非力な者ばかりだったからな、手を退くなら今だと判断したんだ。」
「なるほど…人間はドラゴンの魔力の力とその巨大さに恐れたのね。」
「そういうことだ、竜は人を恐れ、人は竜を恐れた。そしてお互いの種族はそれぞれに干渉しないような仕来りを作った…と、こんなところだ。」
グアロはノエルにも分かるように詳しく説明した。
グアロ自身は早くノエルに関わらないように促したくて詳しく話したつもりだったようだがノエルは逆に好奇心を更に奮い立たせてしまっているようだ。
「で、これを聞いてもお前はドラゴンと関わりたいのか?」
グアロはノエルに爪を向けた。
鋭くて大きい爪だ。
「今ここで爪を首に突き立てるだけでお前を殺すことが出来る。それぐらい俺は違う生き物だ。」
ノエルは爪を向けられてるにもかかわらず平静だ。
「大丈夫、グアロは私を殺す気なんてないでしょ?」
ノエルはグアロの顔をじっと見ながら言う。
「…なんでそんなこと分かるんだよ。」
「んー…なんとなくかな。そんなことするとか思えないのよね。」
ノエルはニコッと笑いながら言う。
「…変わった奴だな。普通の人間ならすぐ逃げるだろうに…」
「うふふ、変わった子だってよく言われるわ。」
「…がっははははは!!全く、敵わないな。お前はホントにおかしい奴だ。」
グアロはノエルのただの人間とは思えないぐらいの好奇心と怖がらない姿に面白くなり笑ってしまう。
「あっ、初めて笑ったね!」
「あー、ホントだな。まったくあんまりにもお前がおかしい奴だからだ!」
二人は腹を抱えて笑った。
いつの間にか笑いあう程になった二人。
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「ねぇもっとお話しよ!もっと私知りたいわ!」
「ドラゴンのことか?」
「ううん!ドラゴンの事はもう良いわ。あなたのことを聞かせてよ、グアロ。」
ノエルはグアロのことを知りたいと言った。
「俺のこと?」
「そう、例えば好きな食べ物とか、嫌いなものとか。」
「あーなる程…そうしたいのは山々だがそろそろ巣に戻らねーと…」
「えぇー!帰るの!?」
ノエルはショックでつい大声を出してしまう。
「うるせぇよ…仕方ないだろ。俺だって巣の仲間が心配して探してるかもしれないし、今お前と一緒に居るのは危険なんだ。」
「そっか…あなたにはあなたの帰るところ、あるもんね。」
ノエルはちょっとがっかりだが、グアロにはグアロにの帰るところがある。
仕方のないことだとノエルは割り切った。
「じゃぁまたここで会いましょう!もっと話したいもん。」
ノエルはグアロにまた会いたいと言った。
グアロは首を横に振った。
「…やめとけ。」
「なんで?」
「これ以上俺たちが出会うのは危険だと言っているだろ、仕来りを破るようなことをしているんだ。これがバレてみろ。俺は間違いなく罰を受けるだろうし、人間にも被害が及ぶかもしれないんだぞ。干渉出来ないように…人間を殺しにかかる可能性も否定できない。」
「そんなぁ…せっかく友達になったのに…」
ノエルはがっくりと下を向く。
「仕来りだ。仕方ないんだ、分かってくれ。」
グアロはノエルにお願いする。
「…しゅん…」
ノエルはしょぼんと落ち込んだままだ。
グアロはなんだか気まずくなってきた。
「…おい。」
「…」
顔を上げないノエル。
「…あー…」
翼を広げるグアロ。
出口に向かって歩こうとする。
そこでもう一度ノエルを見る。
「…だーー!気まずい!分かった!また来ればいいんだろ!」
「ホントに!!!?」
ノエルはグワッと顔を上げて、嬉しそうな顔でグアロを見る。
「あぁ、出かけると嘘ついて来てやるからもう落ち込むんじゃねーぞ!!」
グアロは声を荒げて言う。
何だか顔が赤い。
ノエルはそれにも気が付かずに嬉しそうにやったー!と喜んだ。
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「楽しかったなぁー」
グアロと別れたノエルは村に戻ってきていた。
「おおノエル。」
「あ、こんにちは。」
村人だ。
「朝から姿が見えなかったがまた遺産探しかい?」
「あっ、うん!そんなところ!」
「そうかい、でもあまり遠くに行ってはいけないよ。ドラゴンに出会わないように気を付けないと。」
「大丈夫よ、ドラゴンって怖くないもの。」
「え?」
「あ…えっとドラゴンなんて怖くないから出会ったらすぐ逃げちゃうから!」
「そうかい、でも出会わないのが一番だからね、気を付けなさいよ。」
「は、はーい!」
ノエルはそそくさと自分の家に帰って行った。
「危ない危ない…グアロのことは内緒なんだもの…」
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バサッ
切り立った崖にあるドラゴン一族の巣。
巨大な穴の奥にはたくさんのドラゴンが群れを成して暮らしている。
「グアロ!」
「グアロ!」
グアロが帰ってきたことにドラゴンの仲間たちは喜んで迎え入れた。
「無事で良かった。帰ってこなかったから心配していたんだぞ!」
「あ、あぁ、悪かったな。ちょっと怪我してただけだ。」
「その腕か?…赤い布?」
「あー…その辺に落ちててな!止血の為に自分で結んだんだ。」
「そうか。なら良いんだけど。」
(危ない危ない…人間に結んでもらったなんて言えるかよ…)
「?…顔、赤いぞ?」
「ホントだ、メスのドラゴンでも出来たか?」
「だーーーっ!!なんでもねぇ!!!!」
お互いに近づいて行くココロの距離…
相容れるはずのない心が繋がろうとしている…
Episode3 END
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仕来りだろ?
仕来りなんだろ?
なのに何で俺はあんなこと言ったんだ?
分からねぇ
いかん、また顔がのぼせて…どうなってやがんだあの人間…