転生者27歳死亡説
27歳の誕生日に突然死んでしまった俺は、脇谷久兵衛という今川家臣の武士に転生した。
未来知識を活用して、今川家の軍師に成り上がった。
チート転生って最高だね、このときはそう思っていた。
桶狭間は超えたはずだった。
なのに織田軍は、やってきた。
現在、今川義元軍の行軍しているのは、ちょうど名も無い狭い谷。きっと後の時代のどこかで、造成されて住宅街かマンションになるはずの小さな谷。
すでに現代で呼ぶところの名古屋の近郊までたどりついた。
自分の知っている桶狭間は、回避したはずだった。
未来知識をつかって今川義元に気に入られた俺は、軍師ポジションにおさまりあらゆる死亡フラグをつぶした。
天気が悪くなるので進軍を急ぎ、奇襲に備えた陣形で行軍するなど、多くの桶狭間ポイントを回避したつもりだった。
きっと、この場所がこの世界線の桶狭間になるのだろう。
「お館様、織田軍です!」
俺は、南蛮のメガネ屋を呼び、チート知識で制作した簡易双眼鏡を覗きながら叫んだ。
こんなこともあろうかと義元様の周辺には、鉄砲を装備した精鋭部隊を配置している。
運命にたてついて見せる!
そう決心した俺のそばを一騎の騎馬が駆け抜ける。伝令だろうか?緊急事態だからね。
「そこの伝令!要件があるなら、お館様を通す前に、俺に……」
馬から飛び降りた武士は、そのまま義元様を斬り付けた。首と胴体は分離する。
「我が名は、毛利新介!今川義元公、討ち取ったりぃぃ!」
無理だったよ……
その後、突撃してきた織田軍との乱戦のなか、俺は死んだ。人生50年の時代に27歳で死んだ。
次は、スペース・オペラのモブキャラに転生していた。宇宙を舞台に艦隊がワチャワチャするアニメの世界だ。
俺は、ワキ・フォン・ヤークト伯爵になっていた。誰?
このときの俺は、めちゃくちゃ張り切っていた。なんてったって27歳で、上級大将まで昇格したからな。
主人公まわりの人物は20代前半で新王朝をつくって皇帝や元帥になっているけれど。モブでは最速だ。
主人公たちにも、一目置かれるようになった。モブの俺の名前を覚えてくれている程度には活躍した。
軍事大国の旧王朝をのっとり、皇帝となった主人公は、宇宙に平和をもたらすべく、宇宙統一を目指すことになる。
その過程でライバルたちとの激戦がある。
まだ本編は、始まっていない。
「ヤークト上級大将、卿には惑星ジュタクローンの攻略を命ずる。腐敗した民主主義者どもを制圧して、我が王朝の威光と正当性を示すのだ」
グッズ展開なども充実しているイケメン主人公の皇帝は、俺に命令する。専制君主に、「無理です」とはいえないので、「はっ!」と元気よく返事する。
「卿のその正確な未来予測にはいつも舌を巻く。今回も、期待しているぞ」
未来を知っているので、勝ち馬に乗っているだけのは、秘密だ。
艦隊を率いて、俺は惑星ジュタクローンに向かう。
本編では名前だけが少し出たような気がする……
「敵の様子は?」
旗艦のブリッジで、コーヒーを飲みながら俺は副官に質問する。
「我が艦隊3万隻に対し、敵艦隊はおよそ5千隻。それも旧式ばかりです」
「ぬかるなよ。警戒を厳重にしろ」
「はっ!我が艦隊は敵艦隊を包囲するように動いております。閣下のご命令があり次第、すぐさまに殲滅してみせます」
「それでよい」
副官のところになにか情報があったようで、俺のところにやってくる。
「敵の協力者からの情報によりますと、敵艦隊の提督以下主力幹部はすでに小型艇で脱出した模様です」
「そしたら誰があの艦隊を指揮しているんだ」
「情報によりますと、アナザ・シュジンコー大尉が代理指揮官を務めています」
「データベースにも、情報はありません。へき地勤務の大尉です。一隻の船の指揮ならともかく、一個艦隊の指揮は素人同然でしょう。
上官から見捨てられても戦う意思は認めますけれど、正直なところ敵ではありませんな」副官は笑って言った。
その名前に聞き覚えがなければ、俺も副官とおなじように反応しただろう。ただ俺は、その名前を聞いた瞬間、冷や汗が流れ、心臓がバクバクと鳴るのが分かった。コーヒーの飲み過ぎではない、極度の緊張によるものだ。
(もう一人の主人公じゃねえか!主人公補正相手に、戦力比6:1は厳しいか?
思い出したぞ。それにアナザの名前が世に出るのは、味方にも見捨てられたなか、敵を撃退するところからだ。物語の前日譚として、口頭で語られていた)
「……ということは?
モニターに写っているのは、本当に敵主力艦隊なのか?」
「レーダーからのデータ分析をもとにした、コンピュターグラフィックスによるCGです。異常はありません」オペレーターは言った。
「目視で確認しろ。ダミーの可能性がある。偵察機を発進!今すぐにだ」
「提督、後方より識別不明艦が接近しています。その数、およそ5千。まもなく、この艦の真後ろに現れます」オペレーターは言った。
「前方の船はすべてダミーだと……馬鹿な。なぜ気づかなかった!」副官は言った。
「これが主人公補正か……」俺はつぶやいた。
次の瞬間には、メインモニターに本物の敵艦隊が映し出され、敵艦の主砲が光った。
ワキ・フォン・ヤクート上級大将、死す。享年27歳であった。
次は、野球選手になっていた。
モッブ・ジュニアというピッチャーだ。
今度は、殺し合いのない平和な世界だ。
今回も一生懸命練習した俺は、リーグでもそこそこのピッチャーになっていた。
スター選手のなかには、身長5メートルの外野手や火の玉を投げるピッチャー、おそらくメインキャラクターっぽい連中もいた。
関わらないようにすれば、普通に野球ができる。
二度死んだから、今度は地味なモブとしてなんとか寿命をまっとうしたい。
27歳のシーズンを迎えた。
その年は、肉体も技術も最高のコンディションで、準エースクラスの活躍をしていた。
それがまずかった。
オールスター直前、うちのチームのエースが、謎の忍者に襲われ入院したのだ。
サプライズ忍者だ。
「モッブ、君にはオールスターにでてもらう。エースの代役として頑張ってくれ」監督は言った。
「いや、彼は忍者に襲われたんでしょう。そんな人の代役なんて危険すぎます」
「これは決定事項だ。忍者に消されたくなければ、出場したまえ」
なにか物語らしきものが始まっている。なんらかの力が働いている。
不思議なほどすんなりと俺は、代役に選ばれた。
オールスターはふつうに進んでいく。
俺の出番がやってきた。1イニング投げればよい。
モブみたいな地味な見た目のバッターを2人アウトにした。あと1アウトだ。
次も、地味なバッターだ。
なんて安心したのがまずかった。
「ケケケケケッ……どいつもこいつも下手くそでゲスなぁ。おいらが本物の野球を見せてやるでゲスよ」
突如、忍者裝束をまとった気味の悪い男があらわれ、次のバッターを押しのけて打席にはいる。
「警備員さん、不審者です。対応おねがいします」俺は言った。
俺に言われるまでもなく、警備の人たちは忍者を取り押さえようとする。
「邪魔するなでゲスよ」
忍者は、紫色の毒霧を吹きつけると警備員たちは血を吐いて倒れる。
「この球場にいる観客を殺されたくなければ、おいらと野球で勝負するでゲスよ」
正統派ではなく、魔球とかが登場するタイプの物語が始まってしまったらしい。
ここは俺の出番ではない。
「監督、俺を交代して、別の、具体的には魔球を投げたり、異常な身体能力持つピッチャーにかえてください」
「モッブ、貴様もプロならば、意地を見せろ。忍者とはいえ素人になめられて悔しくないのか」
交代は無理のようだ。
俺は諦めて、マウンドに立つ。
あっさりと2ストライクをとることができた。相手の忍者は、ニタニタと笑っている。
「モッブ選手、いいボールを投げるでゲスねえ……」
これ以上、この忍者を相手にしたくはない。
俺は、外角低めに全力でストレートを投げる。
忍者はバットをふった。コツリとあたって、平凡なピッチャーフライだ。
「殺人ピッチャー返しでもくるのかと思ったぜ」
俺はしっかりと両手で構えて、ボールをとる。
「ヒヒヒ……忍法、殺人毒霧打法でゲス!」忍者は一塁ベースを踏んで言った。
ボールがグラブに触れた瞬間、ボールの縫い目から毒霧が噴射される。
俺は警備員たちと同じように、血を吐いて倒れる。
「なんという恐ろしい打法だ。
ハイスピードカメラでも捉えきれない速さで、バットの先端に毒霧を吹き付け、ミートの瞬間に忍者特有の手首の柔らかさをいかして、ボールに毒霧をしみこませる。
そして、わざとフライをうちあげ、キャッチの衝撃であたりに毒霧を撒き散らすというわけか……」監督はベンチで、メインキャラクターっぽい選手に向けて解説している。
「今度は、かませ役かよ……」
享年27歳であった。
その後は、格闘家、未来生物、アンドロイド、宇宙人……
いろんなものに転生したけど、全部27歳で死ぬ。
どうやっても死ぬ。
ためしに魔王になったとき、全部2進数で表記させるように命じて、27という数字をこの世から消したこともあった。
でも、11011歳のときに死んだ。
不便すぎると部下に、キレられたからだ。
27のことばかり考えていると、次第に俺は27になっていた。概念としての27だ。即死した。
転生しても27歳で死んでしまうと、思い悩むことが多くなり、気分は沈む。
そんなある日、俺は空を見上げた。なんとなくだ。
そこには太陽があった。いつ(日中限定)だって、太陽は俺を照らしてくれる。
俺は思った。
俺の悩みなんて、太陽に比べればちっぽけだって。太陽に俺の悩みをぶつけてすっきりしようと思った。
これまでの転生知識を活用して、宇宙船を製造し、俺は太陽に突っ込んだ。
そしたら、値9になった。
どういうことかって?
太陽はSUN、つまり、「3」だ。そこに「27」の俺がぶつかれば、27÷3となり値は「9」。
値9となった俺は、宇宙をさまよう。
どのくらい経ったのだろう、宇宙を漂う俺を見つけた知的生物は、俺を値9ではなく地球と呼ぶようになった。
長い間に、俺の中にいる微生物、多分、腸内細菌とかが知的生命体に進化し、文明的な営みをはじめた。
俺は彼らにとっての文字通り母なる大地となったのだ。
俺は地球になった。
長い旅だった。これまでの疲れがどっと押し寄せてくる。
俺はまぶたをゆっくりと閉じる。
眠ろう。俺のなかで次の「27」の育つその日まで。
~Fin~