black flower 黒竜花 Ⅱ
Episode2 意外なジェネレーションギャップ
とある世界
いつかの時代
小さな村に住む一人の少女は決して出会ってはならない存在と遭遇した
大きな身体
大きな爪
その姿は人間から見たら
”化け物”だ。
”モンスター”だ。
どうせ食べられるだろう
奴らは肉を主食としている
これも自然の流れの中で有り得る事態だ
放っておこう
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物干しの代わりになる旧文明の遺産を探しに森の奥へ入った少女ノエルは雨に打たれ、洞窟へと雨宿りの為に入った。
その奥に大きな影
そこに居たのはドラゴンだった。
決して出会わないように、そして出会ったらすぐに逃げるように村の人に言われ続けていたノエルは気づかれないうちに逃げようとするが、誤って石を蹴ってしまい、ドラゴンに気づかれてしまった…
ドラゴンに気づかれ、見つめられるノエル。
ドラゴンは座ったままノエルを見ている。
(どっ、どうしよ~…)
ノエルは汗を流し、どうすれば良いかも分からずに、その場でオロオロとしている。
「…あっ…えーと…そのー…私は食べてもおいしくない…よ?」
と、よくあるセリフを言うノエル。
ドラゴンはじーっとノエルを見続けたままだ。
「…人間か」
声がした。
「えっ?今の誰?」
ノエルは辺りを見渡す
「誰って、俺以外に誰が居るんだ。」
ドラゴンの方から聞こえる
「えっ」
「だーかーら、俺だって言ってんだろ」
「ええええええええええええええええええええええええドラゴンって喋れたの!!!?」
「うぉ!」
洞窟に響く大声に思わずビクッとなるドラゴン
ノエルの身長は150cmぐらい。
そしてドラゴンの身長は約4m50cmはある。
ノエルの約3倍の大きさだ。
動いただけでも音がする。
「いきなり大声出すなよ」
「ご、ごめんなさい!だって喋れるなんて聞いてなかったから…!」
ノエルはドラゴンに謝った。
「いや、別に構わないが……それよりもお前は早くここから出て行け。」
ドラゴンはノエルに言う。
「えっ、どうして?あなた私を食べるんじゃ…?」
予想外の言葉にノエルは驚いた。
ドラゴンは人間を食う恐ろしい生き物だと村人たちに聞かされていたのでなおさらだ。
「人間の肉は不味い。食えるか。」
ドラゴン曰く、人間の肉は美味しくないらしい
「そ、そう…って何か嫌な言い方ね…」
ノエルは食われないことよりも不味いと言われて何だかムッとしてしまった。
「そういうこった、お前も他の人間に見つかると面倒だろう?俺も仲間に見られると面倒なんだ、だから早くどっか行け。」
ドラゴンは右腕を上げてシッシと手をはらう。
その時、ノエルが見ていたのは左腕だ
やはり赤いものが見える。間違いなく血だろう。
「やっぱり…あなた、怪我してるのね。」
ノエルはドラゴンに近づこうとする。
「近寄んな」
ドラゴンはめんどくさそうに右手でノエルの行く手を阻む。
「何で近寄っちゃ駄目なの?」
ノエルはドラゴンに聞いた。
「何でもだ、ほっときゃ治るからさっさと去りやがれでないと不味くても食うぞ」
ドラゴンは脅しを交えてノエルに言う。
「駄目よ、ちゃんと止血しないと!」
ノエルは腕の上を登ってドラゴンの左腕まで行く。
「あっ、おい!」
ドラゴンの左腕は動かないのか避けようとはしなかった。
「ほら、動かせないんじゃないの。」
ノエルはポケットから赤い布を取り出した。
結構大きい布だ。
ドラゴンはノエルを見ていた。
人間は干渉してこないはずなのに。
ドラゴンは不思議に思っていた。
「これね、旧文明の遺産を持って帰るときに包もうかと思ってたんだけど…あなたにあげるわ。」
ノエルの布はドラゴンの腕にくくられた。
「これで血が流れるのを止められそうね。」
ノエルは満足そうにドラゴンの左腕を見る。
「…助けろと頼んでないぞ。」
「良いの。私が助けたかったから。」
ノエルはドラゴンの顔を見てニコッと笑った。
「…一応感謝はしている。」
ドラゴンはそれだけ言って顔を伏せてしまった。
「早く去れ、面倒事はごめんだ。」
ドラゴンはそれだけ呟いて、喋らなくなった。
「…」
ノエルはじっとドラゴンを見ていた。
ノエルは正直拍子抜けしていた。
今まで散々、ドラゴンは恐ろしい生き物だと聞いていたのに、いざ出くわすと
人間は不味いから食わないだの、襲ってもきやしない。
ノエルは想像してたのと大きく異なるその姿に拍子抜け。
そしてノエルは思った。
(思ったより…ドラゴンって悪い生き物じゃないのかも…!)
ノエルは何やら不思議な感情を感じた。
安心感だけじゃないもっと別の何かだ。
「…明日もここ、居るでしょ?私また来るから!」
ノエルはドラゴンに言った。
すると「はぁ!?」と大声でノエルの方を振り向いた。
約4m50cmを超える巨体が凄い勢いで動く
「お、お前…正気か?」
「正気よ。」
即答だ。
「お前!知らないわけじゃないだろ、人間ってのは俺たちドラゴンと関わりを持たないっていう仕来りがあるだろ。俺たちドラゴンにもそうだ、人間とはかかわるなって仕来りがあるんだ!」
ドラゴンは声を荒げてノエルに言う。
「でも…やっぱりあなたの怪我、心配だから。」
「調子狂うな…とにかく!俺はもう明日にはここにはいない、諦めな。」
ドラゴンはそう言い、また顔を伏せる。寝転がってしまったドラゴン。
「むー…私絶対来るから!」
ノエルはそう言って、洞窟を出た。
外の雨はもう止んでいた。
ノエルは洞窟を再度見て、村へともどって行った。
洞窟内では…
(…人間って…良い奴じゃねぇのか…?もっとあくどい奴かと思ってたが…拍子抜けだぜ…)
ドラゴンも拍子抜けしていた…
そしてノエルはその帰り道に気が付いた。
「あっ…!洗濯干し取りに行くの忘れてたぁ…もぉ…」
もう日が暮れそうだ。
本来の目的を忘れ、とぼとぼと帰るノエルだった。
「ノエル!何処行ってたんだ!」
「ごめんなさーい…」
祭りはもう終わっていた。
ノエルはその日の夜、お祭りの最中に抜け出して外に1人で出たことを怒られた。
1人身のノエルは村人に心配されて育ってきた。
とても行動的な彼女は村人をよく困らせる。
「全く…ドラゴンに遭遇しなかっただろうな?」
「えっ、うっ、うん!何も!」
ノエルはもちろん今日ドラゴンに出会ってしまって、手当し、お話したことも全て黙った。
「なら良いけどな。せめてこれからは、祭りの時ぐらいはおとなしくしていなさいよ。」
「はーい…」
その後もねちねちとお説教が続き、ノエルはくたびれて家に帰ってきた。
「もう、分かってるって!心配性なんだからぁ。」
ノエルは床にごろんと転がって天井を見た
「あのドラゴン…」
ノエルは洞窟で出会ったドラゴンとの出会いを思い返していた。
偶然にも出会ってしまったノエルとドラゴン。
どちらも以外だっただろう。
お互いに干渉し合うこと無く、互いが恐れる者としていたそれぞれが、実際に出会い、言葉を交わすと価値観やその在り方。
何もかもが食い違っていて、完全なジェネレーションギャップを見せていた。
「…明日、居ればいいんだけどなぁ。」
ノエルは少し微笑んだ。
ドラゴンの怪我が気になるのもそうだが、全く違うドラゴンのイメージ、そしてもしかしたら仲良くなれるかも。
ノエルの好奇心を強く刺激した。
そしてこの出会いが、これから世界の土台を少しずつずらしていくことになるとはまだ誰も想像していなかった…
Episode2 END