表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生者27歳死亡説

作者: 水森つかさ

27歳の誕生日に突然死んでしまった俺は、脇谷久兵衛(わきやくうべえ)という今川家臣の武士に転生した。

未来知識を活用して、今川家の軍師に成り上がった。

チート転生って最高だね、このときはそう思っていた。


桶狭間は超えたはずだった。

なのに織田軍は、やってきた。

現在、今川義元軍の行軍しているのは、ちょうど名も無い狭い谷。きっと後の時代のどこかで、造成されて住宅街かマンションになるはずの小さな谷。


すでに現代で呼ぶところの名古屋の近郊までたどりついた。

自分の知っている桶狭間は、回避したはずだった。

未来知識をつかって今川義元に気に入られた俺は、軍師ポジションにおさまりあらゆる死亡フラグをつぶした。

天気が悪くなるので進軍を急ぎ、奇襲に備えた陣形で行軍するなど、多くの桶狭間ポイントを回避したつもりだった。


きっと、この場所がこの世界線の桶狭間になるのだろう。


「お館様、織田軍です!」


俺は、南蛮のメガネ屋を呼び、チート知識で制作した簡易双眼鏡を覗きながら叫んだ。

こんなこともあろうかと義元様の周辺には、鉄砲を装備した精鋭部隊を配置している。



運命にたてついて見せる!

そう決心した俺のそばを一騎の騎馬が駆け抜ける。伝令だろうか?緊急事態だからね。


「そこの伝令!要件があるなら、お館様を通す前に、俺に……」


馬から飛び降りた武士は、そのまま義元様を斬り付けた。首と胴体は分離する。


「我が名は、毛利新介!今川義元公、討ち取ったりぃぃ!」


無理だったよ……


その後、突撃してきた織田軍との乱戦のなか、俺は死んだ。人生50年の時代に27歳で死んだ。





次は、スペース・オペラのモブキャラに転生していた。宇宙を舞台に艦隊がワチャワチャするアニメの世界だ。


俺は、ワキ・フォン・ヤークト伯爵になっていた。誰?


このときの俺は、めちゃくちゃ張り切っていた。なんてったって27歳で、上級大将まで昇格したからな。

主人公まわりの人物は20代前半で新王朝をつくって皇帝や元帥になっているけれど。モブでは最速だ。


主人公たちにも、一目置かれるようになった。モブの俺の名前を覚えてくれている程度には活躍した。


軍事大国の旧王朝をのっとり、皇帝となった主人公は、宇宙に平和をもたらすべく、宇宙統一を目指すことになる。

その過程でライバルたちとの激戦がある。

まだ本編は、始まっていない。



「ヤークト上級大将、卿には惑星ジュタクローンの攻略を命ずる。腐敗した民主主義者どもを制圧して、我が王朝の威光と正当性を示すのだ」


グッズ展開なども充実しているイケメン主人公の皇帝は、俺に命令する。専制君主に、「無理です」とはいえないので、「はっ!」と元気よく返事する。


「卿のその正確な未来予測にはいつも舌を巻く。今回も、期待しているぞ」


未来を知っているので、勝ち馬に乗っているだけのは、秘密だ。



艦隊を率いて、俺は惑星ジュタクローンに向かう。

本編では名前だけが少し出たような気がする……


「敵の様子は?」


旗艦のブリッジで、コーヒーを飲みながら俺は副官に質問する。


「我が艦隊3万隻に対し、敵艦隊はおよそ5千隻。それも旧式ばかりです」


「ぬかるなよ。警戒を厳重にしろ」


「はっ!我が艦隊は敵艦隊を包囲するように動いております。閣下のご命令があり次第、すぐさまに殲滅してみせます」


「それでよい」


副官のところになにか情報があったようで、俺のところにやってくる。


「敵の協力者からの情報によりますと、敵艦隊の提督以下主力幹部はすでに小型艇で脱出した模様です」


「そしたら誰があの艦隊を指揮しているんだ」


「情報によりますと、アナザ・シュジンコー大尉が代理指揮官を務めています」


「データベースにも、情報はありません。へき地勤務の大尉です。一隻の船の指揮ならともかく、一個艦隊の指揮は素人同然でしょう。

上官から見捨てられても戦う意思は認めますけれど、正直なところ敵ではありませんな」副官は笑って言った。


その名前に聞き覚えがなければ、俺も副官とおなじように反応しただろう。ただ俺は、その名前を聞いた瞬間、冷や汗が流れ、心臓がバクバクと鳴るのが分かった。コーヒーの飲み過ぎではない、極度の緊張によるものだ。


(もう一人の主人公じゃねえか!主人公補正相手に、戦力比6:1は厳しいか?

思い出したぞ。それにアナザの名前が世に出るのは、味方にも見捨てられたなか、敵を撃退するところからだ。物語の前日譚として、口頭で語られていた)


「……ということは?

モニターに写っているのは、本当に敵主力艦隊なのか?」


「レーダーからのデータ分析をもとにした、コンピュターグラフィックスによるCGです。異常はありません」オペレーターは言った。


「目視で確認しろ。ダミーの可能性がある。偵察機を発進!今すぐにだ」


「提督、後方より識別不明艦が接近しています。その数、およそ5千。まもなく、この艦の真後ろに現れます」オペレーターは言った。


「前方の船はすべてダミーだと……馬鹿な。なぜ気づかなかった!」副官は言った。


「これが主人公補正か……」俺はつぶやいた。


次の瞬間には、メインモニターに本物の敵艦隊が映し出され、敵艦の主砲が光った。


ワキ・フォン・ヤクート上級大将、死す。享年27歳であった。





次は、野球選手になっていた。

モッブ・ジュニアというピッチャーだ。

今度は、殺し合いのない平和な世界だ。

今回も一生懸命練習した俺は、リーグでもそこそこのピッチャーになっていた。


スター選手のなかには、身長5メートルの外野手や火の玉を投げるピッチャー、おそらくメインキャラクターっぽい連中もいた。

関わらないようにすれば、普通に野球ができる。

二度死んだから、今度は地味なモブとしてなんとか寿命をまっとうしたい。


27歳のシーズンを迎えた。

その年は、肉体も技術も最高のコンディションで、準エースクラスの活躍をしていた。


それがまずかった。

オールスター直前、うちのチームのエースが、謎の忍者に襲われ入院したのだ。

サプライズ忍者だ。



「モッブ、君にはオールスターにでてもらう。エースの代役として頑張ってくれ」監督は言った。


「いや、彼は忍者に襲われたんでしょう。そんな人の代役なんて危険すぎます」


「これは決定事項だ。忍者に消されたくなければ、出場したまえ」



なにか物語らしきものが始まっている。なんらかの力が働いている。

不思議なほどすんなりと俺は、代役に選ばれた。


オールスターはふつうに進んでいく。

俺の出番がやってきた。1イニング投げればよい。

モブみたいな地味な見た目のバッターを2人アウトにした。あと1アウトだ。

次も、地味なバッターだ。

なんて安心したのがまずかった。


「ケケケケケッ……どいつもこいつも下手くそでゲスなぁ。おいらが本物の野球を見せてやるでゲスよ」


突如、忍者裝束をまとった気味の悪い男があらわれ、次のバッターを押しのけて打席にはいる。


「警備員さん、不審者です。対応おねがいします」俺は言った。


俺に言われるまでもなく、警備の人たちは忍者を取り押さえようとする。


「邪魔するなでゲスよ」


忍者は、紫色の毒霧を吹きつけると警備員たちは血を吐いて倒れる。


「この球場にいる観客を殺されたくなければ、おいらと野球で勝負するでゲスよ」


正統派ではなく、魔球とかが登場するタイプの物語が始まってしまったらしい。

ここは俺の出番ではない。


「監督、俺を交代して、別の、具体的には魔球を投げたり、異常な身体能力持つピッチャーにかえてください」


「モッブ、貴様もプロならば、意地を見せろ。忍者とはいえ素人になめられて悔しくないのか」


交代は無理のようだ。

俺は諦めて、マウンドに立つ。


あっさりと2ストライクをとることができた。相手の忍者は、ニタニタと笑っている。


「モッブ選手、いいボールを投げるでゲスねえ……」


これ以上、この忍者を相手にしたくはない。

俺は、外角低めに全力でストレートを投げる。


忍者はバットをふった。コツリとあたって、平凡なピッチャーフライだ。


「殺人ピッチャー返しでもくるのかと思ったぜ」


俺はしっかりと両手で構えて、ボールをとる。


「ヒヒヒ……忍法、殺人毒霧打法でゲス!」忍者は一塁ベースを踏んで言った。


ボールがグラブに触れた瞬間、ボールの縫い目から毒霧が噴射される。

俺は警備員たちと同じように、血を吐いて倒れる。


「なんという恐ろしい打法だ。

ハイスピードカメラでも捉えきれない速さで、バットの先端に毒霧を吹き付け、ミートの瞬間に忍者特有の手首の柔らかさをいかして、ボールに毒霧をしみこませる。

そして、わざとフライをうちあげ、キャッチの衝撃であたりに毒霧を撒き散らすというわけか……」監督はベンチで、メインキャラクターっぽい選手に向けて解説している。


「今度は、かませ役かよ……」


享年27歳であった。






その後は、格闘家、未来生物、アンドロイド、宇宙人……

いろんなものに転生したけど、全部27歳で死ぬ。

どうやっても死ぬ。


ためしに魔王になったとき、全部2進数で表記させるように命じて、27という数字をこの世から消したこともあった。

でも、11011歳のときに死んだ。

不便すぎると部下に、キレられたからだ。



27のことばかり考えていると、次第に俺は27になっていた。概念としての27だ。即死した。



転生しても27歳で死んでしまうと、思い悩むことが多くなり、気分は沈む。


そんなある日、俺は空を見上げた。なんとなくだ。

そこには太陽があった。いつ(日中限定)だって、太陽は俺を照らしてくれる。


俺は思った。

俺の悩みなんて、太陽に比べればちっぽけだって。太陽に俺の悩みをぶつけてすっきりしようと思った。

これまでの転生知識を活用して、宇宙船を製造し、俺は太陽に突っ込んだ。


そしたら、値9になった。

どういうことかって?

太陽はSUN、つまり、「3」だ。そこに「27」の俺がぶつかれば、27÷3となり値は「9」。


値9となった俺は、宇宙をさまよう。

どのくらい経ったのだろう、宇宙を漂う俺を見つけた知的生物は、俺を値9ではなく地球と呼ぶようになった。


長い間に、俺の中にいる微生物、多分、腸内細菌とかが知的生命体に進化し、文明的な営みをはじめた。

俺は彼らにとっての文字通り母なる大地となったのだ。


俺は地球になった。

長い旅だった。これまでの疲れがどっと押し寄せてくる。

俺はまぶたをゆっくりと閉じる。

眠ろう。俺のなかで次の「27」の育つその日まで。


~Fin~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 前半の転生先もバラエティ豊かで、後半も数学的な話になっていき、想像できない展開が面白かったです。引出しが幅広いですね。感嘆いたしました。 また、二進数の所はニヤリとしてしまいました。これは確…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ